生きる理由が無いので死んだのです
「・・・ここに来て結構経ったな。」
薪が燃える音と肉が焼ける音のハーモニーを聞きながらしみじみと思う。
肉が焼けた頃合いを知らせるように肉汁を垂らす。
焼けた肉を取り、豪快にかぶりつく。
かぶりついたところから肉汁が垂れ、口の中に鶏肉のような味が広がる。
食べなれた味だが、美味であることは間違いなく、一口一口を噛みしめる。
「・・・ふぅ。カエルって美味しいよなぁ。」
一匹をぺろりと食べ終えて感想を漏らす。
誰が聞いているわけでもないが、一人が長かったせいで独り言が多い。
そんなことを気にせず、もう一匹のカエルに手を伸ばそうとした時。
「アニキ~。」
高い声が耳に入る。
視線だけ動かすと、その者の姿が目に入る。
体が小さく、頭から耳が生えている。
耳の片方はかじられたように欠け、尻尾は矢印のような形をしている。
服はズボンだけ履き、腰には小さな袋をぶら下げている。
この者の容姿を一言で言えば、悪魔、いや小悪魔の様である。
「オラも獲れた~カエル!」
「そうか。じゃあそのカエルをこいつと交換してやる。」
焼けたカエルを差し出し、捕まえてきた生きているカエルを貰う。
「わ~い!ありがとうアニキ!」
「礼はいらねぇ。お前の力で取ったカエルだろ?」
「それでもありがとう!アニキ!」
礼を言い終わると同時にカエルにかぶりつく。
肉汁が豪快に垂れるが、勿体ないとは思わない。
カエルならそこら辺にたくさんいるからだ。
「美味------!!」
目を輝かせ、バクバクとすごい勢いで消えていく。
「ゆっくり食え。焼けたカエルはどこにも逃げねぇからよ。」
「は~い。」
先程までとは違い、残りのカエルを味わうようにゆっくりと食べる。
「オラ、アニキと出会えてよかったと思う!」
「そうか(まぁ俺も一人よりましだが)?」
「うん!」
火の近くにいてよかったっと今は思う。
きっと照れて、頬が赤いと思うからだ。
「さて、食うもん食ったら続きをやるか。」
「はーい!」
頭の中の想像を現実に描くように目の前の土の壁を見た。
僕は自殺をした。
享年10歳だった。
そんな若い年で!?と思う方もいるかもしれないが、僕にとって年齢など、どうでもいい。
あんな世界で生きていたくなかった。
正確に言えば、どんな世界だったとしても生きたくなかった。
生きるのに疲れたのか?と聞かれても、違うと僕は答えると思う。
何か嫌なことでもあったのか?と聞かれても、違うと僕は答えると思う。
じゃあ何で?と聞かれても、生きたくなかったから死んだとしか答えられない。
死んだことに深い意味なんてないのだ。
じゃあどんな人生だったのか?それに答えるとこうなる。
産まれた時は両親ともに大喜びし、とても可愛がられた。
両親はいわゆるお金持ちで、おそらく何不自由なく生きられたのだろう。
ところが、僕の人生はお金持ちから遠く離れた人生になってしまう。
僕が3歳のころ、両親は仕事の都合で僕を友人夫婦に預け、海外に旅立った。
仕事は順調に終わり、後は帰国だけとなった飛行機の中でハイジャックにあってしまう。
そのハイジャック犯は集団自殺を仕掛け、見事に成功してしまった。
僕の両親はそれに巻き込まれて死んだ。
僕は3歳にして両親の全財産を受け継ぎ、金持ちになってしまった。
それに目を付けた親戚は、寄ってたかって僕を引き取ると言い、奪い合いに巻き込まれた。
僕の意志は友人夫婦の元にいたかったが、権力や法律の話を持ち出された友人夫婦は声を出して抵抗することなく、僕を差し出した。
「ごめんね。」という言葉を最後に僕は友人夫婦に会うことはなかった。
それから一年がかりで僕の奪い合いが起こり、結局一組の親戚夫婦の家に預けられた。
そして、すぐに捨てられた。
簡単な話だ、僕ではなくお金が目当てだったに過ぎない。
僕を引き取り、一カ月かけて全額手に入れ、僕を捨てたのだ。
警察に保護された後、僕を育てると言っていた親戚たちは手のひらを返したように受け入れを拒否。
結局、僕ではなく皆が皆、お金が目的だったのだ。
困った僕は友人夫婦を警察共に訪ねたが、友人夫婦は済んでいた場所から消えていた。
理由はわからない。
逃げたのかもしれないし、殺されたのかもしれないし、僕ではなくお金が目的だったからいらなくなったのかもしれないし、とにかく考えたらきりがない。
だから僕は友人夫婦について考えることをやめた。
その後、警察は親戚の誰も僕を受け入れないことに悩み、結局保護施設に預けた。
保護施設にはいろんな子供がいたが、誰かと仲良くなることはなかった。
それから小学校に通い、友達?といえるような奴はいたと思うが、たいして仲良くはなかった、と思う。
