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俺は、王道ファンタジーを望む  作者: めぇりぃう
第2章 俺は、生き延びる力を望む
86/152

86話目 仮契約 5

進んでません。アリエルさん目線です

 長い銀髪を背中にゆるりと流す女性が、裸体で前に立っている。ここが銭湯や部屋ならばまだ分かるが、残念な事に古びた遺跡の最奥だ。しかしまるで気にしないと言わんばかりの仁王立ち。威風堂々とした立ち振る舞いに、恥ずかしさを微塵たりとも感じさせない。


 確かに、この状況ではその者が裸であろうが服を着ていようがどうでもいい事だ。周囲を『オーク』に囲まれ、その上位格である赤きオークと対峙しているのだから。


 しかし、なんと言ったって姿形は私そのもの。こちらが羞恥を覚えてしまう。せめて布切れでも羽織らせたかったが、そんな時間も無かった。私の姿を模したあの者──シャウル殿が人間的思考を持ち合わせていようが、やはり魔物なのだ仕方ないと、そう諦めるしかないようだ。


 シャウル殿と赤きオークの王、らしき魔物とが会話を交わす。内容は聞き取れなかったが、シャウル殿の気持ちだけが伝わってくる。これも例の契約の効果なのだろうか。


 シャウル殿が抱いている気持ちの殆どは高揚だった。思う存分力を振るってやると昂っているようだ。それは決して驕りでは無い。先程の槍を持つ赤オークの一撃を悠々と防ぎ跳ね除けた力、そして胸を貫き腕を切断して見せた奇っ怪な技。どちらをとっても化け物の成す所業だ。


 私達では得ることが叶わない。


 私達では成し得ない。


 そのような力を持つ者だからこそ、この闘いを楽しんでいる。



 闘いは始まった。


 大きな、重量感ある盾を持つ個体がシャウル殿へと駆け出した。なるほど、シンプルだが十分な威力を見込める技だ。


 体格差と体重という二要素はどう考えても相手側が優れている。人型に近い魔物である『オーク』と相手をするのなら、このハンデを如何に覆すかが戦いのミソとなる。


 そのハンデを十全に発揮する突進。シンプル故に最強とも呼べなくもないだろう。



 そして、私は目を疑う光景を目の当たりにすることになる。



 巨大な岩が高速で落下してきていた。しかし気づいた直後には消えている。この現象は投石を消したものと同じ。やはりシャウル殿が何かスキルを発動させているのだろう。あれ程大きな岩を意図も容易く消し去るなんて、どのようなスキルなのか疑問を抱くが、今はそれよりも気を向ける事がある。


 シャウル殿へと接近する盾だ。まるで動く壁のように、ただ真っ直ぐと中々の速度を維持しながら迫ってきている。それに対し、シャウル殿は避けようなんて気が見られない。


 感情が伝わってくる。これは、まさか。



「ぶつかる気か...!?」



 シャウル殿に避けるという選択肢は無かった。真正面からぶち当たるつもりだ。


 その証拠に、流れるような魔力操作で様々なスキルを上掛けしていき、ぐんぐんとステータスを上げていく。


 魔力の高まり合わせてシャウル殿の周囲に風が吹く。辺りの砂を巻き上げ、美しい銀髪までを舞い上がらせる。その時、シャウル殿の表情が見えた。遠目だから確かではないが、ニヤリと笑っていた。目に宿していたのは、獲物を前にした魔物の本能、つまりは殺戮衝動。狂気すら感じさせる、酷く嬉々とした目だった。



 そして、衝突。巨大な鉄の壁とシャウル殿は真っ向からぶつかった。



 直前にシャウル殿は前へと踏み込み飛び出していた。あの巨大な突進を耐え凌ぐのでは無い。弾き飛ばすつもりなのだ。あくまで強気に闘うのだと、その心意気が伺える。


 潰される、そう思った。



 しかし結果は私の危惧したものとは違っていた。迫り来る圧倒的な暴力をその身一つで弾き返したのだ。床にめり込んだ足がその衝撃を物語る。


 並大抵の生物では耐えられない力が加われただろうに、こうも見事に跳ね飛ばすか。それが技術の類ならまだ分かる。が、シャウル殿にそのような体術が備わっているのだろうか。全くそうとは思えない。つまり、己の身体能力とスキルだけ。


