39話目 最終進化種 3
《溶解液》を除いた使えそうなスキルを並べてみよう。
《疾駆》《風起こし》《分裂》《潜伏》《擬態》《透明化》《剛力》《部位強化:脚》《硬化》《生成:糸》《悪食》《影潜み》《気配察知》《死力》《転がる》
以上15個。ここから戦闘方法を考えると、やはりメインは《擬態》となる。これならスライム以外の魔物に成って戦える。そうすればスキルを使いやすくなるはずだ。今インストール済みの"形"も確認しておこう。
『ハントヴァイパー』
『ワイズクロウ』
『シャドウウルフ』
『スモールストロビートル』
『オーク』
『ダストスパイダー』
『スモールマンティス』
以上7つ。この中だと選ぶべきは『オーク』か『影狼』、『賢烏』の3択となるだろう。《擬態》する為の魔力は少なくない。それに隙も多くできてしまう。戦闘中に変える事は不可能だと思っていた方がいい。
考えてみて、『賢烏』は無しとなった。練習もしていないのに空なんて飛べるか。平原で始めるならともかくここは森の中。木に激突して墜落するのが関の山だ。
続いて『オーク』を却下した。体格差を無くすのには有効だろうが、筋力が足りない気がする。スライムの【筋力】パラメータは低い。このステータスがそのままで、形だけ『オーク』になるのだから真っ向勝負には持ち込めない。
となると『影狼』か。俺のステータスは【魔力】と【俊敏】が高い。形との相性としては最高なはずだ。《影操作》が無いことは残念だが、そこは俺オリジナルの戦い方を探るとしよう。唐突に狼が糸を出せば驚くだろうし。
形を決めたので直ぐに分体の内一体を『影狼』へと《擬態》させた。
黒い毛が特徴の中型犬並みの狼。目付きは鋭く、剥き出しにした牙と爪も同じくらいに鋭かった。体付きは細い。これなら素早い動きで錯乱させられそうだ。
準備は整った。憂さ晴らしの『オーク』狩りといこうじゃないか。
※ ※ ※
『影狼』となった分体の足は速かった。始めこそ四足歩行に苦戦したが、慣れれば思い通りに走れることが出来ていた。その速度がえげつない。ステータスは変わっていないと言うのに、スライム状態と比べて2、3倍近く速くなっている。体全体で風を感じ、颯爽と森の中を駆けていく。木々を避けるのは大変だったが、それを含めてとても楽しかった。
『オーク』なんてどうでも良くなったが、視界に入ったので狩っていく。
先ず、正当防衛という建前を確保するために、速度をかなり弛めて『オーク』の前を横切った。煽りへの耐性が無いのか、それとも餌を見つけて喜んだのか。『オーク』は俺の狙い通り、巨体を動かして俺へと手を伸ばした。
敵意を感じた。よし、正当防衛だ!
これはあくまで自分の良心を納得させる言い訳であり、俺が前世でこんな事をしていたわけじゃないからな。正当防衛ってのは過剰にやっちゃダメだし、自ら煽っていっちゃダメなんだぞ。
俺が魔物だから許される。
『オーク』のとろいグリッピングを躱して背後をとった。その背中目掛け、俺は渾身の《体当たり》をぶちかました。
バシンッ、と俺の体ががら空きの背中に衝突する。
負けたのは俺。『オーク』の皮膚は硬く、俺の攻撃力では突破出来なかった。軽い体は簡単に弾かれ、トンットンッと着地して距離をとる。痛みは無いので怯むこともない。しかし、こうも物理技が効かないとイライラする。何か作戦を考えねば。
頭に置いておいた有用なスキルは飛んで行った。今から打開策を考える。今までは《溶解液》1本で片付けていたから、それ以外の選択肢を考えるのが遅い。
さっきの感覚を思い出した。背中に弾かれた時、痛みは無かったが魔力が失われた気がした。つまり、体力が削られその代わりに魔力を失った、という事なのだろうか。やはり分体における体力は魔力であり、ダメージは魔力の消費に繋がってしまう。
じゃあ、使うか《死力》を。コイツでステータスを高めて正面突破...は、無理だから速度を活かしてのヒットアンドアウェイ。他に《部位強化:脚》と《疾駆》を併用させつつ、《剛力》《引っ掻く》《硬化》《鎌斬》を発動させる。《気配察知》で敵の動きを探りつつ、時たま《透明化》《潜伏》で更なる撹乱を狙っていこう。
ダメだ。頭が痛くなってきた。ここまでのスキル乱用って出来るのか?いや、やるしかない。『オーク』は待ってくれないみたいだし。
迫ってくる『オーク』を移動系スキルを用いて余裕で躱す。次は『オーク』の腹に入れてやる。背中は背骨があって防御力は高いが、腹部にはあばら骨くらいしかないっしょ。メインスキルはなんと《引っ掻く》。攻撃力を増し増しで腕を振り抜いた。
なんとも柔らかい感触。まるで豆腐を切り裂いたような手応えだ。想定していた反応では無い。
『オーク』の後ろに着地して距離をとる。そこから見れば『オーク』の脇腹は裂かれ、そこから臓腑が顔を出していた。そして、段々と『オーク』は力を失っていき、遂には地に倒れ伏した。
まじか、としか言い様がない。『オーク』は格下の魔物だ。しかし、その体力は格上並に多いのだ。その『オーク』を一撃で沈めてしまった。
スキルの併用はとにかくヤバい、という事だけは理解した。予想以上の力を持っている。その割に代償は少ない魔力だけ。
併用するにはコツがいるけど、それらは《分裂》の分体操作で慣れている。御茶の子さいさいな技であった。
俺は、新たな可能性に光明を見つけた。




