5話 夜の森は怖かった
「――はっ!」
僕は目を覚ました。隣からはクロエさんの寝息が聞こえてくる。
「……やってしまった」
あれから、僕ははしゃぎにはしゃぎまくり、のぼせてしまったんだっけ。駆けつけたクロエさんに助けてもらったまでは何とか覚えてるんだけど、そこからは何も……。
ぐうぅぅぅぅぅ〜。
「お腹空いた……」
今思うと、森で目覚めてから何も口にしていない。
何か食べられる物があるかなと、寝かせられていたベッドを降りて、部屋を漁ることにした。
のだが、
「これ、何だろう」
机の上に、何かが置かれてあった。
窓から差し込む微かな月明かりだけが頼りで、何かまでは分からなかったけど、美味しそうな匂いがする。
……そういえば、クロエさんがこの小屋に入ったとき、スイッチを入れるようなカチッとした音をさせて、明かりをつけた気がする。
僕はドアの方に向かい、壁に手を沿わせて、動かして行く。すると、何かが手に止まり、押してみた。
カチッ。
「あれ? 何もつかないな」
もう一度、押してみたけど、つかない。
「もう一回!」
三度目の正直と言うことわざがあるように、何と明かりがついた。
「おおっ! これも【錬金術】か!」
その【錬金術】を使えるようになると思うと、ワクワクしてきた。
……が、一瞬で肝が冷える。
「……んぅ」
はっ! クロエさんを起こしてしまう!
クロエさんはだいぶ疲れている様子だった。起こしてしまうのはマズイ!
僕は、先程までヌクヌクしていたブランケットをクロエさんの顔にかけた。
「これで、よぅし」
後は物音を立てなければ、何も問題は無い。
スゥーと椅子を引き、そこに座って、机の上に置かれている料理を見た。
「……この料理、僕は知らないなあ。というか、これ、何?」
皿に乗ってる料理に覆い被さるようにかけられている透明の膜のようなもの。ピンッと張られてあって、水滴がついている。
「剥がせばいいのかな」
皿の裏側から料理を溢さないように剥がす。
皿に乗ってる料理は、やっぱり初めて見た。
キャベツやにんじんなどの野菜と、薄く切られたブラウンボアーの肉? が炒められていた。
僕はそれを手掴みで口に運んだ。
「これは……美味しい?」
冷たいからかな。美味しくは感じられない。
もう一度温められればいいんだけど、クロエさんに聞くのは心苦しい。
このまま食べるしかないね。
食べられない程ではないし、文句を言う物でもない。
僕は何も言わず、口に運ぶ。
しかし、ある程度食べたところで、塩辛く感じてきた。
「うーん、もしかしたら、これ単体で食べる物じゃなかったのかな」
でも、後残りも少ないし……食べよう。
残すのも勿体無いからね。
「さて、いい感じに腹が膨れた。この後、どうしよう」
とりあえず、手を綺麗にするため、浴場で見たことがある水が出るやつを捻り、汚れを流す。
この後、どう時間を過ごそうか、考えようとした途端、外からガサガサッと音がしてきた。
「もしかして、この明かりに寄って来た!?」
やばい! 本当にやばい! どうしよう!?
真っ先にやることは、明かりを消すこと!
出入り口の方にあるスイッチを押した。
だけど、既に居場所はバレていて、ガサガサッという音が止まない。
そして、あろうことか、ドンッと音がして来た。
何かが、小屋に攻撃してるんだ!
僕は窓をチラッと見てみた。
「ひ、ひえぇぇぇぇぇ。取り囲まれてるよぉ!」
ブラックキャットにブラウンボアー?
それと、デカイクマもいるよ!?
や、やばいぃ〜! このままだと、僕喰い殺されちゃう!
「く、来るなああああああああああ――?」
ブラックキャットが一斉に飛びかかって来て、小屋が吹き飛んでしまうと思ったら、ブラックキャットが吹き飛んでいった。何でぇ!?
だけど、懲りもせずにまた攻撃してきた!
それに、また吹き飛ばされちゃった!
大きいクマも手を振りかぶってきたけど、それすらも弾き飛ばしてしまったよ!
「これも【錬金術】? すっげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
興奮してしまって、うるさい声を出してしまった。
すぐ近くで、クロエさんが眠っているのに。
僕はすぐに口を塞いだけど、遅かった。
「何〜? うるさいよ〜?」
聞き慣れた声が聞こえて、起こしてしまったかと思い、後ろに振り向くと――オバケがいた。
白い布のような物で、全身を覆い隠している、正真正銘のオバケが!
「ひ、ひぃ〜! 来ないでえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――!」
「そんな悲しいこと言わないでよ〜」
ひゃあぁぁぁぁぁ! 次は人型の何かに化けた!?
白い布に覆い隠された本当の姿を見せられた!
「呪われるぅぅぅ〜…………」
僕はこのとき起きたことを生涯、忘れることはないだろう。
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