小学校では特に目立たつ、イジメの標的にもならなかった。
学力も平凡を装ったし、運動もできるようでできない演技をした。
両親に感謝すべきことはルックスだ。
僕のルックスは自信をもって中の下、お世辞に言っても中の中だ。
だから女の子にチヤホヤされることもなかった。
そんな人生をこれからも歩もうとした時、僕が自殺するきっかけだったと思う言葉に出会った。
3年生の時である。
国語の時間、小テストが終わった後、時間が微妙だったこともあり先生がお話をしてくれた。
タイトルを付けるなら、“努力とは”と僕なら付ける。
先生の話はこうだった。
「私たちは努力をする生き物です。努力を大きな枠組みで言えば、努力しない生き物なんてこの世にはいません。どんな生き物も努力をしながら生きているのです。ところが、努力し続けることができるのは人間だけだと言う人もいます。私も最初は何を言っているんだ?って思いましたが、なるほど!と今では思います。私たち人間は努力をしながら生きています。何事においてもです。便利にしようと考えれば、そうなるような工夫を努力します。ですが、生き物は生きるため、いわゆる本能で生きています。本能とは生きていく上で必要だから、それを努力とは言いません。私たち人間で言えば、排泄するに努力はしませんよね?だから本当の意味で努力をするのは人間だけなんです。」
ここまで聞いても、僕には何も衝撃的なことはなかった。
そんなことは少し考えれば、わかることだろう程度にしか思っていなかった。
だが、次の先生の話が、僕に衝撃を与えた。
「ここまでが先生が聞いて、感動した話です。その後、とあることが気になり先生はある人に聞いてみたのです。努力すれば、何でもできるのか?と。その人はこう答えました。そんなことは無理だって。なぜ?と聞くと、その人は言いました。人間という生き物だけでなく、全ての生き物に言えることだが、努力しても埋められない差というものは必ず存在する。それが“才能”だ。才能一つで、十年かけて身に付けた努力の結晶を、わずか一週間で身に付ける者だっているのだ。努力ってなんだ!?って思うだろ?僕はな、努力は能力の無い奴が必死で能力のある奴に食らいつくための武器なんだと思うんだよ。才能が全てのこの世界で、生き抜き、食らいつくために努力は必要なんだよ。だが、勘違いはするなよ?才能あるやつに勝とうなんて無理な話だからな?僕たちが努力し、自身の能力を10から100にしたものを、才能あるやつは10から1000にも10000にもしちまうんだ。嫌な話だろ?だから僕は君にこう言う。自分が満足するまで努力をすればいい。努力をすることは間違いではないからな。努力を好きなだけしてもいいが、誰かに勝とうなんて思うな。努力した結果が無駄に見えちまうからな。それでもどうしても勝ちたいと思うなら、才能があることを祈れ。この話を・・・。」
この後の先生の話を僕は覚えていない。
なんか、「私は努力して教師になりました。教師になった今でも努力を続けてます。皆さんも満足するまで努力を続けてください。」的なことを言っていたと思う。
正直どうでもいい。
問題はそこではないからだ。
僕はこの話を聞いて思ったのは、僕に才能が有るか無いかである。
才能が有れば今のつまらない、人間味の無い自分から変われるんじゃないかって幻想を抱いたからだ。
それから一年がかりで僕なりに実験した結果、僕には、才能は、無かった。
悲観しなかったと言えば嘘になるが、絶望はしなかった。
これは嘘ではない。
なぜなら何となく自分には才能は無いと思っていたからだ。
才能のあるやつは才能を伸ばすために努力をするし、才能のあるやつはその物事をなんだかんだ言って愛しているのだ。
「あの時は辛かった。けど、それが今の僕を作っているんです。」っていうことを笑顔で言えるのはそういうことなんだって思う。
僕にはそう言えるものがない。
だから才能なんて無いと最初からわかっていた。
けど、何かしらの才能はあるんだって自分に言い聞かせて、できる範囲で何でも挑戦してみた。
けど、その結果が才能無しである。
ホッとしたような、すっきりしたような気持ちが僕にはあることも、最初っから才能がないって思っていた証拠である。
ここで終われば、先生の様に自分のできる範囲の努力をし、もしかしたら幸せな人生を送れたのかもしれない。
けど、そうはならなかった。
なぜなら、生きる意味を、僕は考えてしまったからだ。
そして、その結果、生きる意味がないと、僕は結論付けてしまった。
僕は、10歳の冬。
白い息を吐き、何の未練もなく、海に、身を投げた。