88話目 仮契約 7
私事ですが、最近室内でチャリンコするトレーニングマシーンでペダリングしながらボカロ聴きながらソシャゲのオート周回する事にハマっています。パズドラやバンドリとかも試したのですが、やはりボタンをたまに数回押すだけの簡単ゲームの方が向いていましたね。あ、CODE:SEED-星火ノ唄-って奴なんですけど、やっている方居ますかね?ガチ勢では無いのでランクとかランキングとか低いですけど。因みにサーバーはデルタです。
ランクに差が開いているからなのか、体積の関係からなのか。何らかの理由があって分体では『オークキング』の形へと《擬態》出来なかった。本体なら可能だと気付いたので、仕方なく招集したというわけだ。
元々、人型は想定外の恩恵である。それを除いたとしても、十分勝算があったから自信を持って挑んだのだ。その勝算こそこの王形態。バフと称号を積めばステータス的に上回る。互角以上に張り合えると踏んでいたのだ。
まぁ結局アリエルさんの姿を取ってしまい、3体も殺っちゃったんだけどね。いやぁ、間に合って良かった。間に合わなかったらサクッとこの姿でやってたからね。
敵討ちと言うのならこの形を使いたい、という俺のエゴもあった。アイツくらいこの姿で殺らないと気が済まない。
『らあぁぁぁっ!!いくぜーっ!』
王形態の本体が叫ぶ。あ、俺か。なんか妙な感覚に襲われる。どちらが本体で、どちらが分体なのか。その境界線が曖昧になっているんだ。まぁ、どうでもいいけどね。
王形態の叫び声には《咆哮》の効果が加算されており、周囲に居る格下の『オーク』達を震え上がらせた。直接浴びせた筈の『ハイオーク』にはあまり効果が無かったようだが、それでも敵地であったこの空間を、一声で支配したのだから十分と言える。
ここまで震えているのならアリエルさん達を襲うような真似はしないだろう。コチラに苛立ちの表情を浮かべる『ハイオーク』にだけ集中しよう。
奴がそんな顔をしている理由は、その手で殺した相手がこうして目の前に現れたからだろう。
その怒りに任せて奴が動き出す。大きな歩で近づくと握る大剣を上に持ち上げた。どうやら以前倒した時と同じように、肩口から胸部を抉る袈裟斬りを狙っているようだ。
随分と大雑把な動きだ。剣術に精通していない俺でさえ甘いと言える振り下ろし。しかし、威力だけは人のそれを凌駕している。避けようとも王形態には俊敏性が欠ける。後ろに飛べば躱せるかもしれないが、これ以上下がるとアリエルさん達に被害が出るかもしれない。
なら、打ち合うしかないだろうっ!
アリエルさんが剣に魔力を纏わせていた事を思い出し、感覚でそれを再現する。掌から魔力を溢れさせ、その魔力を棍棒に纏わせていく。忽ち銀色の光が棍棒を包み込んでいった。【溶解液付与】とやり方は同じだったのですんなりと成功した。
強化されたであろう棍棒を下から上へと振り上げる。狙いは言わずもがな奴の大剣。踏み込み、力を込めて殴りつけた。
ガンッという石と鉄とがぶつかり合う音。しかしその接触で生み出されたのはタダの音だけではない。その接点から生じた衝撃波が風となり周囲を襲う。
弾かれた事でお互いに数歩下がった。打ち合って分かったが、どうやら力関係は均衡している。
この形は人形態と違い動き難さがあるのでステータスをフルで使えない。その反面で人形態には無いものがある。
それは、巨体と質量。特に体重は攻撃において必要事項だ。重ければ重いほど一撃に乗る威力は大きくなる。加えて踏ん張りが効くという点も良い。体重が軽ければ下からの攻撃には弱いし、正面からの攻撃でも余裕で吹き飛んでしまう。
つまり、体重は筋力だけで補えない力を生み出せるのだ。それにより奴と俺の力は互角。称号が無ければ、奴のレベルがもっと高ければ、こうはなっていなかっただろう。
『ぐっ、貴様は我に敗れている!大人しく死ねっ!』
防がれた事に狼狽したのか、想定以上の力に焦っているのか。『ハイオーク』は弾かれた大剣をもう一度叩きつけようと振り下ろしてきた。
それをもう一度弾き返さんと腰を捻って棍棒を振るう。
再度衝突したお互いの得物。再び空気を震わせる轟音と激しい衝撃波を出しながら、双方が後ろに弾かれる結果となる。
しかし奴が仰け反ったのに対し、俺は腕が後ろに下がった程度で済んだ。足の踏ん張りに差が出たようで、容赦なく追撃を頭に浮かべる。
『はっ!残念ながら、俺はアイツと違って闘る気満々だからなァっ!』
『ぬぉっ!?』
