100話目 ララの能力 3
同じ曲を垂れ流しながら書いているのですが、今回はAyaseさんの「キラークイーン」を聴いてました······どうでもいいですね。
そう言えば100話です。出して、その数十分後に気付きました。
短文ですのでトータル文字数は少なめですが、素人ながら頑張った方だと思います。まぁ、まだまだ続きますよ。予定では7章まであるので。
御付き合いくださいました皆様、これからも是非よろしくお願いいたします。なるたけ飽きないよう努めます。······ちょっと最近ペースが落ちてますけどネ······。
顔色も悪く、痩せているので分かり難いが、長い金髪が美しい点もオリビアそっくり。強くお母さん似なのだということが分かる。
「けほっけほっ......オリビア?おかえりなさい......その子は......」
「お母さん、無理に喋らなくていいよ。この子はね、私の友達。ララって言うんだ」
「そう......頑張ったね......」
オリビアはお母さんが横たわるベッドの横に駆け寄った。よく見せようと、俺をお母さんに近付けさせる。近づくと痩せ細った肉体が良く見えてしまい、胸が苦しくなってくる。それは前世の記憶が要因しているのか。それともオリビアと契約を結んだ事で、その悲しみを分かちあっているのか。どちらかにしろこのまま放置は出来ないな。
オリビアが一通り今日あった事を話終えると、お母さんはまた瞼を閉じて眠り始めた。あまりに起きられる時間が短いという事に驚きを隠せない。そこまで深刻なものになっているのか。
眠るお母さんのベッドを直したり、顔を拭いて上げたりと、身の回りの手伝いが一段落着いた所で声を掛ける。
『オリビア......お母さんは何時からこの状態だ?』
「え、えっと......1年以上前から、だよ」
お母さんを起こしてしまわないよう、オリビアにだけ聞こえる声で小さくそう訊ねた。オリビアも俺の質問に小声で返す。
「もっと前から体調が悪くなっていって、2年くらい前に一度倒れたの。それから度々熱も出す事があって......それで、もうずっと寝たきりなの。お母さん、私を育てる為に無理してたから......」
続けて悲痛な表情で今までの経緯を教えてくれた。
なるほど。分かりたくはなかったが、分かってしまった。オリビアのお母さんは女手一つでこの子を育ててきたのだろう。お父さんの方は離婚したのか、他界してしまったのか、理由は定かではないが共に暮らしてはいなそうだ。
オリビアはお母さんの現状を自分のせいだと思っている。しかし、今の情報と俺が得た別の情報から判断して、過労が要因ではない。
『オリビア、良く聞け。お母さんは病気じゃない』
「えっ?それって、どういうこと?」
《鑑定》の結果からも、オリビアのお母さんは病には侵されていない事が分かった。残念な事に、それよりもっとタチの悪いものが棲み付いてしまっていたけれど。
『遠くからではお母さんの気配に混じっていて分からなかったが、ここまで近くに来ればよく分かる。──お母さんは、魔物に寄生されているんだ』
「ま、魔物に......寄生?どういうこと!?」
この部屋に入った時からお母さんに違和感を感じていた。気配が重なっているような気がしたのだ。その違和感はオリビアの説明で確信に変わった。こう予測すれば全ての辻褄が合う。
『下級悪魔の1柱に、他の生物に取り付いてその生命を吸い取る野郎が居る。寄生元の気配と同化するから見つけずらいのが厄介な点だな』
「そ、その......お母さんは大丈夫なの!?」
『......この悪魔は寄生元の生命力を吸い尽くす。つまり、終いには寄生元を絶命させるんだ』
「そんな......!!」
