74話目 ボス部屋 4
誤字報告ありがとうございます···!気を付けているつもりなのですが、結構あるものでして···。今後も見つけ次第、報告して頂けるとありがたいです
遂に『オークキング』が行動を起こした。漸く、と言ってもいいほどに遅い判断だ。仮にも王を名乗る者として、もう少し早い決断を済まして欲しいものだよ。
そんな不満はさておき、今は『オーク』軍団に集中しよう。キングの一声により統率──もといビビって固まった奴らは、次の一声で騎士さん達へと目線を移していた。しかし、簡単に動けないのは俺の存在があるからか?ともかくまだ動こうとはしていない。
『一匹残らず殺すのだ!!』
3度目の声。これにより『オーク』達は走り出した。確か《王の権威》というスキルがあったな。この強制力はその効果なのだろうか。例えば、支配下にある魔物に対し命令出来る〜〜みたいな。
まぁ、どうでもいいけどね。ここからは少し緊張して事に当たらなければ。奥の手を使うつもりではあるが、その前にやれる事はやってみたい。この数を相手に戦えるのか、試しておいたほうが今後の為になるだろう。
騎士さん達へと接触するまで、残り10数秒。大群となってやってくるので、もう少しかかるかもしれない。どちらにしろ時間が無い、ということだけは確かだな。
先ずは転倒させる罠が発動される。後方からキングによる恐喝を受けた『オーク』達は、狂ったように走り出す。あまり足元も見ていなかったのだろう。少し走った先に張られた糸に気付かず、先頭に立つ『オーク』はつんのめって盛大に転んだ。
転んだ『オーク』に躓いて後ろの『オーク』は転ぶ。その後ろに続く者はどうにか止まる事が出来たが、足止めとしては完璧だった。
これで時間は稼いだ。
次に、数を減らすための策を講じる。
広範囲に掛けると言えば、以前考案した【溶解液霧状噴射】が1番だろう。器官に入れば命も刈り取れるだろうし。使う魔力量を多くして、範囲を拡大&威力増大を図っている。
もしくは《生成:糸》と《溶解液》を掛け合わせたあの技。ただこの技は殺傷能力がね、イマイチなんだ。どちらかと言うと浪漫技だから、今回は使わない事にした。
天井に配備させていた塵蜘蛛形態による、ミストの散布を開始する。天井から糸でぶら下がり、いい高さでばら撒くにはこの形態が1番だ。
これを三体、間隔を空けて配置してある。全体に均等に、煌めく銀色の霧を振り撒いた。
傍から見れば神秘的な光景だった。《溶解液》はその技の能力に反して、見た目はかなり綺麗なのだ。ラメが入ったかのようにキラキラとした銀色をしている。それが霧となり、天井から降り注ぐ様は美しいとさえ言える。
ただ、受ける『オーク』達にとっては最悪なものであったが。
「ブモォォォォッ!」
「ガァァァァァッ!?」
「グァッ、ゴホッゴホッ!」
吸い込んでしまった。その霧は皮膚を溶かし、喉を溶かし、順々に臓器を溶かしていく。時間は掛かるが殲滅戦においては有効的で、実に凶悪な技だ。こんなの、毒ガスと一緒だもんな。使っているコチラとしても、頗る気分が悪い。
だが、この数を殺るには外道の一手を打たなければならない。
全てを潰すことは出来ないだろうが、半分近い『オーク』を留める事に成功した。痛みに悶え、止まってしまえば仕留めたも同然だ。
キングへの忠誠を見せたのか、あまりミストが効かなかったのか。理由は兎も角、300体近くの『オーク』や『オークリーダー』は罠を抜けて先に進む。
多少のダメージは負っているようで、足取りはゆっくりだ。しかしそれでも、迷いなく騎士さん達へと殺意を向け、ゾロゾロと歩いていく。
気が動転していた騎士さん達も、向かってきた『オーク』達に気が付いて剣を構える。数はかなり減ったとはいえ、まだ数の差は圧倒的だ。せめて同数程度にしなければ、騎士さん達に勝機はない。
さて、ここで次の一手だ。別にここまで数を減らせば、全力交戦でなんとかなる気はする。けど、咄嗟に思い付いた作戦達が上手くいって嬉しいのだ。気分は負け無しの軍師だよ。そこで、あと1つくらいは策を出そうと思ったわけだ。
次の作戦は実にシンプル。意趣返しとでも言おうかね。
少し前に見せてくれた例の投石。アレのお陰で《アイテムボックス》の利用法に先が見えた。
俺の《アイテムボックス》は空想上のコンテナに仕舞う、というスキルだ。コンテナの大きさや数なんかは変えることが出来るので、今までは仕舞うことにだけ目を付けていた。レベルとしては高いのだが、伸び悩んでいたことに違いはない。
そんな時、投石を《アイテムボックス》にぶち込んだ事で、面白いことがわかったのだ。