 馬鹿な、そう小さく呟いてしまう。


 やりようは幾らでもあるだろうに、なぜ最も愚かな選択肢を取るのだろうか。



 心臓が止まるかと思ったぞ...。



 私がそう思っていると、シャウル殿が振り向いた。ニカッ、と歯を見せた無垢な笑顔だ。ブイと嬉しそうにコチラにサインを送ってくる。


 あぁ、そうか。まともに見えたが彼女は確実に戦闘狂だったのだ。なんだかんだで本能に従順なのだ。()の姿を映し、親しみを覚えていたからこそ忘れていた。



 彼女は間違いなく魔物なのだと。



 ......ん?痛い?何か泣き言のようなものが聞こえた気がしたが、気の所為だろう。まさかあの顔で痛いなんて言うわけが無い。



 それからシャウル殿がまた何かを口にする。意味合いは「降伏すれば命だけは助けてやる」と言った感じ。こういう事を言うからシャウル殿が魔物だと忘れてしまうのだ。人間でも少ないぞ。自分を殺そうと襲ってきた魔物に対しそんなセリフを言うなんて。...いや、まぁ、言葉が通じないから仕方ないのだが。


 しかし、そんなシャウル殿の提案は無視された。盾を持つ個体はフラフラと立ち上がり、もう一度シャウル殿目掛けて構えをとる。それに続き杖持ちの個体も動き出す。


 杖を振るい、魔力を操り塊にしていく。その魔力の塊は徐々に変化していき、ついに火の玉と変貌した。それもかなりの熱を持つ、高威力を予想する火球だ。


 この閉鎖空間に近い場所でアレを放たれれば、シャウル殿はともかく私たちはタダじゃ済まない。


 そんな私の不安な直ぐに晴れることになる。


 シャウル殿が火球へ向けて指を立てる。その指先に魔力を溜め、放った。指先から放たれた魔力は火の玉に直撃し、パシュンッと音を立てて消滅──したと思えば、シャウル殿が度々見せるあの銀色の球体を作り出した。


 その球体が消えた時には火の玉なんてものは存在しなかった。あの銀色の液体には物質を消し去る力があるのだろう。まさか魔法の類まで消し去るとは思っていなかった。


 続いて盾持ちが突進を繰り出した。先程と同じように、盾を前面に構えた壁のような突進だ。


 また同じように弾くのか。それとも違う手で防ぐのか。



 正解は後者だった。



 シャウル殿が足を前後に開いて立つ。右腕を後ろに下げ、言葉を口にする。



「──《引っ掻く》」



 直後、シャウル殿の右腕を魔力が取り巻いた。そのまま手に重なるように大きくなり、遂には形を作った。


 それは巨大な狼の爪。魔力で構成された事を証明する、半透明の爪がシャウル殿の右手に付属していた。なんと鋭く凶暴で恐ろしく、美しい爪なんだ。万物を切り裂くと、そう謳い文句をつけられるほどの代物。人の作り出す武器よりも余程凶器だ。狩猟することに特化し、殺すことを目的として作られた自然の武器。


 それを、体全体で振るった。


 ブンッという腕が風を裂く音と、ザンッという何かが裂かれる音が耳に届く。


 そこからは目で捉えることが出来なかった。


 気づいた時には、血と肉を浴び銀髪を紅く染めたシャウル殿がそこに立っていた。


閑話、とかにした方がいいんですかねー

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― 新着の感想 ―
[一言] 王道とかほざいてるけど何が王道(笑)笑わせないで(笑)たかがオークが暴れてるだけなのにほとんど使う能なし(笑)
2020/08/02 15:41 退会済み
管理
[良い点] アリエルさんが主人公さんにビビったぽいですね。 美少女姿で痛いと泣き言は可愛いなのにwww ちなみに、契約したアリエルさんは未だ主人公さんの種族を気付きませんですか? まぁ、敵も気付けない…
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