この魔物は速効性ではなく遅効性。数年かけてじっくりと体力を削り、死に至らしめる。寄生元が死んだら次の寄生元を探し、再度寄生する。外気に暫く晒されると消滅する、という性質もあるらしく、周囲から生物が消えればお終いな魔物である。何処ぞの喰いしん坊と同じだな。
しかし取り付いている間、自分は安全な場所で生命を吸い取り続けるのだから厄介な魔物だ。それなりに抵抗力があれば寄生される事も無いが、人間じゃ難しいだろうな。それこそ前線で戦うような若者ならまだ良いが、戦闘には無縁の女性とあらば先ず不可能に近い。
そして、この魔物が厄介だと言える最大の特徴は、スライムのように分裂しやがる事だ。一定の生命力が溜まると、その生命力を消費して新たな個体を作り出す。それから次の寄生元を探し、生命力を溜め更に個体を作り......これを繰り返すのだ。
数年掛かると油断していれば手遅れになる事もある。1つの街が食い尽くされた、なんて事も有り得る話だ。幸いこの街にはまだ広がっていないようだが、念入りに気配を探ってみれば、それらしき気配を十数体見つけた。そこそこの数だがまだ対処出来る範疇だなと安心する。
『泣くな。助ける方法はある』
「ほんと!?」
『あぁ......』
助ける方法は勿論ある。弱点の無い生物なんていやしないのだ。この魔物で言えば悪魔である事が弱点そのもの。強い光魔法を照射すれば対処出来る。
しかし、お母さんの状態が最悪だった。寄生したての頃ならば何も苦労すること無く排除出来るのだが、長い間潜伏されると体中に根付いてしまうのだ。そうなると、無理に剥がせば寄生元の肉体を傷付けてしまう。お母さんがまさにそれだった。
それに、とお母さんの顔を見る。長い間生命力を奪われ続け、体力がかなり弱っている。無理な事をすればそれだけで絶命しても可笑しくない。
「ララお願いっ!!お母さんをっ!お母さんを助けてっ!!」
『おう。オリビアの仰せのままに』
涙を浮かべて頼まれたのなら、助けなくちゃならないだろうさ。
するりとオリビアの腕から抜け出し、床に着地する前に人型に成った。繊細な魔力操作を行うならこの形の方が良い。くいくいと手首を回し、しっかり動くことを確かめる。
室内だからか、それともお母さんの命に関わる問題だからか、裸体について触れられることは無かった。俺も気にすること無く進めるとしよう。
右腕を前に出し、魔力を練り始める。このスキルは中々使い所に困るもので、レベル自体は5とあまり高くない。練度の少なさに不安が残るけど、やらなきゃお母さんは助からない。失敗の可能性を少なくする為にも人型になり、精錬された魔力を作る必要があった。
「《リトルホワイトスライム》が派生系、《ゴッドスライム》の《操作:神聖》──寄生虫を排除する」
呪文自体必要は無いのだが、無言でやると気味が悪いので合図として口にしている。
そんな言葉と同時に右手を眩い光が纏う。これは唯の光ではなく、文字通りに神聖な光なのだ。神聖な光ってなんなんだ、と言われても分からないが、兎に角悪魔にはめっちゃ効く。対悪魔用の最善手であろう。
「すごい......神々しい......」
横に居るオリビアが光を前にして呟いた。 普通の光魔法じゃ作れない代物だ。その分消費魔力は尋常じゃなく、人間で同じ事をしようとするなら、10人近く集まっての儀式的な形を取らなければならないだろう。俺は1体で出来るし、内蔵魔力が並外れているから余裕だけどね。
手をお母さんの腹部に当て、目を瞑り体内に潜む野郎を探る。やはり根を至る所に張っており、簡単に引き剥がすのは危険である。
「出て来やがれ!そこはお前が居て良い場所じゃない!」
オリビアのお母さんに神聖な魔力を流し始めた。膨大な魔力は体に毒。お母さんの弱った体に遠慮なく魔力を流せば忽ち死んでしまうだろう。 その為、細心の注意を払って、ゆっくり丁寧に流していく。
