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俺は、王道ファンタジーを望む  作者: めぇりぃう
第1章 俺は、安定した生活を望む
43/152

43話目 オークオークオーク 2


 容赦なく顔面をクロスさせるように切り裂いてから、その顔を蹴って宙を舞う。くるりと一回転してから2体の『影狼(シャウル)』の前に降り立った。



 直後、顔面に迸る地獄のような痛みに『オーク』は絶叫を上げる。その悲痛な叫び声は森に響く。


 両側にいた2体はようやく起きた事を理解して、慌てて警戒態勢をとる。その構えは非常に不恰好なものだ。素人の俺でも分かる格好の悪さ。隙だらけ、その言葉が良く似合う構え方だ。


 ここで俺は格好良く一声吠える。



『命惜しくば立ち去れっ!』



 というニュアンスを含ませて。俺の耳には『ワオォォーンッ』としか聞こえなかったケド。


 『オーク』達は俺の言わんとしていることを理解したのか、2体は後ろに1歩下がる。目の前にいるのがただの『影狼(シャウル)』では無いと気づいのだろう。表情からは恐怖が伺える。


 しかしやられた一体は怒りに震えている。やられっぱなしで終われるか、そんな感情が読み取れた。



『ブモォォォォォッ!!』



 痛みから立ち直り、雄叫びを上げながら俺へと突っ込んできた。両手を広げて突き出し、考え無しに真っ直ぐと。


 はぁ、とため息をこぼした。


 そういうの嫌いじゃないよ。好きにはなれないけど。



 爪から滴る液体が地面に落ちる。そこから煙を立てて地面を溶かし、やがて小さな穴を作る。


 地面を軽く引っ掻いてやればその爪痕に溶け抉れる。


 そんな生物に対して普通ならば近づかないであろう。


 愚か者は勢い良く射程距離へと侵入してくる。奴は俺の攻撃を読み切った、そう勘違いしているようだ。リーチの差で勝てる、そう本能で理解したのだろうか。


 あまい。あまいよ。



 確かにまだ、俺の腕が届く範囲には居ないさ。だけど、別のものなら届いてしまう。



 魔力を出しながら縦に振るう。傍から見れば空を切っただけ。しかしその実、空振った軌跡を辿るように《溶解液》は撃ち出されていた。



 ビシュッという嫌な音を立てて《溶解液》は『オーク』に着弾。走り出していた勢いだけを残して、『オーク』は左足から崩れ落ち俺の目の前で倒れ伏した。ビクンッビクンッと数回痙攣する。しかし、それ以上に動きを見せない。彼は既に絶命したからだ。



 これは先程の技でレベルアップした《溶解液》の力。出力の調整がかなり精密になったのだ。今のは飛ばす事に意識を向けた。今までは圧縮して無理やり出していたけど、それは溜めを必要としていた。これなら発動までが早い。即座に使える中距離技だ。


 やはり戦闘は楽しい。こうした成長をする時、俺は生きているのだと自覚する。生き甲斐なのだ。これが唯一の。



 死に絶えた『オーク』から目線を外し、ポカンとしている残る2体へと睨みつける。



『立ち去れっ!!』



 更に強く吠えれば、ようやく我に帰った2体は一目散に森へと逃げ帰っていく──かと思えば急停止して振り返った。


 振り向いた時に見せた表情は、俺に対する恐怖よりも更なる恐怖に包まれている。()()()()()()()に怯えているようだ。その存在が俺よりも怖い、と。


 その存在には俺も気付いている。《気配察知》でビンビンに捉えているからだ。



『ブモォォォッ!!』

『ブヒィィィッ!!』



 2体とも雄叫びを上げながら、一直線に駆け出した。進んでも死、逃げても死という恐怖から、彼等は前に進むことを選んだのか。その心意気だけは認めてやるよ。


 俺は飛び上がり両足を振るう。左右の足から銀色に近い液体が、それぞれの『オーク』の体を捉える。袈裟斬りのように胴体を斜めに斬りつけ、的確に心臓に損傷を与えた。


 慈悲は見せない。1度敵を許してしまえば、俺は魔物として闘えなくなりそうだから。敵対するなら殲滅する。見逃す、庇う余裕なんてない。


 ドサッと倒れる2体に目もくれず、視線は先に。今までに無い強き気配を放つ森の奥へと向けている。


 その気配は静かに近づいてきていた。ゆっくりと、一歩一歩近付いてきている。


 今なら逃げることも出来るであろう。


 だけど、逃げる真似はしない。


 そろそろ『オーク』には飽きてきたんだ。格下ばっかりに新技試してもストレス発散になるだけだ。同格以上の魔物に効果があって漸く使える技と言えよう。


 接近してくるやつは俺よりも強い。レベル的問題かもしれないが、格上と見て間違いない。ぞわり、と俺の黒い毛が逆立った。


 ぐるるるるぅ、と後ろから2匹の鳴き声が聞こえてくる。そいつらは俺を仲間と見なしているようで、迫ってくる敵から逃げろ、と訴えていた。


 ウルフ系の魔物ってのは仲間意識が強いのかね。これまでは敵としてしか見てなかったけど、この立場になると中々良い奴らだ。


 2匹に応えるように、俺は一声吠えた。任せておけ、と。


 やるだけやるさ。絶対に守ってみせる、とは言わない。けど寝覚めは悪いからな。


 それにどうせ分体さ。死んでも死なんよ。


 俺は静かに闘志を燃やし、四肢に魔力を込め始めた。臨戦態勢は整っている。元々偵察用の分体だから、多めに魔力は渡している。そちらも余裕があるし、最悪『オーク』の肉を食って回復するとしよう。


 俺が気合いを入れ終え、いざ開戦と構えた時。


 気配の持ち主──『オーク』よりも一回り大きく、不恰好な鎧を身に纏う『オーク』──『オークリーダー』がぬっそりと正体を表した。


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