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俺は、王道ファンタジーを望む  作者: めぇりぃう
第1章 俺は、安定した生活を望む
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46話目 オークオークオーク5

 ピロリンという電子音が鳴り響く。それは『オークリーダー』の死を、俺の勝利を指している。勝った、今はその余韻に浸りたい。けどそんな余裕は無いかもしれない。


 後ろには『影狼(シャウル)』が居るから。


 魔力は殆ど切れているけど勝てるとは思う。瀕死の一体と負傷している一体。戦いたくは無いけど簡単に殺れそうだ。


 まだ動けそうな一体が吠える。



『カンシャスル...我ラノ皮ヲ被ルモノヨ』



 なんか、そんな風に聞こえてしまった。空耳かな?『棘狼(スパルフ)』の時もそんな言葉が頭に流れたんだけど...これって幻聴かな。でも、確かに警戒はされてるんだ。完全な対立はしていないけど、信用に値するものでは無い。そんな態度を感じる。


 幻聴らしきものを信じよう。恐らく《言語理解》が関与しているのだ。そう判断した俺は意志を込めながら吠える。



『そこに転がる3体はくれてやる。このデカブツだけは貰うがな』



 貰っても困るかもしれないけど、狼って肉食動物だったはずだし食べることは出来るだろう。今更『オーク』の3体程度、捨てても大した損じゃない。それなら格好良く恩を振り撒くった方がいいと決定された。


 流石に『オークリーダー(デカブツ)』はやれないけどね。この肉は俺の多大な経験値であるからだ。今回の戦いを経て、もう少しレベリングはしておいた方がいいと身に染みて感じた。コイツ一体でマックスになる訳が無いし、そこまで上がる事も無いだろう。程よくレベルアップ出来ると思い、報酬としてコレだけは頂いていくつもりだ。



『…...タスカル』



 少しだけ驚いた。魔物から感謝の言葉を頂いたのは恐らく3度目。前2つは単純な感謝であった。それはそれで驚きものであるが、確かに魔物とて生きているのだ。感謝くらいするだろう。しかし、ここまで『申し訳ない』という思いが込められるものなのか。過酷な自然界で生きていく者達として、中々珍しい気がする。


 俺は感心しながら『オークリーダー』の死骸を《アイテムボックス》へと放り込んだ。これで今日の狩り(延長戦)も終了だ。この分体には殆ど魔力が無い。戻すのは手間だし、消しても問題ないだろう。



『気にすんな。ただの気まぐれだ......じゃあな、次に会う時は敵かもしんねーけど』



 その言葉を込めた吠え声を残し、俺は影狼形態(シャウルモデル)の分体との接続を切った。




 ※ ※ ※




 2匹の『シャドウウルフ』はドロドロに溶けて消えてしまった何者かが居た場所を見つめていた。突然現れ、そして消えた謎多きもの。見た目こそ同類であるが漂わせる雰囲気や匂いは別物であった。


 死を覚悟していた2匹。転がる3体の『オーク』の死体に視線を移す。


 自分達が苦戦し追い詰められた『オーク』を、たった1匹で圧倒して見せたあの者。放たれた奇怪な技によって、いとも容易く命を刈り取ってしまった。その技は緻密な魔力の塊。《引っ掻く》一つ取ってみても、我らでは決して到達出来ない熟練された技であった。


 恐ろしい。あれは化け物だ。自分達とは一線を画す化け物。全くもって底が見えなかった。今でさえあれほどの魔力を有していると言うのに、この先に成長があるのかと考えるだけで...。敵対なんてしたくない。助けられたという恩もある。敵対するくらいなら死ぬ方がマシ、それ程の者であった。


 弱肉強食が当然となるこの自然界で、あの者は何処か余裕を持っている。我らが生きる世界の先を見据えているかのようだ。


 だから思ってしまう。


 この森には今、かつてない混沌が広がっている。例年より『オーク』の繁殖が激しいのだ。いや、それだけならまだ良い。同じレベルの敵が増えるだけならどうとでもなる。しかし、例年では数体しか見られていない『オークリーダー』も多く発見されている。その上の存在である『オークキング』が現れたのだろう。アレは厄災だ。一体で我ら『シャドウウルフ』の群れを壊滅させ、食い尽くしてしまう。


 このままでは『オーク』達によってこの森ごと食われてしまう。幾ら我らが抵抗しようとも、奴らの捕食は止められない。奴らは個々での力を持ち、数という力も持つのだから。今や殆どの生物が『オーク』によって食い滅ぼされた。


 その矛先はあの者とて例外ではない。あれほど濃密な魔力は『オーク』にとって至高の食物となるだろう。戦火は既に広がり、あの者が住む領域(テリトリー)にまで及んでいるはずだ。しかし『オークリーダー』でさえ単独で討伐してみせるあの者なら、太刀打ち出来るかもしれない。『オーク』の波を跳ね除けてみせるかもしれない。



