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俺は、王道ファンタジーを望む  作者: めぇりぃう
第2章 俺は、生き延びる力を望む
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83話目 仮契約 2

「おーい、無事か?...うん?すげー高い声だな...って、俺の声か!?」



 自分の喉から出る声に違和感を覚える。


 生前男性だったため、聞き慣れていたのは低い声。自分のものとは思えないほど高い、女性的な声に驚いてしまった。



「シャウル殿...なのか!?」

「うっそ...完全に副隊長...」

「え?どーゆー意味?」



 振り向いた俺の顔を凝視していた2人が、ようやく口を開いた。数秒間フリーズしていたかと思えばこのセリフ。何を言うかと思えばこのセリフだ。命の恩人(?)に対するセリフだとは到底思えないね。


 彼らの言っている言葉の意味のうち、アリエルさんのならまだわかる。恐らく俺の肉体が変貌したことにより、俺本人(?)か怪しんでいるのだろう。その点に関しては俺も理解出来ていない。あの謎アナウンスによって唐突に形を得て、唐突に《擬態》されたのだから。結果的に強化されたのだから文句は無いが、これを異変と呼ばない訳が無い。


 エリック君のセリフは分からない。俺を見てなぜアリエルさん?その言葉をそのまま受け取り理解しようと言うのなら、俺の姿がまるでアリエルさんと瓜二つみたいじゃないか。...いや待てよ。瓜二つってなんか見に覚えがあるぞ。もしかして、もしかしたら?


 新たに影狼形態(シャウルモデル)の分体を作り出し、俺の外形を眺めてみた。


 これは、なるほど。この銀髪を除けば完全にアリエルさんだ。そのまんま、金髪を銀髪へと変えただけのアリエルさんがそこに居た。



「わははーアリエルさんに化けたのか。喰ってねーってのに、不思議だな」



 どういう訳か、俺はアリエルさんの姿に《擬態》したようだ。人型とは思っていたがまさかアリエルさんの姿になってたなんて......この胸...アリエルさんのか...。


 うん。下を向かないようにしておこう。アリエルさんの体を見ているようで、イヤに背徳感を覚えるね。



「その姿はシャウル殿の能力なのか?じゃあ、先程の契約とは...」

「契約?いや、まぁ、俺の能力(スキル)には違いないけど...」



 アリエルさんの口から契約という単語が飛び出した。どうやらアリエルさんの耳にもアナウンスが聞こえたようだ。


 つまり、先程のアナウンスにあった契約とは、アリエルさんと結ばれたものだったのか。確かに誰かと何かが繋がったような感覚があった。それがアリエルさんとの契約を結んだ証だったのか。


 アリエルさんと俺との力関係は俺の方が圧倒的に上だ。その為力を均す為にアリエルさんへと魔力を送ったのだろうか。その代償に形を受け取った、ということだろうか?うん、分からん!



「分かんねーもんを考えても仕方ないな。──って事で、お待たせ」



 アリエルさんはまだ何か言いたそうな顔だった。しかし、現状を思い出したのだろう。何も言わないでいてくれた。


 今は、そう。この『ハイオーク』をどうにかしなきゃならないのだ。コイツらを倒す事が目的なのだから。


 因みにアリエルさん達と話している間、『ハイオーク』はその槍を戻そうと力を加えていた。しかし引き留める力の方が強く戻せない。逆に押し込んでみても、踏ん張る力の方が強くて押し込めない。上に力を加えられたら持ち上げられてたかもしれないが、そこまでの脳はなかったようだ。



「ほれ、返してやるよ」



 槍を押し込むように突き返す。すると奴は後ろに数歩よろめいた。


 慣れ親しんだ人間の肉体。その効果かステータスをフルで出せるようになった。また魔力操作の精密性も上がっている。今なら更に強い《溶解液》を生み出せそうだ。


 バフさえかければ筋力も奴を上回る事が証明された。殴り合いをしてもいい気がする。



「しかし!俺は俺のプライドを取り戻す為にこの技で仕留める!」



 人差し指を奴へと向ける。その指先一点に、大量の魔力を濃縮していく。少し前とは段違いの速度で収縮された魔力は、より洗練された濃密なものとなる。



「【溶解液(スライム)──」



 指先に銀色の水球が浮かぶ。サイズはビー玉よりも小さいもの。しかしその小さな球には《オーク》一体分に相当する魔力が込められている。あの巨体をこのサイズに圧縮した、と考えればおぞましさが伝わるだろうか。



「──極細噴射(レーザー)】ッ!!」



 そして、放たれる。



 細い銀色の線。一見なんの効果も持たないような、か細い線として指先より射出される。向かう先は『ハイオーク』の心臓部。その魔石を貫かんと飛来する。


 『ハイオーク』は前回と同じように、左手で胸をカバー。右手に持つ槍を俺へと振るう。



 だから俺も、指を振った。



 レーザーは『ハイオーク』の左手に着弾。その肉がまるで水になったかのように通り抜け、レーザーは胸部に到達。その後、魔石を取り出すために円を描き、次いで右腕を断ち切るべく横に薙ぐ。


 切断された右腕。その手に握られた槍。2つは空中で細切れとなり、消えた。まるで何も無かったのだと思わせるほど、唐突に消滅した。



 『ハイオーク』から力が抜け、両膝を地に着けた時点でレーザーを辞める。無為に放出していると他に被害が出るかもしれないから。強すぎることに弊害を感じるなんて、随分と贅沢なものだね。



 魔石と肉体との接続を溶かされ、呼吸が荒くなる『ハイオーク』。心臓を抜かれても数秒は生きていられるように、魔物も魔石を抜いてから数秒、数分は生きていけるらしい。まぁ、力を失ってしまうので死んだも同然だが。


 ぺたぺたと素足の足音を立てながら、その下に寄った。



「まずは一体」



 絶命寸前の『ハイオーク』に手のひらで触れる。触れたた箇所から《溶解液》が広がっていき、完全にその肉体を銀色の液体で包み込んだ。形は半径2メートルくらいの球体。


 言うなれば【溶解液結界(スライムスフィア)】の逆バージョンだ。あれは外側に溶かす効果を持たせているが、今回は内側に溶かす効果がある。


 精度の上がった《溶解液》ならいとも容易く溶かせることも証明された。ステータス的にも、スキル的にも格段に強くなったようだ。


 ギュッと拳を握る。


 銀色の球体を縮めていく。ぐんぐんと縮んでいき、遂には拳に入る飴玉程の大きさとなった。


 拳をひらけば手のひらでコロリと転がる。


 その球をつまんで見つめる。やはり銀色の球体。透けて奥がぼんやりと見える。しかしその中に肉片は見当たらない。完全に溶かしきっているようだ。


 その球を躊躇なく口に含んだ。


 例えるなら高速で溶ける飴玉、だろうか。シュワシュワシュワシュワッと口の中で溶けていき、忽ち無くなってしまった。


 美味くない、甘くもない。


 今世で初めて感じた味覚。


 それは自身から分泌される液体で溶かされた肉という、なんとも微妙なものだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! いずれ口調を変えないのは少し残念ですね。オレ自称は可愛い女の子ぽくないだと思う。CVが有れば問題無いですけど、小説では出来ないですね。 まぁ、ともあれ、少女…
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