お尋ね者
「おーい、ヴァヌサ! 客人だ!」
冒険者の男の声にヴァヌサは振り返り、そして俺と目が合った。
「モーブル、戻ったのね? それで、その方はどなた?」
「さあな。ギルドの入り口でこそこそしてやがったぜ。ヴァヌサに用があるってよ」
俺はリーリィに視線を移す。驚いたような顔をして俺をみていた。
……むしろ、驚いたのは俺の方なんだが。
「ねぇん、余所見をしないで頂戴な。わたくしに用があるんじゃないのかしらん?」
ヴァヌサと目を合わせないようにしながら、「……ギルドの脱会申請をしたい」と呟いた。
「ふぅん? あなた冒険者なの?」
「……ああ」
「拠点とする街で手続きすればいいんじゃない?」
「……できない事情がある」
「あらそう。なら、何処から来たか教えてもらってもいいかしらん?」
俺は黙る。
「……まあ、後でもいいわん。そこに座って待っていて頂戴。先にモーブルの依頼完了手続きからねぇ」
ヴァヌサは男が手に持つものを預かって、受付の奥に引っ込んでいった。
「……ははは! 呆然としやがって!」
なぜか男が絡んでくる。
「ヴァヌサは色々でけぇからなあ。でも手ぇ出そうとすると痛い目に会うからやめとけよ?」
「……痛い目?」
「ヴァヌサは男に興味ねえんだ」
「え」
初耳だ。
「それにあいつは、現役Aランク冒険者だ。手を出した男の方が返り討ちに合うぜ」
それは前にパーティを組んだ時もそうだった。ランクを維持しているということは、ノルマをこなしながらギルド所長の役割もこなしているということか。
ちなみにだが、アレスはAランクだ。ナヴィがBランク。俺がFランク……ビギナー冒険者は実力に関係なく、3年間は全員Fランクになる。A(1)+B(2)+F(6)で合計9。ギルドの基準だと、Aランクパーティはこの数字の合計が10以下になる必要がある。
勇者の箔とランクは必ずしも連動しない。理由は、冒険者ギルドが国から独立した機関だからだ。極端なことをいえば、勇者は国家認定の冒険者、ギルドのランクで選別されるのは普通の冒険者だ。だから同じAランクでも、勇者の方が待遇も信用も上だったりする。
「モーブル、計算終わったわよん。はい、一万ダリス」
戻ってきたヴァヌサが金貨一枚をピンと宙に弾いて、男の手に握らせた。
「ありがとよ」
「素材の状態が綺麗だったわねぇ。頑張りに免じて少しだけ色をつけたおいたわん」
「お! さすがヴァヌサ。太っ腹だな!」
「それでステーキでも食べたらいいわん。牛のサーロインとか」
「ステーキ……そうだな、最近食ってねえや。早速行ってくるか!」
肉を想像しているのだろう、上機嫌な男冒険者は、さっとギルドを出て行った。
「……ラフルメだとボーナスを出すのか」
思わず呟く。パルーバにいた時にボーナスの制度はなかった。少し羨ましい。
「さて、次はあなただったわねん。まずタグを見せて頂戴」
タグは冒険者の身分証明書であるペンタンドのことだ。
俺が懐から取り出したそれをヴァヌサは受け取って、
「……あなた、間抜けなのかしらん? しらばっくれるなんていい度胸ねぇ?」
一瞬だった。ヴァヌサは豊満な胸の谷間に右手を突っ込むと、取り出した魔法拳銃をカチンと鳴らして、俺に突きつけた。
「……何の真似だ」
ホールドアップしながら問い返す。
まさか、俺が魔王であることを知っているのか?
それともパルーバから俺が行方不明であることを知らされているのか?
「それはこっちのセリフよん。ギルドの情報網を舐めてはダメねぇ? お尋ね者がのこのこ現れるなんて、随分な勇気じゃなあい?」
俺のペンタンドを片手に吊り下ろしたまま、びらりとヴァヌサが突きつけてきたのは手配書だった。冒険者の個人識別に使われる番号と、俺やアレスの似顔絵が載っている。
「伝書竜で、パルーバで大量の高位の魔物が出たというニュースが回ってきたのよん。同時に、パルーバ所属の勇者パーティが戻ってこないんですってね? リーダーのアレス・ディスク、サブリーダーのナヴィア・オーディラー、そしてビギナー冒険者のゼロ・ウラウス」
「……」
「アレスとナヴィは元気かしら? あなただけがこんな遠くに来た理由。教えて欲しいわねぇ?」
「……俺のこと、覚えているのか?」
「昨日は忘れていたけれど、今朝思い出したのよん。手配書が届いたから。ゼロ・ウラウスって、あの時の童貞くんでしょう?」
「……。昨日来ればよかった」
パルーバからの伝報がそんなに早いとは。
……だが、こんな村の辺境にわざわざ伝書竜を使うものなのだろうか。
「隣の村でも、突然ドラゴンが現れて大騒ぎになったのよねえ。これが天変地異にしても、何らかの原因がありそうだわ。冒険者を穏便に脱会できると思わないで頂戴。事情を説明してもらうまで、この村を出られないと思いなさいねぇ?」
命令口調で「そこに座りなさい」と言われた直後、窓を枠ごと破って鞭のような蔦が入って来た。ぎゅっとヴァヌサの腕を絡め、銃口を俺から逸らす。
「……リーリィ、何のつもりかしらん?」
「お兄ちゃんに乱暴しないで」
リーリィは俺にくっつくように脇腹に抱きつき、ヴァヌサを睨む。
「退いて頂戴」
「やだ!」
「あなたごと撃つわよん?」
「撃つならお兄ちゃんと心中する!」
「……リーリィ、心中は困る」
それは結局死ぬということだ。軽々しく口にできることではない……というより、まず意味がわかっているのだろうか? それとも芽生えた恋心がそういう方針なのか。
「ふぅん。そういうこと……」
ヴァヌサが俺とリーリィを交互に見る。
「魔物のあなたが、会って日の浅い男にご執心とはねぇ」
実際は俺の失敗魔法のせいだが。
「ドライアドと人間の男の恋バナ、興味をそそられるところだけれど、今はギルド所長としての役割を果たさないといけないのよん。変に騒ぎを起こしたくないから人払いまでしたの。まずはきちんと話してもらえないかしらん、ゼロくん?」
「……」
なるほど。俺が半魔であることや、魔王であることは知らないようだ。
「これでもわたくしは忙しいの。待つ時間が勿体無いから、さっさと返事をして頂戴?」
……レギナに現状を連絡したい。だが、今魔言語を唱えたら撃たれかねない。
とにかく今は従うべきだろう。「わかった」と答えた。
<お知らせ>
ストーリーがだいぶぐちゃぐちゃになってきたので、近日中に大幅改稿を実施する予定です。
読み直したところ結構設定の破綻が見受けられるので、今後の投稿に繋げるためにも、ストーリーが大きく変わる可能性があります。
その場合はこの連載を中止して、新しく投稿するかもしれません。
読み直すのは大変だと思うので、変更前・変更後の内容はあらすじとして第一話より前にしばらく置いておく予定です。
追いかけてくれた読者の方々にはご迷惑をおかけしますが、より良い小説を書いて行きたいので、よろしくお願いいたします。




