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俺は、王道ファンタジーを望む  作者: めぇりぃう
第2章 俺は、生き延びる力を望む
54/152

54話目 そうだ、オークの拠点へ行こう 2

※※※以降騎士目線です

 夜の森をコソコソと動いていた気配。それは人間だった。薄汚れた白色の鎧を纏う8人衆。顔まで覆い隠しており、腰に剣を刺していいる。完全武装これでもかな格好で。恐らく騎士と呼ばれる役職の者達だろう。


 隠密行動には向いていない鎧のせいで、ガシャンガシャンと静かな森の中ではよく聞こえる。動きにくかろう。しかし、そこそこ身軽に動いている様に見える。どうやら運動能力が俺の知る平均的な人間よりも高いのかな。いや、身軽に動けるように作られているだけなのかな。


 そんな風に観察している。観察、しようと心掛けている。けど無理そうだ。視界に入った瞬間から近づいて行く足を止められない。




  うっわぁぁぁっ!久々(ひっさびさ)の人間だぁぁぁっ!!




 俺のテンションは爆上がりだった。久しぶりに人間を見たのだ。スライムとなってからまだ一月程だが、そろそろ孤独感が俺の心を潰そうとしていた。話せる人、これに喜ばないはずがない。


 眠気なんて瞬く間に吹っ飛び、彼等との接触を考え足に力を込め──やめた。


 このままだと敵対される可能性の方が高いと、己に残された僅かな理性が叫んだお陰である。確かに、こんな姿で踊り出れば剣を振りかざされ、そのまま無為な戦闘が始まってしまうだろう。非常に不本意であるが今接触は好ましくない。せめてスライムの形で......いや駄目だ。アレは人間にとっちゃ甘味。獲物として見られそう。


 それに気づいてしまった自分を悔やむ。今更ながら自分は魔物に産まれたんだなと悲観的に思えてしまう。人間に産まれたかった、と言う訳では無い。そこに強い思いはなかった。しかし、慣れ親しんだ人間と話をしたい、そう思うのは仕方ない事じゃないか。異世界の、とはいえ人は人。少しでもコミュニケーションを取りたかった。


 泣きそうな頭を振って起こす。今はそんな事に嘆いている場合ではない。冷静に思考を切り替えた。


 ならばどうする。考えながら結局は近づき、少し離れた所から観察する事にしていた。もちろん様々なスキルを重ねがけしている俺に気づくことはない。


 数メートルの距離まで近づいた。近接攻撃なら若干だけ射程距離外。レーザーなら届くよって距離まで来ている。騎士達は辺りの警戒こそしているが、俺の存在に気づく様子は見受けられなかった。


 ちょっと近付いた。2、3歩だけ寄る。相手側、俺の一番近くにいる騎士の射程距離には入っているだろう。その騎士をガン見しながら反応を伺う。どうやらこの距離でも気付かないらしい。


 更に近づいた。ちょいと腕を伸ばせば届いてしまう距離だ。やはり気付かない。


 もう、列に並んだ。最後尾に居た騎士の横に着いている。うーむ、どうやら本当に気付かないようだ。《潜伏》って案外と優秀なのかもしれない。


 この距離でも気づかれないと言うなら方針は決まった。この人達が何をするか見てみよう。方向的には『オーク』の拠点襲撃だと思われる。夜分遅くに失礼しまーす。突撃森の『オーク』の家、的な?


 この人達が......いや、この世界の人間がどれほど強いのかも知りたかった情報だ。まぁ、たったの8人だし目安程度にしかならないだろう。ならないだろうけど、騎士という役職は相当強い分類だと勝手に判断させていただこう。


 何故見ておきたいのか。そりゃ、人間に食われかねない種族に生まれた以上、把握しておいて損は無い。今の段階で逃走は可能だと思える。《透明化》で瞬時に視界から失せれば見失ってしまうだろうから。けど逃げられない状況も出てくるだろう。そんな時に相手の情報の有無で勝敗は分かれる。


 という訳で方針に沿っていこう。傍で戦闘観察、これで決まりだ。あわよくば助けに入って無害ですよ〜アピールをさせて欲しい。そしてあわよくば、あわよくばお話させて頂き、孤独感を晴らせていただけないでしょうか。そんな淡い期待を胸に、当初よりも軽い気持ちで『オーク』の拠点へと乗り込むのであった。




 ※ ※ ※



 私の名はアリエル・ウィルバート。誇り高い騎士の1人だ。


 現在、『回生の森』と呼ばれる、魔力の元である魔素が潤沢に溢れる森を歩いていた。最寄りの街を出てから3週間以上の探索に及び、自慢の白い鎧はかなり汚れてしまった。手入れこそしているが戦闘に次ぐ戦闘でここまで汚れてしまったようだ。背中に羽織る青色のマントも破れたり、汚れたりしてしまっている。そんな騎士が8人。皆大国『アヴリーラ』の精鋭兵達だ。各々がD+ランク相当の魔物を相手取る事が出来る実力を持ち、連携する事でC+ランク相当の魔物も討伐可能だと自負している。そんな我らの表情には森の探索のせいでかなり疲労が見られる。そろそろ限界が近い。帰還する為の余力を考えると明日、明後日には引き返さねばならないだろう。


