23話目 棘狼
遅れましたのに短めです。
さぁて、作戦会議といこうじゃないか。
先ずは様子見ということで分体1号を先行させる。次に2号、3号を《潜伏》させながら突入させよう。...魔力が持たなそうか?今の《潜伏》はレベルが2だから、魔力×2秒。不安だな。いざ戦闘ですとなったとき、魔力不足ですごめんなさいでは意味が無い。
よし、作戦変更。1号と2号を囮役として先行させ、3号を《潜伏》させながら後ろを続けよう。範囲攻撃されたら全滅だが、『スパイクウルフ』はどちらかと言えば単体攻撃がメインだろう。1号2号と戯れている隙を3号が突く。これが今回の作戦だ。
作戦も決まり、早速突入を開始する。
1号及び2号を、ゆっくりと進めていく。その後を3号が追う。《潜伏》は身を潜めていなければいけないため、壁を這って動かしている。スライムの特徴かもしれないが、壁や天井も簡単に登れるのだ。登ると言うより這うと言った方が適切だが。
前へ前へと進めること一分足らずで、開けた空間に出た。明かりが無いため良く見えないが、何かがいる気配を感じる。それも1つではなく、大きい気配な1つと小さい気配が3つだ。単純に考えるのなら、親一匹と子三匹だろう。
そんな予想を裏付けるかのように、俺の《鑑定》はこのステータスを捉えた。
種族:ベイビースパイクウルフ
レベル:6/25
ランク:E-
スキル:《体当たり Lv.3》《疾駆 Lv.1》《噛み付く Lv.3》《引っ掻く Lv.2》
危険度:低
『ベイビースパイクウルフ』
下級魔物。
『スパイクウルフ』の幼体。
棘が小さく柔らかい。
生体に成ると棘が生え変わると言われている。
だ、そうだ。うーむ『ベホラ(略称)』と闘った時は感じなかったというのに、何故か今、ここで襲い掛かることに忌避感を覚えている。
見えはしないが、親が餌として『ワクロ(略称)』をここへ運び込み、三匹の子狼に与えたのだろう。今は食べ終え寝ているようだが、ここで奇襲をかけることに、俺は酷く躊躇いがある。
俺の獲物を奪って行ったから報復に来たのだが、その気持ちが削げてしまった今更動物を殺すことへの罪悪感が芽生えたのだろうか。これまで何度か魔物と戦い、その命を摘み取ってきたというのに。
しかし、今までの戦いは全て反撃によるものだった。......あ、『ハンヴ(略称)』に関しては寝ている間に殺っちゃった......こほん。今までの戦いはほぼ全て反撃によるものだった。故に俺にも躊躇いがなく、正当防衛として倒し殺してきたのだ。前世では過剰防衛と呼べるけれども、この世界ではこれが正しい。
ここで『スパイクウルフ』達を殲滅すること、それはさほど難しくないと思う。普通の《溶解液》を使うも良し、【溶解液極細噴射】を使うも良し、だ。分体が3体も居れば簡単に行えるだろう。
経験値も美味そうだ。幼体の方にも肉はある。その肉も俺の経験値となるのだから。ここに大量の経験値が寝ているという目で見ることもできるのだ。
だけれども、俺が《溶解液》を撃つことはしなかった。寝ている子らを殺すことなんてしたくないし、親が居なければ子が生きていくこともできないと思ったからだ。
その考えはこれから魔物として生きていく上で、正直に言えば足枷となる。しかし、だ。俺は元人間という存在を捨てたくはない。前世で培った道徳を持っていたいと考えたのだ。もちろん、襲われたらば戦おう。幼体だろうと生体だろうと、戦う必要があるのならば、だ。...一件の例外を除いて、俺はそれを守ってきたつもりだ。これからもこのくだらない矜恃を守っていこうじゃないか。
そう格好つけながら、俺は『スパイクウルフ』の洞窟を後にした。
と、いい感じに終わったと思えば次の魔物と遭遇した。『スパイクウルフ』の洞窟を出て、俺の本体が居る方へと進んでいたら、『シャドウウルフ』という魔物とすれ違った。1体だけではなく、3体くらいいた気がする。かなりの速度で移動していた。
他のステータスを確認する間もなく通り過ぎてしまったため、俺は奴らが去っていった方を眺めていた。
そして嫌な予感を覚えた。あの方向は、『スパイクウルフ』の巣がある洞窟だ。もしかして、俺の気の所為かもしれないが、奴らは『スパイクウルフ』の巣を襲撃しようとしているのではないか?どんな意図があるかは知らぬが、その可能性が頭を過ぎる。
次の思考を始める前に、俺は分体3体を動かしていた。『スパイクウルフ』の洞窟へと向けて。
折角俺が見逃したというのに、他の奴らに食われるというのは癪だ。こちらに被害が出ることは無いのだから、少しちょっかいを出そうじゃないか。先程積めなかった戦闘経験、たっぷりと積ませて頂こう。ついでに経験値も頂こう。
次回、棘狼VS影狼×3VS悪戯粘体(分体)×3