体勢を先に整えた俺本体による横からの殴打。技術の欠けらも無い力任せの一撃を、奴は咄嗟に大剣の腹で受け止めた。しかし、体勢が不安定なまま防御したせいで地から足が浮く。ふわりと浮かんだ体はそのまま横に吹き飛んだ。そこに居た『オーク』達は慌てて退避しようとしたが、びっしりと隙間なく整列していた事が仇となり、逃げること叶わず『ハイオーク』に押し潰された。
『ぐっ、くそっ!貴様ら!奴を殺せ!いや、あの人間共を殺すのだ!』
倒れたまま叫ぶ『ハイオーク』。数秒遅れて『オーク』達は慌てて動き出そうとして、止まる。命令を下していた大剣持ちの『ハイオーク』を圧倒する王形態。『ハイオーク』三体を抹殺した人形態の姿を見れば、動ける訳がなかった。
人間達──つまりアリエルさんとエリック君を襲おうと言うのなら、その前に立ちはだかる人形態を相手しなければならない。自身らを統率する上位種よりも強者に立ち向かう、という無謀に誰もが立ち止まってしまったのだ。
動いた個体は数体だった。それは、入口を塞いでいた『オーククイーン』と『オークキャスター』の数体。そいつらは位置的にアリエルさん達を襲いやすい。弱者である人間ならば勝てると踏んで飛び出したのだ。
直ぐに影狼形態を向かわせる。今のアリエルさんなら余裕そうだが、万が一と言う事もある。何かが起きてからでは遅いのだ。
しかし、杞憂だった。
アリエルさんは想像以上に強化されていたのだ。予備の剣に蒼い魔力を纏わせ、襲い来る魔物をスパンスパンと切り刻んでいた。鎧を脱いだ事も合わさり動きは非常に軽く、翻弄された奴らはまるで相手になっていなかった。騎士としての技術に力が加わり、飛躍的に戦闘能力が上昇したようだな。段々とアリエルさんの動きに磨きが掛かって行き、1分と経たずに無力化してしまった。
その姿を見た他の『オーク』達は更に萎縮してしまった。あの人間にすら勝てないと気付いたのだ。
結局、影狼形態の出番なく終わってしまう。エリック君の護衛と言う微妙な仕事しか無かったよ。
『残念だったな。あまり部下に慕われていないようだぜ。これからはもっと優しくした方がいいぞ?まぁ、これから、なんて無いけどさ』
『な、何をしている!やれ!早くそいつを...!!』
『ハイオーク』が必死に叫ぶが誰も反応しない。この弱肉強食を唄う自然界。強い奴に従うのが普通だ。従わせたければ敵より強くないと、命令を聞かないよね。むしろ、そう。俺に着いた方が生存率が上がると気付けば、その『ハイオーク』を差し出すくらいの誠意を見せるのだ。
『オーク』達は王形態が通れるように道を作った。私達には歯向かう気も、意思も力もありませんと言わんばかりの行動だ。元々敵対しなければ殺すつもりは無かった。許してやろう、そう傲慢な気概で作られた道を歩く。
『貴様らっ!!...ま、待てっ!何故貴様のような者が人間なんかの味方をする!?コチラ側だろう!?』
『あ?教えてやんねーよ。気まぐれ、とでも言おうかね』
『ま、待ってくれ!わかった!我は貴様に従おう!忠誠を──』
『要らねぇよ、そんなもん』
一言で切り伏せる。この局面で命乞い...はは、アイツならしないだろうね。力が及ばなければ潔く敗北を認め、死を選ぶだろうさ。それが良いとは言わない。生きる残る為に何もかもをかなぐり捨てる、そりゃ最善だろうよ。だが、俺はあの姿が誇り高いと思った。
『テメェにゃ、慈悲をくれてやんねぇっ!歯ァ食いしばれ!全力で叩き潰すっ!』
踏み込む。石レンガの床を踏み抜き、ズンッとこの部屋を大きく揺らす。棍棒を頭部より上に持ち上げる。薄暗いこの空間で、光り輝く棍棒は良く目立つ。
『ぐ、ぐぉぉぉぉぉっ!!』
『しゃぁぁぁっ!!』
両者は叫ぶ。
片方は僅かな可能性に賭け、両腕で以て一撃を防ぐ為に。
片方は全ての力をその一振に乗せ、敵対者の命を捻り潰す為に。
上に構えた棍棒を、その自重に力を加えて振り下ろした。
バキ、ベキッ、グチャッ。
骨が折れ、その下にある頭を潰した音。それらが耳に届いたその直後、ダァンッという地面を叩く音が鳴り響く。そして揺れ。まるで地震が起きたかのような、何かとてつもなく重たいものが落下したかなような、激しい揺れがこの空間を襲った。
揺れや砂煙が落ち着いてから棍棒を持ち上げる。するとネチョりとへばりついた血や肉が糸を引く。気持ち悪さに目線を逸らしたくなったが、我慢して『ハイオーク』を見る。
『ふぅ、これで──4体目だ』
大剣持ちの『ハイオーク』、その絶命を確認した。




