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外出2

006


 私の復讐のためにも先ず、彼がどんな立場にある人間なのかをはっきりさせなくてはいけない。今までの行動からは彼の持つものがどれほどかは見当もつかないが、立場が上の人間ほどその利用価値は大きい。

 その一歩として私の買われた本来の理由を知るのが何よりも先決だ。これまでの捨てられないためではなく、信頼を勝ち取るために。

 

 私が部屋に入ると、彼は既に席に座ってメニューを選んでいる最中であった。


「あの、旦那様......」

「ああ、いいぞ座れ」

「失礼......致します」


 私は彼に許可を取ると、彼の対面に位置するように座った。


「ロル。何がいい?好きに選んでいいからな」

「申し訳、ございません。私は字が、()()()()()ので、旦那様の方で、お決めになって下さい」

「そうか?では――」


彼はそういうと、卓上にあったベルを鳴らすと、間を開けないで店員が入ってきた。近くで待機していたのだろう。伝票とペンを手にしていた。


「ご注文を承ります」


彼は矢継ぎ早に料理を決めていくと最後にこう付け足した。さも当然のように。


「彼女にも同じものを」

「ッ!畏まりました。それではご注文を繰り返させて頂きます。先ずは――」


 店員は一瞬顔を強張らせたが、何もなかったかのように振舞っていた。対する私も驚きで声を上げそうになったが、寸でのところで押しとどまった。


「――以上の品になります。宜しかったでしょうか」

「ああ、問題ない」

「それではごゆっくり」


店員は去る間際に此方をちらりと見たが、それに気が付かなかったふりをして彼に話しかけた。


「あの」

「嫌いなものでもあったか?」

「いいえ......そうではなく」

「なら問題はないな」

「......」

「と......一つ質問があるのですが」

「なんだ?」

「旦那様は、肉料理をお食べに、ならないのですか?貯蔵庫にも、蓄えはありませんでしたし」

「ああそれか。好きではないんだ、お前もそうなんだろう?」

「え......ええ、そうですね。私も好んでいません」


 私は心臓が縮む思いをした。普通であれば、その事実は彼が知っていることではないからだ。

 私たち獣人は基本的に雑食であるが、私に限ってはあの日以来肉を食べることができなかった。肉を見ると仲間の死体を思い出すし、肉の焼ける匂いもあの日を連想してダメだった。奴隷商や元雇い主の元にいたときは、私だけ態と肉料理を出されることがあり、それがまた他の奴隷の妬み嫉みを買うこともしばしばあった。


「それはあの商人に、聞いたのですか?」

「ああ、そうだ。それ以外にも色々と」


全く、余計なことを。普通伏せていた方が何かと都合がいいはずなのに、私があまりにも反抗的だったから腹いせに言ったのだろう。私がこれまでやってきたことを、どこまで知られているのであろう。それによって身の振り方が随分変わってくる。急速に喉が渇き、治りかけの喉は思い出したかのように痛みを訴える。


「あまりにも聞いていた話と違うから、ひょっとしてガセなんじゃないかと思っていたが、全く嘘という訳ではないみたいだな」


 私の不安とは裏腹に、彼の表情からは一切疑いなどの感情は読み取れない。


「そ、の............聞いた話、というのは......」

「ああ、別に気にしなくていい、むしろ聞けて良かったぐらいなのだから」

「......は、はぁ。そうですか......旦那様がそうおっしゃるのなら」

 

 彼は不可解なことを言ったが、彼が特に気にしていないのなら好都合だ。後々になって知られて捨てられるより余程マシだ。寧ろ知っていてこの対応ならなおの事ありがたい。どうせ商人の方は完全な悪意で言ったのだろうけれど、このことに関しては感謝してもいい。

 私はホッとしたので、乾いていた喉を潤した。


「そういえばその敬語も、だな。前では使っていなかったみたいだが?」

「......前の方は、敬意に値しなかったもので。対して、旦那様は私の、救世主のようなお方です」

「私はそんなものではない......っと、料理が来たな。一緒に食べようじゃないか」

「......はい、そうですね」


 私は突然の彼の問いに苦しまぎれながら答えた。一見彼はなんでもないように装っていたが、彼には満足のいく答えだったのだろう、目にははっきりと喜びの感情が表れていた。私の行く先に一筋の光が差し込んだのが分かる。近いうちに彼の信頼を勝ち取るのも容易くないであろう。

 ただその目にどこか影が差しているように見えたのは間違いであったと信じたい。


 その後食べた昼食は、酷く薄味に感じた。

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