《アイテムボックス》の中で自由に物を動かせる。
と言うのも、キャッチした時の運動エネルギーは残っていたのだ。コンテナの中で暴れてから、漸く止まった石を見て思い付いた。
物を中で動かして、外に投げることが出来るんじゃないか、ってね。
お気づきのとおり、これは作戦でもなんでもない。ただの趣味だ、実験だ。俺の伸び代たるスキルの応用。それを早く試したかった、それだけだ。
それで、物を動かすと言えば先程入手した新スキル、《念力》の出番となる。そもそもキャスター達の投石を見て真似てみようと思った攻撃法なのだ。一応、スキルの確認だけをしておくか。
《念力》
【魔力】を消費する。
物質に対し想像上の力を与える。
(レベル)に応じて力が上昇する。
《幻術》
【魔力】を消費する。
幻影を作りだす。
(レベル)に応じて質が上昇する。
ふむ。イメージ通りに動かせる、のかな?とにかく使ってみないと程度は分からなそうだ。ついでに見た《幻術》も同じ感じだな。
迫り来る『オーク』や『オークリーダー』を前に、かなり冷静な頭でいる。奴らの動きが随分とゆっくりに映る。これはどっちだろうか。死ぬ前に起こると言われるスローモーションか、それとも集中した時に起こるスローモーションか。
なんて、下らない事を考えるなよと目を瞑り、スキルを発動させた。
《アイテムボックス》のコンテナをイメージする。その中には日頃から集めている小石、先程入手した石が入っている。その内の小さな石を1つ掴むように、《念力》を発動させた。
感覚はある。《アイテムボックス》でのキャチボールを練習しておいたおかげだろうか、手を使わずに物を掴む、という理解し難い現象を容易に想像出来たのだ。
初めの1つで要領を得た。あとはこの感覚を《分裂》で得た複数操作に応用させるだけ。2本、3本、4本とそこまで続けばどんどんと数を増やせる。人間だった頃の手をイメージ。無数に生やして次々に石を掴んでいく。
中々の数を掴めた。これをコンテナの中で振り回す。
初めのうちは速度が遅かったのだが、慣れていくとどんどんと早くなっていく。《念力》のレベルが上がったようだ。そりゃこんな無茶な使い方をやってんだ。熟練度抜きに上がるだろうさ。
準備は整った。閉じていた目を開く。
『オーク』達は10数メートルの距離にまで来ていた。ミストの効果により『オーク』は負傷。『オークリーダー』はほぼ無傷かな。流石はリーダーと言おうか。数は30体程度だけだが、リーダーの勢いは鬼気迫るものを感じる。
騎士さん達が一矢報いてやろうと、最後の抵抗の為に動こうとしていた。んー、巻き込まれると危ないから、動いて欲しくないんだよね。まぁ、騎士さん達が動くより早く放てば良いか。
騎士さん達の傍に配置させている分体は現在2体。他の場所にも居るに入るが、流れ弾が騎士さん達へ当たる可能性があるからね。それもキャッチすりゃいい話だけど、無為に怖がらせる必要も無いでしょ。そんな訳で2体で射撃をしていく。
射撃、と言っても騎士さん達の前に立たせて乱射するだけだ。俺にエイムというものは備わっていない。下手な鉄砲かずうちゃ当たる理論だ。それに敵さんも数は多い。当たらない訳が無い!
さぁ、意趣返しといこうかっ!
《アイテムボックス》を開く。出し入れは俺の体を中心とした半径7メートルの球中なら何処でも可能。2体横に並べば騎士さん達の360度全てをカバーすることが可能だ。
勢いを与えまくった大小様々な石が礫となって飛来していく。その数は毎秒10発程。どこからとも無く、魔力の気配無しで飛び出してきた石達を、近い距離にいる『オーク』達は躱せない。それらをまともに受け、体中から血を吹き出した。そのまま膝から崩れ落ち、続く石を浴びて絶命する。
先頭に立つ奴らを仕留めればいいと思っているので、全方位にばら撒くよう撃っていく。なるべく大きな石はリーダーに向けて射出。奴ら、負傷はするけど止まろうとはしねぇじゃねぇか。
歩速は落としたが持っている棍棒で顔面を守るようにして、リーダー達は進んでくる。そしてその背を追いかけるように『オーク』も進む。
結局、仕留められたのは『オーク』だけだった。それも最初の十数体だけ。リーダーの皮膚の丈夫さと若干の知恵を舐めていた。想像よりも使えなかった事に舌打ちをしたくなる。
惨劇を目の当たりにしたのか、騎士さん達は動きを止めて居る。そんな騎士さん達に口調を荒らげながら忠告を出した。
『盾を構えて目と口を閉じろっ!』
その怒りを込めて。
天井から巨石を投下した。




