44話目 オークオークオーク 3
飛ばしてしまっていた44話目です。申し訳ございませんでした。
気配の持ち主──『オーク』よりも一回り大きく、不恰好な鎧を身に纏う『オーク』──『オークリーダー』がぬっそりと正体を表した。
即座に《鑑定》を発動してステータスを見てみる。
種族:オークリーダー
レベル:41/65
ランク:C+
スキル:《体当たり Lv.4》《悪食 Lv.4》《繁殖 Lv.3》《指揮》《再生(弱)》
危険度:高
『オークリーダー』
中級魔物。
体力と筋力が高く、単体でも厄介な魔物。
肉弾戦闘能力しか持たない。
ふむ。ランクは同じだったか。レベルの差、種族の差が彼我の格差であったようだな。危険度が高いのは俺のレベルが低いから。これでも中級なんだな、という恐ろしさは感じている。上にはもっと上が居るということなのだから。
『オークリーダー』を見据えながら思案する。気配は強いのなんの、と言いながらも【溶解液極細噴射】で断ち切れない程じゃない。それで首を撥ねれば勝てない理由が無いであろう。試す価値はある。が、その前に検証せねばならない技がある。
両足に溜めた魔力をスキルを介して力に変換する。《死力》《部位強化:脚》《剛力》《硬化》。それらにより俺の前足は凶器と化す。加えて【溶解液付与】により更なる攻撃力を生み出した。
先に動いたのは俺。様子見何それで真っ直ぐと走り出した。《疾駆》のみを利用した走りでもかなりのもの。タンッタンッと彼我の距離を零にしてみせた。
単純に突っ込んだのはこの一撃以外の要素を無くすため。不意打ち、死角からの攻撃、そういった別要素を除外したかった。
『オークリーダー』は反応していた。しかし、想像以上の速度に面食らっている。
眼前に飛び上がる。それに対し両手をクロスさせての防御。咄嗟の判断にしては最善だ。流石はリーダー、と言ったところか。
俺は《引っ掻く》を発動させた。両足の爪を覆うように架空の爪が現れる。これは魔力で作られた別の爪。鋭利さが増すのだ。
魔力で作られた爪......これは《溶解液》に変換可能だ。言わば《溶解液》折り込みの爪。完成された付与と言えよう。
全力で振り切る。容赦なんてしてやらない。効くかどうかすら分からないのだ。全身全霊を以てこの一撃を振るおう。
振り抜いた。手応えは無い。あまりの鋭利さに『オークリーダー』の分厚い皮膚はするりと斬れてしまった。しかし浅かった。間合いを取り違えてしまったようだ。
鮮血が舞う。それを見ながら着地して、1度距離を取ろうと体を動かした。その瞬間、『オークリーダー』がその丸太のような足を振り抜いた。
体躯の劣る俺の体は簡単に宙を舞う。勢い良く地面から足が離れ、近くにある木に激突した。
やられた。攻撃後が一番の隙となる事を俺は理解していたつもりだった。まだ戦闘慣れしていない証拠かな。
核は無事──では無いが、まだ闘える。今ので体力が半減し、付けていたスキル達が剥がれてしまった。元々この分体の体力は俺本体の半分程なのだ。しかしそれでも、4分の1は削られている事になる。唯の蹴りでそれ程の攻撃力を持っている。それもスキルの効果無しで、だ。身体能力のみの攻撃だから恐ろしい。
よろよろと立ち上がる俺を見て、『オークリーダー』はニヤリと笑う。腕に付けた筈の傷は何故か治っている。それが《再生》か。魔力を体力に変える類のスキルだろう。俺には不要なものだな。
痛覚が無いってだけでも戦いにおいて強い。痛みによる戦意喪失だけは避けられるから。負けモードってのは変わらないけど。
さて。お返しにレーザー撃っても良いんだけど、それはつまらない。負ける寸前までいったら放ってやる。それ迄は接近戦だけでなんとかやってみたい。
『ワォォォォォンッ!!』
気合を入れるために一声吠える。負け犬の遠吠えでは無い。勝つ狼の咆哮だ。
そして跳んだ。次は真っ直ぐには行かない。木々を利用した立体機動で撹乱させ、隙を突いて一発ぶち込んでやる。
様々なスキルを起動させていく。剥がれたメッキを付け直す。
《死力》《部位強化:脚》《疾駆》《剛力》《硬化》──
重ね掛けしていく毎に体が軽くなり、木々を飛び回る速度が上がっていく。魔力はガンガンと削れていくが、それを気にしている暇はない。今はただ、ありったけをぶつけたい。
『オークリーダー』がキョロキョロと辺りを見渡して、俺の位置を把握しようと試みる。しかし俺の速度についていけず、中々捉えることが出来ずにいた。
そこを突け。
本能が命令する。がら空きの頭が後ろから見えている。その首に爪を立て引き裂けば絶命する、と。
機を逃す事はしない。魔力に余裕は無いのだ。俺は木を蹴りつけて『オークリーダー』へと飛び掛る。
音のない跳躍、接近。《透明化》《潜伏》の効果だ。俺に気づけるはずがない。
今度は間合いをしっかりと読む。深く抉り、命を刈る。
振り切った腕に残る確かな手応え。斬り裂いた、その感覚があった。先程よりも激しく舞う鮮血を浴びながら、『オークリーダー』を通り抜けるように着地した。
油断は禁物だ。着地してから跳躍して距離を作る。
残魔力は凡そ1割。これでは強化系スキルを使えない。付けていたスキル達を外していき、ほぼ素の『影狼』となった。
肉弾戦は続けられないな。先の一撃で倒れてくれればいいのだが。
「ブォォォォォッ!!」
俺の願いを無視するか如く、『オークリーダー』は声を上げる。その声には怒りが含まれていた。戦意喪失するどころか殺る気満々のようだ。
その声に俺は思わず後ろに下がってしまう。圧力が凄いのだ。格上の魔物から威嚇されるってのは、これ程までに恐ろしいものなのか。
奴は瀕死。それは間違いない。首からは大量の血が流れている。人間感覚では死んでるぞ、あれ。しかし生きている。まだ戦う意思を残している。
足取りは不安定。間もなく息絶える、それは確実だ。なのに、何故これ程までに怯えてしまうのか。生存本能は逃げろと叫んでいる。
でも、それでもだ。あと一押しで殺れるのだ。臆す必要は無い。
『オークリーダー』は止まらない。苦悶の表情を浮かべながらも、俺を道連れにしようと歩み続ける。明らかな殺気に俺は動けずに居た。




