3話 魔女は心が壊れていた
ジャンルをヒューマンドラマから、ハイファンタジーに変更しました。
「固まってどうしたの?」
いや、固まるのは無理がない気がする。だって、魔王は惨虐な行為を繰り返す悪魔の王。
人間は皆、魔王に恐れ、憎んでいるんだ。
それだけ、魔王は許されないことをしてきた極悪非道の存在。
そんな存在と、クロエさんが友達の関係だって?
それじゃあ、クロエさんも悪い人ってこと?
いや、そんなはずないよ。短時間ではあるけど、クロエさんと接してきたから分かる。
クロエさんは、根っからの善者だ。
そんなかけ離れた存在なのに、どうやって友達になったと言うんだ。
その疑問を、さらにややこしくするクロエさん。
「あの子は良い魔王だよ? 先代魔王は確かに酷いことしてたけど、あの子が魔王になってから、人間と悪魔の戦争は一度も起きてないもん」
どういうことなんだ? 記憶は無いけど、何故か知識は残っている。その知識と、クロエさんの話を照らし合わせると齟齬が出てくる。
僕の知識では、今も戦争が起きているはずなんだ。
僕の前世があるとして、僕が生きていた時代より、未来なのか? この世界は。
「じゃ、じゃあ! いつ戦争は終わったの? どっちが負けて、どっちが勝ったの?」
これで、ある程度絞れることが出来る。
前世の僕が、いつの時代を生きていて、今はその何年後の世界なのか。
「ぐいぐい来られても、困るよ。戦争は百年前に終結して、人間が事実上は敗北してる」
百年!? 嘘だろう? 少なくとも百年後の世界ってこと? 百年も経てば、戦争が終わっているのも頷けるけど、そんなことよりも!
「クロエさんはその戦争を見てきたんでしょ? どうしてそんな簡単に、その事実を認められるの!」
「え? 何を言っているの? 人が負けた、そのことを認めるなんて簡単なことよ」
「簡単なことじゃないよ! 僕はクロエさんが分からない!」
――異常。
僕はクロエさんのことをそう思ってしまった。
まだ、その戦争の時代を生きていない人達なら、戦争に負けたという事実だけを教えられるだけだから、そういう意見になるのも納得は出来る。
だけど、クロエさんは戦争を生き抜いているんだ。
戦争がどれだけ醜いものなのか、理解しているはずなのに、どうしてそういう考えが出来る?
それはもう、心が壊れてるとしか言えないよ。
クロエさんは失い過ぎてしまったのかな。
だから、何も感じないんだ。
それは、あくまでも僕の勝手な解釈だけどさ。
「僕には理解出来ないよ」
「わたしにも、クロノくんがどうして、そんな辛そうにしてるのか、分からないよ」
「僕はクロエさんと一生を添い遂げることは出来ない。クロエさんが負った傷を癒してあげることも出来ないんだ」
「いいんだよ、それで……。慣れてるから、独りに、痛みに……」
「慣れてるんだったら、僕に優しくしないでよ! クロエさん……僕には嘘をつかないで」
僕は困っている人を見捨てられない性格みたいなのかな。この小さな体で、クロエさんを救えるかは分からない。だけど、精一杯やってやる。
僕はクロエさんに抱きついた。頭に柔らかい膨らみが当たっていて、変な気持ちになる。
だけど、離してなるものか! 僕から逃げ出せないように、しがみついてやる!
「クロエさん、僕は絶対に幸せにする! それで、僕が死ぬ時に、笑って見送ってもらう! そのために、クロエさんには、僕の旅について来てもらいます。拒否権は無いよ!」
「クロノくんと旅するのは、とても興味深いけど、無理かな」
「ええぇ!? さっきの断る流れじゃなくないですか!?」
僕はクロエさんからバッと離れて、ツッコミを入れた。
「ううん、そうじゃないの。まだ、この地から離れるわけにはいかないの」
「まだということは、いつか離れられるんだよね? それなら、いいや。クロエさんの用事が済むまで、僕に【錬金術】を教えてくれるなら、だけど」
「無理にわたしの都合に合わせなくても……。それに、その可能性があるだけだし、いつになるのかも分からないんだよ?」
「いいよ、それで。まだ僕は十歳ぐらいなんだ。十年経っても、二十歳。旅をするなら、それからでも遅くない。それに、僕はクロエさんと一緒に居たいから」
「そっか。クロノくんが居たら、毎日が楽しそうだね。後……【錬金術】を教えるって話だけど――君からは魔力を感じられないの」
「えぇ!? 嘘でしょ!? 魔力、無いの!?」
魔力が無いってことは、【錬金術】使えないじゃん! うわー! 考えもしなかったよ!
僕はどうしようと頭を抱えていると、
「魔力が無くても、【錬金術】が使えないわけじゃないから、そんなに落ち込まなくても……」
クロエさんは慰めてくれた。
頭を撫でてくれるのは、やっぱり嬉しいけど、それどころじゃないよ!
「でも、絶対不都合が出てくるんじゃん!」
「うーん、不都合というか、制限がついてくると言った方が適切かな」
「例えば、どんな制限?」
「そのことについては後で。もうすぐ目の前に小屋があるんだから、少し休んでからね」
そう言ったクロエさんの顔には疲れが見えていた。
今まで我慢していたのかな。
それなら、早く休ませてあげないと。
「じゃあ、休んでから『その話』、絶対に聞かせてよ?」
「分かったわ。それじゃあ、早く入りましょ」
「うん!」
クロエさんが小屋のドアノブに手をかけて、ガチャリとドアを開けた。
その先には、信じられない光景が広がっていた。
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