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魔術

009


「ふぅ......今日も疲れた......」


 私は彼との夕食を終えた後、晩にやる仕事を片付けて、お風呂を戴き、やっと自室に戻ってきた。何時もならすぐにベッドに横になっているが、今日は夕方に貰った魔術書があった。故郷を出て以来、あまり本を読んでなかったので、久しぶりに知識欲が疼いて仕方がなかった。私は一冊手に取って開いてみた。


「さて、王国の魔術はどんなのかなっと............へぇ、よくまとまってるじゃない。こんな感じなのね」


 我々の使う魔術は、元々神々が使ったとされる魔法を、自分たちで使えるようにしたのが、魔術の始まりであるとされている。創造神は魔法をもってこの世界をつくり上げた、とされているぐらいだ。

 また、魔法と魔術の違う点は、魔法は願うがままに行使できるのに対して魔術は、世界の理を知り、魔力を感じ、真なる言葉や動きを持って魔力を御さなければならない。しかしその分覚えさえすれば、だれでも扱うことができるが、魔法は神々や神々の眷属しか扱うことができない。というのが一般認識で、王国の魔術書も例に漏れず同じようなことを書いてあり、後はいくつかの簡単な魔術が記されているのみであったが、ここで重要なことに気がついた。


「やっぱり......獣人の魔術言語と違うのね。肝心の魔術の部分が読めないわ......」


 完全に読めない訳では無いが、昔故郷にいた頃に少しだけかじったことがあるだけで、所々しか読む事が出来ず、ましてや発音に関してはさっぱり知らなかった。


「......あれ? これで終わり?」


 最初に手に取った魔術書は、初心者向けだったことと、恐らく人族で使われている魔術言語が読めないこともあり、飛ばし飛ばし読んでいたので、すぐに読み終えてしまった。読めた内容はそう多くはないが、とても分かりやすいものであった。昨日まで魔術を知らなかったものでも、容易に理解できるであろう、そう思えるような本であった。初心者向けの本で、中級者向けの魔術が混じって書かれてあるような故郷の雑な本とは大違いだ。こんな所でも、王国と祖国の差を見せつけられたような気がして憂鬱になった。


「............寝よう」


 私は次の本に伸ばしていた手を引っ込めて、部屋の明かりを消してベッドに潜り込んだ。


「はぁ......」


 その夜の夢見はあまり良くなかった。


◇◇◇


 私は次の日の粗方仕事が片付いた後、彼にあるお願い事をしようと思って、彼の書斎を尋ねた。その時、彼はちょうど何か書き物をしている最中であった。


「何?魔術がみたいだと?」

「早速読んでみたのですが私、魔術をほとんど見たことがないのです。その......」

「そういえば、読めたのだな」


 彼はそう何ともない様子でぽろっと呟いた。ぶわっと冷や汗が流れる。前に王国の文字が読めない振りしといて、普通は読めるとは思わないだろう。久しぶりに本を読める嬉しさからか、彼の罠にまんまと引っかかってしまった。


「!......あ、いえその、もうs」

「いい、謝らんでいい。それに知っていたしな。それで、魔術が見たいんだろう? ほれ」


 彼はそういうと、徐に机の上にあった本を開き、パラパラと頁を捲っていたが、あるところで止まり、その紙面を指の腹で撫でた。すると彼の目の前に蠟燭の火ぐらいの大きさの火が表れた。


「これは単純な火の魔術の一例だ。魔術形態としては文章を使って魔術を起こす『文構法』だな。そして、それをそのまま声に出せば『読構法』になる。他にも色々あるが、先ずはこの二つだな」

「そのまま、ですか……」

「もちろん、魔術で使う言語でだ。で、どこまで扱えるんだ?」

「……多少読めますが、発音を知りません」


 ここで嘘を伝えても良かったけれど、私が読めることは既にばれているみたいなので、正直に話した。もう隠すメリットがなさそうなので、早く話言葉を教えて貰いたい、という腹積もりもあった。


「発音か。そうだな......その前に、早めに夕食にしないか?それと、今後魔術は寝る前に教えるとしよう」


 彼は窓の外を見ながら思案顔をしていたが、突然窓の外を見たまま固まったかと思うと、夕食にしようと言い始め、階下に連れていかれてしまった。

 何か見られて欲しくないものがあったのだろうか?まあ、あのタイミングでお目にかかれなかったのだ十中八九金庫行きだろう。そう考えると私は、先程のことを頭の隅に追いやった。先ずは夕食が先である。彼はもう既に料理場に立って作る気マンマンであった。


「ロル。今日は何にしようか?」

「あ、そういえば。この前のあれが――」


◇◇◇


 ロルにお休みの挨拶をした後、俺は自室に入る前に書斎に赴いた。真っ暗な室内を魔術で作った小さな光球がぼんやりと照らす。俺の机の上には、無機質な鳩が鎮座していた。これは魔導具の一種で、音声を届けられる伝書鳩のようなものだ。

 俺は音声を再生させるために、鳩の頭を撫でるとなんとも陽気な声が聞こえてきた。分かってはインタが毎度この声を聞くのも気が滅入る。


「や!ユージン元気にしているか?次は明後日頃に行くから逃げんなよ!」

「......はいはい、心からお待ちしております、っと」


 新たに声を記録して窓の外に放ると、魔導鳩はその金属の翼を羽ばたかせて飛び去っていった。鈍色の光沢を放つその翼は、月明かりを反射してやけに眩しく見えた。不快な気持ちになったので、窓から目を外し部屋に視線を向けると、月明かりに目が慣れたせいか、部屋が酷く真っ暗に感じた。


「あーあ、ほんっとイヤになる」

初旦那様パートです。一応一人称が「僕」ですが、ロルとの差別化をしただけなので、なんか違うなって感じたら変えます。

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