この神聖な魔力は魔物、特に悪魔には効果的だが、それ以外の生物には無害なものらしい。俺には理解出来ていないが、安らぎに包まれるというコメントを頂いたことがある。故に、魔力量さえ抑えればお母さんにも害は無い筈。
徐々にお母さんの表情が柔らかくなっていった。身を刺すような痛みが段々と和らいできたのだろう。なら、もう少しだ。
最後の一踏ん張りをと魔力の流れを早くした。それでも雑にすることはせず、丁寧に魔力を循環させる。
「GUIIII!!」
すると、劈くような悲鳴を上げて、お母さんの体から黒い影のようなものが這い出てきた。ネズミくらいの小さな悪魔。コイツこそがお母さんを苦しめていた元凶。名を《パラサイトイビル》という、下級だが厄介な魔物だ。寄生元であるお母さんを満たした神聖な気に当てられ、堪らず外へと逃げ出したようだな。
「逃がすかってんだっ」
窓の隙間から逃げようとした小悪魔に、右手に纏わせていた光を球にして投げ付ける。光に包まれた悪魔は抵抗もままならず瞬く間に消滅した。奴へ対する気遣いなぞなく、普通に魔力を込めたのが要因だろう。悪魔も下級なら簡単に討伐出来るのだ。
「ふぅ......これで良し、かな」
「すごい......これでお母さんは助かったの......!?」
「あぁ。あとは体力を回復させる為に時間が暫く必要だけど、体調は良くなる一方だぜ」
胸を張って答える。今まで体調が悪くなるばかりであったのは、巣食っていたアイツが存在したから。それを排除すれば健康体に近付けるだろう。食事、適度な運動、睡眠を続けて様子を見よう、とオリビアに告げた。
お母さんの顔色は随分と良くなったと思う。その事にオリビアも気付いたようで、お母さんの手を握って涙を流し始めた。
「うぅっ......ありがとう......ありがとう、ララぁっ......!!」
「あぁ......お母さんを救えて俺も嬉しいよ」
啜り泣くオリビアの肩をそっと抱いた。ベッドの上から動くことも出来ず、日に日に弱っていく母親を見ていたオリビアは不安だっただろう。助かる見込みも無く、何時死んでも可笑しくない、そんな状態でもあった。
お母さんが死んでしまう。しかし誰にも助ける事が出来ず、身に抱える不安を誰にも相談することも出来ず。日々孤独に過ごしていたのかもしれない。
お母さんが救われたという安堵から、オリビアは遂に大声を出して泣き始めた。今まで抑えてきたものが溢れ出たのだろう。その背中を優しく摩ってやり、存分に泣かせてやる。
人助けも悪くないな、とそう感じた。
でも、悪魔か......あれは住んでいる所が違う魔物だ。魔界と呼ばれる別世界でのみ産まれる魔物らしい。ダンジョン内では見掛けることもあったが、それ以外では数回しか会った事がない。というのも、此方の世界へ来る為には召喚してもらうか自力で門を作らねばならないのだ。
自力で門を作るにはかなりの力を要するらしく、最上位の悪魔でないとまず不可能。そんなヤベェ奴がこの世界に居たら、どんなに離れていても直ぐに分かるだろうさ。
つまり、召喚者がいる。下級悪魔程度なら並の人間でも十分行えるだろう。方法と才能さえあれば誰にでも行える。
しかし、召喚した意図が分からない。あの寄生虫は人に害悪しか齎さない。人間だけでなく、家畜をも殺してしまう魔物だ。惨劇を繰り広げたかったのだとしても、中々気長過ぎやしないか。1人殺すのに数年は要するのだから、それが目的でもないだろう。なら、俺には考えつかない企みでもあるのだろうか。
少なくとも悪意を持った召喚者がいる。ちょっとした悪ふざけでは無い筈だ。闇の組織的なものがあるのだろうか。秘密結社があるのだろうか。
実に、楽しみだ。
こうやって少しずつララさんの新能力を出していきます······
あと、悪魔の叫び声が微妙ですが、下級なので叫び声も下級、ということで。最上級は「URYYYYYY」か「WRYYYYYY」ですよね。