 魔素が潤沢に溢れた森、と言った通りこの森には多くの魔物──魔素を大量に体に溜め込んだ凶暴且つ強力な動物の総称──が生息している。魔物は基本的に至る所に湧いている。平原地帯にも山岳地帯にも、その土地に適した魔物達が存在する。その中でも取り分け湧きが多い場所を魔境と呼ぶ。ここ『回生の森』も言わずと知れた魔境である。魔境も魔境、大魔境と呼んでも差し支えないだろう。それ程、多くの魔物が生息、殺し合いをしている森なのだ。


 この森には比較的弱い魔物──『リトルコアスライム』や『ホーンラビット』──から強力な魔物──代表例はドラゴン等の最強種──も確認され、力を持たない者は立ち入りさえしない。しかし、力を持ちそれなりに闘える者達なら森の浅い地点で魔物狩りをしたりしている。浅い所にはかなり弱い、縄張り争いに負けた魔物が現れるからだ。


 また魔素が多いためか、森の深くへ行けば行くほど生える薬草がかなりの効能を持つようになっている。そのためそれを採取する為に探索に潜る者達も居る。


 そんな恐怖の森であるが、人間達はそれなりに寄り添おうと努めていた。冒険者なる魔物狩り専門とも呼べる職人達の手によって、それなりの土地を人間が確保することは出来ていた事が一例に挙げられる。それがこの森の10分の1なのか、はたまた100分の1なのかは分からない。この森は人間では計り知れない面積を持つ──そう言われることさえあるのだから。


 広く深い大森林。ピンからキリまでの魔物が住みいるこの森だが、内部の凶悪さも中々だが位置も中々厄介なものであったりする。


 この森は3つの大国の境界線にどっかりと位置しているからだ。正確には、この森を囲むように大国が作られていった、と言うべきか。位置の関係故か毎年のように領土の取り合いになっていたりする。もちろん、未開の土地の方が圧倒的に多く、人では立ち入る事が不可能な領域故に何処がその土地を取ろうが関係の無い問題である。


 そんな無意味な領土の取り合いが今回の目的──な訳が無い。


 今回の探索の目的、それは『オーク』の大量繁殖。この時期が『オーク』の繁殖期となるため、私たちには毎年付近の街を警備する役目が与えられている。街には魔物の侵入を阻む壁があり、大抵の魔物ならどうとでもなる。しかし、戦う術を持たない者も多いため、万が一ということもある。警戒レベルを少しでも上げておかなければならないのだ。


 しかし、今年の繁殖期が異常だという情報が入った。もちろん悪い意味で。どうやら例年より大量の『オーク』が見られ、少なくない被害が出てきているらしい。100体以上に登る『オーク』の群れが移動していたのを私達が確認している事から、今年の繁殖期が異常だという状況に間違いない。縄張り争いが勃発しているのか、詳細は分からないが不穏な空気は漂っている。


 その原因を探るべく、私達は『回生の森』を探索する事に決定した。そして調査開始から3週間。ようやく『オーク』が拠点としている遺跡を発見した。


 森に入ってから今までに二十数体もの『オーク』と闘い、勝利を収めている。しかし、このまま乗り込んで果たして勝てるのだろうか。この先に何十もの『オーク』が居ることだろう。私達はそれらを殲滅する事は可能なのだろうか。


 不安が襲ってくる。今回の小隊の副隊長を務める身として、最善策を提示せねばならない。一旦街に戻って戦力を集めるか。いや、大軍でこの森を移動すれば少なくない被害が出る。結局少数精鋭で向かわねばならないのだろう。だが、今の私達は万全とは言えない。せめて明日、休息を取ってからの方がいい。


 私が悩んでいると、私の横に居たアルベート・ヒルリッツ隊長が口を開いた。



「行くぞ。豚共を皆殺しにするのだ!」



 隊長は貴族の三男坊。金と家の権力だけでその地位を築いている、正直に言えばあまり賢くない人だ。この3週間、一番辛かった事はこの隊長の機嫌取りか。直ぐに文句を言う隊長に辟易してしまった。


 今回も、栄光欲しさに撤退では無く前進を選ぶ。


 隊長の命令は絶対──という事でもない。しかし、迷う私ともう1人以外の5人は、隊長の言葉の通りに目を滾らせてやる気満々。狂気すら垣間見える。


 こうなってしまえば進まざるを得ない。私も精神を落ち着かせるよう、呼吸を整えるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公さん、本当によく止めましたね。可能性が高いところか、ほぼ確実に襲われそうな気がします。
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