 あの者はこの森を侵食する混沌を鎮めるか広げるか。それは誰にも分からない。ただ我らは、あの者がこの森を救ってくれると言うのなら。如何なる助けも厭わないであろう。



 あの者が我らの、この森の味方になってくれることを祈っている。そして願わくば、我らを従わせる主となってこの森を──


 『シャドウウルフ』はそれ以上の思考を辞めた。強き者に従いたいという本能を嫌ったのではない。願わなくともその未来が訪れる予感がしたからだ。


 そして『オーク』三体をどうするかについて考えるのであった。




 ※ ※ ※




 ぶぇっくしょんっ!ズズッ...なんか、噂でもされたかな。何処かで過度な期待をされたような気が......いや、そんな訳ないか。


 ま、気のせいだろ。スライムでもくしゃみが出ることに驚いてしまうが、あまり気にしても仕方ないからな。


 『オークリーダー』の死体を前に、2体の分体を配置している。『オーク』よりも大きな肉体。ギリギリだったけどよく倒せたなぁ、と改めて感心してしまう。


 感慨に浸ることしばしば。とりあえず食べていこうと思い、分体達を動かし始めた。


 やることはいつもと変わらない。皮膚が分厚く《溶解液》のかかりが悪いが溶かせないこともない。ちょっとずつその肉を取り込んでいく。


 肉を取り込み、経験値と魔力を得ながら今日の戦闘を振り返る。


 色々と改善点はある。けど、今のままでも良いかなと思っている。と言うのも、事前に考えておいても咄嗟には出来ない事が多いからだ。レーザー、ミスト、エンチャントの3つくらいは慣らしておくべきだが、それ以外はその場その場でやりようがある。備えあれば憂いなし、だけど頭がいっぱいになってちゃ駄目だもんな。俺は元々良い方じゃなかったし。あとは、お役御免に近いアーマーの改良くらいはしておこうかな。


 そう簡潔に纏め、今日の見直しを終了させた。


 それから黙々と肉を喰らっていく。巨大な上に硬い肉を全て取り込む為にはかなりの時間を要するだろう。今日中には終わらないかなぁ、とため息を吐きながら作業を続けていく。




 ※ ※ ※




 日が沈み月が登る。今更だがこの世界には月が3つあるようだ。いや、俺が月と呼んでいるだけで月とは別の衛星な気もするけど...ここでは月と呼ばせていただこう。俺の知識が正しければ、月は太陽の光を反射している。だから通常時は白い光なんだ。赤い月、ブラッドムーンになる条件ってのもあって、あれは赤い光だけが云々だったはず。常に赤とか青とかの色を放つ訳が無い。月の光は全て白が正解だと、赤とか青とかは異常な時だけだと、俺の常識が訴える。


 夜空を見上げる。暗い森を照らす3つの月明かり。一つは1番大きな白い月。コイツには半月や三日月という概念があるようで、今は丁度半月だ。


 次にその横に浮いている赤い月。もう真っ赤っかな血を垂らしたような紅い月だ。コイツには半月や三日月という概念が無いようで、常に満月を保っている。ここ1週間の調べなので絶対とは言えないが、あの月は自ら光を放っているのだろう。その色が紅である、と。


 次に白い月を挟んだ反対にある青い月。もう真っ青で何に例えれば良いのかも分からない蒼い月だ。コイツにも半月や三日月という概念が無いようで、常に満月を保っている。紅い月同様に自ら蒼い光を放っているのだろう。


 そんな奇っ怪な月が浮かぶ夜空を眺めながら今日の成果を確認していた。『オークリーダー』を完食することは出来ず、まだ半分近くが残っている。が、かなり美味しいお肉であった。味ではなく経験値的に。


 討伐、半分の肉だけでなんとレベルが[10/65]から[25/65]まで跳ね上がったのだ。流石は同格の魔物が持つ肉体だ。その上で『オークリーダー』は巨体だから食べ応えがある。とても美味しい経験値であった。


 残り半分を食べれば30にはなるだろう。ゆっくりした成長を、とは言いつつレベルが上がるのは嬉しい。《鑑定》で覗くステータス上には現れないが、レベルアップすれば魔力量も増える。実際にその実感があり、今回のレベルアップでかなり上限が増えたようだ。これなら次に『オークリーダー』と遭遇した時は圧勝してしまうかもな。


 さて、今宵もスキルの練習してから寝るとしますか。存外、悠々自適な生活を送っているつもりだ。こうやって運動と食事、暇つぶしに睡眠という完璧な日程。大きく見ればスローライフだよ。最高だね。



 そんなこんなで今日も一日が終わった。明日は何をしようかな。

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