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Ecphore―闇を巡る魔導師―  作者: 折谷 螢
二章 出立
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2、重荷

「この短期間に2回も上長会議とはな」


 朝陽が眩しい本部の廊下を早足で歩きながら、イーラがぼやいた。傍らにはレナがいて、険しい顔でずんずん前に進んでいる。


「ちくしょう、ロットの野郎……何をするつもりだ」


 レナは悔しそうに唇を噛んだ。仲間が仲間を殺して失踪。しかも、ロットは自警団を率いる存在だ。隊員たちの混乱は避けられない。


「一人で考えても無駄だ。そのための上長会議だろう。巫女の洞窟へ行った奴らも帰ってきたことだし」


 大会議室に到着し、イーラが扉を開けた。中には既に各隊の隊長、副隊長が揃って円卓を囲んでいた。当然ながら、エヴァンズとロットの席は空だ。

 部屋の隅に目を遣ると、そこにはカイとエーゼル、オーサンの他に、もう一人立っていた。自警団の制服を着た少女だ。レナもイーラも見覚えがない。


「……すまない、遅くなった」


 少女を気にしつつ二人が席に着くと、ルースが静かに立ち上がった。彼の顔にはありありと疲労が浮かんでいる。


「集まりましたか。では、報告します。緊急事態です。この状況を見て察したかと思いますが……本部の隊長が2名、いなくなりました」


 部屋の中がざわめいた。


「エヴァンズは軟禁中だろう。ロットは?」


 フィズが訊いた。彼はまだ事の顛末を知らないのだ。第四隊の副隊長、ブライアンが複雑な表情で彼を見ていた。


「エヴァンズ隊長は部屋で、自害に見せ掛けて殺害されました。犯人はナシルンに思考操作の魔術を乗せて部屋に送り込み、彼が自害するよう仕向けた。その犯人というのは恐らく……ロット隊長です」


「まさか」


「冗談が過ぎるぞ」


 各隊から一斉に声が上がり、騒がしくなった。主張の激しい隊長たちを相手に、ルースの疲労が目に見えて濃くなってくる。


「黙れ!」


 突如として、レナが怒鳴った。


「冗談もクソもあるか。遺体を検案した私に文句を付ける気か? エヴァンズの体に残された魔術の痕跡はロットの霊態と一致した。動かぬ証拠だ」


 彼女の剣幕に、部屋の喧騒は一旦静まった。


「……ありがとうございます、医長」


 ルースはレナに目礼し、続けた。


「我々は一度に二人の隊長を失いました。加えて、エイロンや反魔力同盟とも戦わなくてはならない。自警団を率いる存在がいなくなった今、たとえ第一隊の副隊長だとしても、僕がその代わりを務めることは難しい。ですから皆さんの力をお借りしたいんです」


「それは構わんが、その前に、なぜロットはエヴァンズを殺した?」


 フィズが口を挟み、ちらりとカイの方を見て、言いにくそうに続けた。


「ベイジルの件に関して、復讐したのか?」


「分かりません。ですが、無いとは言えないと思います」


「失踪については? 霊証は見当たらないのか」


「地図自体、燃やされていました。制服も認識票も隊長室に置いたまま。手掛かりはありません」


「最後にロットに会った奴は誰だ」


 フィズが見回すと、ブライアンがすっと手を上げた。


「恐らく私かと。エヴァンズ隊長が隊長室で死んでいるのを私が発見して、彼を呼びました」


「何か変わった様子は? 何を話した」


「第四隊の新しい隊長を、早急にあてがって欲しいと。変わった様子は特に」


「団長の指示を仰いではどうでしょう」


 エスカが言った。


「団長は安全と機密保持のために決して表に出ないと聞きますが、今回ばかりはそうも言っていられないのでは?」


 各隊の隊長たちが、さっと目配せし合った。彼らの間で、何か共通の考えがあるのかもしれない。


「いけませんか? 自警団全てを率いるのは、ルースには荷が重すぎます。副隊長の中でも、一番若いんですから」


「……エスカ、一旦話を聞け」


 イーラが静かに言った。


「他の副隊長たちも。この際だからはっきり言っておこう。これは隊長だけに伝えられていたことなんだが……団長は、既に存在しない」


「え?」


「彼は7年前にガベリアの悪夢で死んだ。魔導師の中で唯一『滅失の魔術』を使える人間だった。故に、彼がまだ生きていると内外に思わせる必要があったんだ。いわゆる、最後の砦だよ」


 その人が持つ魔力を全て消し去る魔術。魔導師も然り、魔力を持ち、それを利用して生きている者にとっては恐ろしい力だった。


「俄には信じられませんが……、団長なしで、よく自警団は回っていましたね」


 ブライアンが言うと、イーラは苦笑した。


「回っているように見えたか? 我々隊長を統率する団長がいないせいで、意見は食い違うし情報は上手く回らないし……相当苦労したぞ」


「それは知りませんでした。単に、隊長間の仲が悪いだけかと」


「仲は悪いさ、もちろん。最悪だ。だが、今度こそ全員が協力して事に当たらなければ、エイロンに全てを滅ぼされる」


 彼女の言葉で、部屋の空気に緊張が走った。


「では、誰が統率を取りますか。私は隊長として最古参のイーラ隊長が相応しいかと。情報量で言えば、第二隊は圧倒的ですし」


 第七隊長が言った。


「異論は無い」


 フィズが頷き、他の全員もそれにならった。非常事態においては、プライド云々はさておき、何よりも経験と冷静さが必要とされることを理解しているのだ。そうでなければ、普段戦闘に加わらない第二隊に統率を任せるはずはない。


「嫌な役目だ。言っておくが、戦闘に関してはお前に任せるぞ、フィズ。私は学生時代以降、一度も剣を握っていない。……まずは洞窟での出来事を報告しろ、エスカ」


「はい」


 イーラに指示されたエスカは、立ち上がって部屋の隅にいたカイたちを手招く。四人はおずおずとエスカの横に並んだ。


「ここにいるのが、巫女の洞窟に入った……いえ、入ることが出来た者たちです。それが意味するところは、後ほど。右から第一隊のカイ・ロートリアン、エーゼル・パシモン、第三隊のオーサン・メイ、そして新たなガベリアの巫女、セルマです」

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