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1話 黒髪美女と出会って少しで告白

 日向猫の第1作目、『魔女と黒猫の2人旅 〜いいえ! 後ろから幼馴染がついてきます〜』です。

 よろしくお願いします!

「――僕って、誰ですか?」


 森の中を一人で歩く黒髪のお姉さんを偶然見つけて、数分間後ろをついて回った後、僕は話しかけた。

 第一声目はどうするか迷ったけど、今、僕が知りたいことを聞いた。


 しかし、返ってきたのは、


「……きゃーーーーーーーーーー!? オバケーーーーーーーーーー!」


 紛れもなく、悲鳴だった。

 でも、怖がっている理解が全く分からない僕は、「こ、来ないで……っ!」と、後ずさるお姉さんとの距離を詰めていく。


「どうして逃げるんですか? 僕、聞いてるじゃないですか。僕って、誰ですかって」


「し、知らないよっ! 黒髪の少年は、わたしの知り合いにはいないと思う……っ!」


 僕のことはどうやら知らないみたいだった。

 だけど、少し妙だ。僕のことを知らないのに、お化けだと騒ぐのはおかしくないかな。

 オバケって幽霊のことだろう? 確か幽霊は、死者が生前の姿で現世に居座っている存在だったはずだよ。


 もう少し、聞いてみよう。


「本当に知らない? 僕、お姉さんのこと、どこかで見たことある気がするんだけど」


 これは嘘ではないと思う。この女性からは、懐かしい感じがする。だけど、おかしな話、僕には一切の記憶が無くて、自分が何者なのかを知らない。


 この女性を見つけるより、数十分程前のこと。

 僕はこの森で目覚めた。記憶は失ったというより、何も覚えていなくて、少し寂しく感じた。


 だからこれは、僕のワガママだ。

 確かな記憶ではないけど、その寂しさを紛らわせたくて、少しイジワルをしてしまった。


 それがまさか、ここまで怖がらせてしまうとは……想定外だった。目覚めた場所の近くにあった池で顔を確認してみたけど、結構可愛らしい見た目をしていたから。


「ごめんなさい、お姉さん。怖がらせるつもりは――」


「あ、ああぁっ!? 思い出したよ! わたし、君の顔に見覚えあった! あれは、そう……猫!」


 数メートル後ずさり、頭を木にぶつけたからなのか、頭のおかしいことを言ってきた。

 僕が猫? 無いこともない。どこか違和感を感じていたのだ。人の体は二足歩行をするのに適しているはずなのに、妙に歩き辛かった。


 右手と右足が一緒に出てしまったり、真っ直ぐ歩いているつもりなのに、右や左に曲がっていたこともあった。


 だけど、もし俺が猫なのだとしたら、


「どうやって、人の姿に?」


 ということになる。もしかすると、猫から人間に生まれ変わるのは珍しいことではないのかも。

 この世界には、僕が想像し得ないことが、日常的に起きているのか……!

 

「お姉さん、お名前は?」


「クロエ、だけど……」


「クロエさん、ありがとうございました! 僕、自分のことは何も分かりませんが、目的が出来ました!」


 そう――世界を見て回るという目的が……!

 自分探しの旅というのを兼ねてもいいかも……。

 よし、そうと決まれば、さっさと森から出て――


「下がって……」


「え? どうしたの、クロエさ……猫っ! 僕を迎えに……っ!?」


「馬鹿なことを言わないの! あれは、ブラックキャット。可愛らしい見た目をしてるけど、猛獣よ」


 親近感が湧いて湧いて仕方がない。

 僕の前世は猫の可能性が大! そして、髪の色も、目の色も黒! 共通点がいっぱい。


 だけど、僕のことを怖がっていたクロエさんが、僕を守るように前に立って、ブラックキャットを睨んでいる。青空よりも、青い瞳で。


「クロエさん」


「何をしてるの! 早く隠れて!」


「う、うん……っ!」


 クロエさんが強く言うので、僕は後ろにある木に体を隠した。でも、クロエさんが何をするつもりなのかが気になって、顔だけ出す。


「……っ!?」


 僕はその光景に鳥肌が立った。

 クロエさんの手元にが微かに輝くと、そこから剣が現れて、その瞬間――ブラックキャットが両断されていたのだ!


 クロエさんは何をした……?

 剣を構え、僅かに前傾姿勢になったところまでは見ていた。だけど、そこからは見ていない。

 クロエさんとブラックキャットの距離は三メートル程あって、それを一気に詰めて、斬ったというの?


 ……凄い! かっこいい! 僕もやってみたい!


「クロエさん、僕もさっきの……っ!」


「子どもの君には無理よ。体が耐えられないもの」


「じゃ、じゃあ……剣! 何もないところから、剣出したでしょ!? あれ! 教えて!」


「【錬金術】のこと? それぐらいなら、まあ。大人しい子なのかなって思ったけど、やっぱり子どもね」


 気づくと、クロエさんの手から剣は消えていて、その代わりに手のひらサイズの結晶のような物が握られていた。多分だけど、それを【錬金術】で剣に変化させたんだろう。


 僕がそう思っているのを察したのか、クロエさんが頭を撫でながら言ってきた。


「もう、分かっちゃった? 君、頭いいね。そう、この魔晶石に魔力を流し込んで剣に変えたの」


「全然分からないよ。魔力を流し込むだけで、剣に変わるの?」


「そのことについては、今すぐに教えてあげたいとこだけど、さっきのブラックキャット。この森には沢山潜んでるの。一匹だったから対処出来たけど、囲まれたら終わり。とりあえず、安全な場所に移動しよう」


 クロエさんは謙遜しているみたいだけど、あのレベルのブラックキャットに囲まれたぐらいなら、一人で対処出来るのは、僕でも分かる。


 でも、僕に危険を及ばないようにしたいのかな。

 クロエさんの優しさが伝わってくる。


「君、何をしてるの? 早く行きましょう」


 クロエさんが僕の手を握ってきた。

 僕も無意識のうちに、手を握り返していた。

 記憶はないけど、親子……いや、姉弟ってこういうものなのかな。この関係性は、僕にとって心地の良いもので、安らぎを与えてくれるものだった。


「クロエさん、僕はあなたが好きみたいです」


「な、何言ってるの!? 大人のわたしを、か、からか、からかわないで!」


「からかってるわけじゃないんだけどなぁ」


 気持ちが伝わらなくても、別にいいや。

 僕がクロエさんのことが好き、そのことが大事。いつか、クロエさんにも伝わるだろう。伝わってくれると……いいな。


 僕の目的は世界を見て回ることになった。

 クロエさんは、ついて来てくれるかな?

 ついて来てくれたら、僕は嬉しいな。


 

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