62話目 対談 2
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エリックくんとの喚き合いは数分程続き、それから嵐が去ったかのように静かとなった。お互いに言葉で殴り合い疲れ果てたのだ。...一方的に殴られ続けていた感は否めないけど、こっちだって応戦はしたつもりだ。その証拠にエリックくんの呆れ顔たるや...!確実に打ち返しは成功したと言えよう。
少し落ち着いてから周りを見てみれば、俺達の騒音にも耐えて中々目覚めない騎士さん達。未だにグースカと眠り転けているとは、本当にびっくりだ。勿論アリエルさんの力に、だ。弱すぎず、されど死に至らしめる事はせず。絶妙な力加減による気絶だったのだ。
俺も、もっと戦闘技術を高めたいと思っていた。スキル獲得しか伸び代が無い身として、スキルの使用技術を向上させる事は欠かせない。あとでその事につい相談しようかな。
上を見上げればアリエルさんの顔が映り込む。今訪ねようかなと思っていたら、アリエルさんが何か気付いたように話し始めた。
「あぁ、そうだ。言い忘れていたことがあった。シャウル殿、こちらの都合で申し訳ないのだが、隊長には見つからないで欲しい」
『隊長?』
うむ、と言いながら用意されていた簡易テントの方を指差す。どうやらその中に隊長が居るようだ。確かに小さな気配をその中から感じる。本当に小さなもので、アリエルさんの半分に満たない程度。他の騎士さん達よりも弱いのだ。そんな隊長とやらに見つかると厄介なのだろうか。
「隊長はかなり貴族脳でな。魔物を酷く嫌っている。例えシャウル殿の気を知ったとしても、決して許すことは無い。勿論、彼の許しが無ければならないという事でも無いのだが......面倒になるだけだから見つからない方が良い。シャウル殿なら余裕だろう?」
『まぁ、隠れて着いていくだけなら余裕だけどさ。手を貸せなくなるぜ?』
「そこは臨機応変に行こう。私達もそれなりに戦闘は出来る事は知っているだろう?だから、私達の手に負えない相手が現れた時だけ暴れて欲しい」
なるほど。そういえばギャーギャー五月蝿く命令していた人が居たな。高圧的な態度でムカついてたんだよね。そうか、あれが隊長だったのか。その正体がこの世界の貴族、と。それも魔物を絶対的に悪と見なす系の。確かにそんな奴に見つかれば面倒事となるだろう。俺は無害だと認められはしたが、それはアリエルさんや他の騎士達の柔軟さがあってこそだったのか。
『よし、分かった。俺は基本的に影からサポートさせてもらうよ......文字通りに』
「くっ......頼む」
あ、俺の渾身のギャグにアリエルさんが思わず吹いた!エリックくんも口を押えたし、中々良いギャグだったかな。
ふんふふん、とギャグが決まった事に機嫌よくなって、上機嫌でアリエルさんに撫でられていると、ある気配がゆっくりと近付いてきている事に気が付いた。
間違いなく『オーク』のものだ。まだ距離はあるし、迷路みたいな構造、魔除けの結界という要素があるので襲撃の危険は無いだろう。
けど、気分は害された。探知系のスキルを持つエリックくんは気付いてないのか、それともこの程度なら無視をしているのか。どちらにしても平然と火の管理に勤しむ様は、中々度胸があるなと思う。
俺が過剰に反応しているだけだとは理解している。理解しているが、森の中でこの距離に居る『オーク』はかなり危険だ。奴らに殺られる事は無いが、住居は簡単に荒らされる。そのせいで俺はまともに寝れてねーんだよ。
そこで考えた。あの不安要素を排除する方法を。
『なぁ、アリエルさん。ちょっと探知系のスキルを使っていいかな』
「探知系?......あぁ、エリックが使うやつか。それなら構わないが...」
『少し、魔物が寄ってくるかもしれないんだ。その対処は俺がやるつもりなんだけど、どうかな?』
そう、使うのは《気配察知》と魔力放出によるレーダーだ。この2つを掛け合わせて広範囲の気配探知を可能にする。加えて地形までまるっと把握する、一石二鳥のスキルなのだ。デメリットとしては放つ魔力に釣られて魔物が寄ってくる恐れがある事。まぁ、そこそこ広いが森に比べれば狭い通路。地形的な分は俺の方にある。何体来ても余裕だね。
「そうか......そうだな。確かにシャウル殿の実力を見ておきたいと思っていた。丁度隊長も寝ている今がその良い機会なのかもしれないな」
『よっしゃ。じゃ、やらせてもらうぜ』
アリエルさんの膝から離れ、来た通路へと歩いていく。通路の奥は見えないほど暗いが、《夜目》を持つ俺にとってはくっきりと見える。気配の位置的にもまだまだ視界に入る地点には居なそうだ。
見張り番をしていた騎士2人はアリエルさんの指示で下がった。その2人も俺に対して警戒する事は辞めている。何故、ここまで信用されるようになったのだろうか。彼等とは一言も交わしていないのに。狼系の従魔が多いのだろうか?
