6話 保護者失格
「クロノくん。わたし、今日も街に用事があるんだけど、一緒に来る?」
何やらカチャカチャという音をさせながら、クロエさんが聞いてきた。
……街か。行ってみたいな。
だけど、その前に一つだけ気になることがあるんだ。
「昨日、僕はオバケを見た。この小屋には、オバケが住み着いているの?」
「えぇ? 嘘ぉ〜。じゃあ、クロノくんが気を失ったのもそのせいだったりするの?」
「うん」
そう、僕はオバケを見た後、気絶した。
昨日は散々だったよ。お風呂でのぼせて、オバケを見て、気を失って、自分の意思で眠ることが出来なかったから、微妙にしんどい。
これからはオバケが出る時間は起きていることが無いようにする。とりあえず、これでオバケと遭遇することはなくなる……はずだよね?
「うーん、わたしは見たことがないけど……一度調べてみようか。それで、どうするの? ついて来る?」
「勿論、ついて行くよ」
「そう。それじゃあ、行こうか」
街にはどういう発見があるのか楽しみだ。
僕はワクワクしながら、小屋を出るのだった。
「――今日行くのはあそこ。【ファルア】って言う街よ。あそこにも冒険者ギルドがあるから、クロノくんの魔力の測定が出来るよ」
いつもと変わらないクロエさんの声が聞こえてくる。僕は頭だけを動かして、クロエさんが指差す方向を見た。……ああ、確かに街だ。
しかし、僕の体力は限界で、はしゃぐことが出来ない。
「……やっぱり、辛かったんじゃない。早くわたしに頼ってればよかったのに」
最もです、クロエさん。僕は後悔してる。
森を出るぐらいなら、余裕だと思っていた一時間ぐらい前の僕をぶん殴りたいよ。
何故、僕がここまで消耗しきっているか。
それは、僕の体力があまりにも無かったこと、根性が足りなかったこと。
そして、何より人が歩くような森ではなかったことだ。
森の中は人の手など一切入っていなくて、獣道が続いていた。それに森が広くて、ずっと同じ景色のようで、一生出られないんじゃないかって、思えてしまう程だった。
「もう少し、おんぶしてようか?」
「お願いします。……でも、話は聞かせて」
「任されたよ。それで、何が聞きたいの?」
「僕からは魔力が感じられないって、昨日言ってたでしょ? それなのに、どうして魔力測定の話をするの?」
「クロノくんの目には、わたしを凄い人だと映ってるんだろうけど、全部が全部正しいってわけじゃないよ」
というと、僕にも魔力がある可能性が……?
だけど、クロエさんは魔女だ。数百年生きていて、【錬金術】のエキスパート。
あまり、喜べるものじゃないな。喜ぶだけ喜んで、魔力が無いってなったら、相当落ち込むだろうし。
あ、そうだ。あの話も聞いておかないと。
「それじゃあ、魔力が無くても【錬金術】が使えるって話は?」
「……それは、まだ言えないなあ。魔力が無いって分かってからで、いいでしょ?」
「嘘つき! 昨日説明してくれるって言ったのに!」
僕はクロエさんの後頭部に頭突きした。
「ごめんね。魔力が無かったら、本当に話すから。そして、その方法で【錬金術】を使うって、クロノくんが決めたなら、わたしは……君を助けるから」
「もう……知らない!」
僕は不貞寝することにした。
起きていても、これ以上話す気にはならなかったから。
「本当にごめんね。君の保護者、失格だね」
〜???視点〜
「あ〜あ、最近、本当に暇」
いつもと変わらない日常。
だけど、ここ一ヶ月。あんただけはいない。
本当、どこに行ったのよ……!
あんたが何も言わずにどっか行くから、あたしは毎日、約束した場所に来てるの! あんたのことだから、ふらっとまたあたしの前に現れると思ってるから……っ!
「ああ、もう! 少しくらい顔出してもいいじゃない!」
近くにあった木箱に当たる。
いつもだったら、『物に当たっちゃダメだよ』と言ってくるのに、その言葉どころか、声すら聞いてない。
幸い、ここには人が滅多に立ち入らない場所だから、見られる心配はない。
今のあたしは、周りの人からどう見られてるんだろう。
「……好きな男の子に逃げられて、イラついてる女の子? ――別にあんたのことじゃないんだからねっ!」
ああぁぁぁぁぁ! もうっ!
あんたがいないだけで、こんなにイライラするなんて! 早く帰ってきなさいよ、あたしのところに!
……あんたの居場所は、あたしのところしか、ないでしょ……。
こんなに、こ〜んなにっ、可愛いあたしが待ってあげてるんだから、早く戻ってきてよ……ね?
「レイト…………」
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