そんな事を気にしながら、更に少し離れてから魔力を溜め始めた。ちょっとずつ核へと魔力を運び、スキルに転換するように意識を向ける。
数十秒程の精神統一を終えると、この分体が持つ殆どの魔力を核に溜め込んでいた。まだ核は爆発しない。あと少し加えれば爆発するかもしれないが。
後ろで息を飲む騎士達を意識の外においやって、初めて使う《気配察知》魔力マシマシver.を発動させた。
俺を中心に魔力の波が勢い良く飛んでいく。瞬く間に《気配察知》で調べることの出来る範囲を覆い尽くす。それでも勢いは已むこと無く、グイグイと進んでいく。その速度で情報が頭に流れ込んでくるのだから、疲労の溜まる俺の脳は焼け溶けそうだ。まぁ、元々脳みそは無いけどね!
頭の中ではマップのようなものが構成されていった。 そしてそのマップ上に、点々と気配が見えるのだ。まるで迷路のようだと思っていたが、紛れもない迷路である。複雑な構造の奥に進めば確実に迷い、幾つもの行き止まりにぶち当たる。どうもその迷路に嵌っているのは我々だけではないようだ。『オーク』もかなりの数が迷路を彷徨っていた。
これではまるでダンジョンでは無いか、そう思った俺は悪くないはずだ。
広がって行く程に進行速度は落ちていく。やはり限界というものは来るようで、200キロメートル程の距離まで調べることに成功した。うん、やり過ぎた。
しかし驚く事に、これでギリギリだったのだ。『オーク』の巣を完全に暴くには。と言うのも、俺たちが侵入した入口は、『オーク』の巣へと続く門の1つでしか無かった。あと9つもの入口が森の至る所に存在していたというのだ。その全てを把握する事はできたが、想像以上の規模に驚いを隠せない。
知りたくなかった奴さんの情報と、やはり集まってくる大量の魔物。そして想定以上の範囲を探知した事による過度な疲労から足元がふらつく。俺はかなり狼狽してしまっている。
しかし、処理は任せてくれと言った手前、休む訳にはいかない。《アイテムボックス》に入れて置いた分体の1つを取り込み──《アイテムボックス》内でのスキル使用は可能なのだ──魔力を回復させる。開けたついでにこっそりと2体を外に出し、先行させて数を減らしておこう。
悪いとは思うけどアリエルさん達の前では《溶解液》を使えない。あんなの狼が使う技じゃないからな。不審に思われる行動は避けるべきだ。しかし《溶解液》こそが敵を屠る技として、俺の中では最強だという事は否めない。よって!見えないところで使いまくろうと思ったわけだ。
元々はこれ程の量──なーんか100体は居るんですけど──が寄ってくるとは思っていなかった。せいぜい数体だろうと考えていた浅はかな俺を殴りたい。疲れた頭をフル回転させ速攻で練った作戦、篤と味わえ。
因みに、これは正当防衛云々抜きに行うものとする。この状況で面倒くさくなったからでは無い。
次回はアリエルさん視点からです。あれですね、主人公の力を傍から見たらこうなりますよ、という回です




