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夢の内容

004


 その後、彼のことが気になって任された仕事の合間にそれとなく彼の様子を伺ってみたが、特に気になることはなかった。そんなこんなしているうちに夜になって、自室でベッドに横たわっているうちにいつの間にか眠ってしまった。


◇◇◇


「ッ!もう......イヤッ!」


 今日の夢も昨日と同じく焼け落ちた故郷の夢であった。決して忘れてはならないものだが、そう何度も見たいものではない。私はその場に蹲り耳を押さえていると、いつの間にか辺りは焼けた街中ではなくなっていて、代わりに真っ暗闇に覆われていたが不思議と私の周りはぼんやりと明るかった。


「×××、ねぇ×××」


 肩を叩かれビクッとしたが、懐かしい声に思わず顔を上げてそちらを見てしまった。


「お、お兄様......?」

「ああ、そうさ。×××、君の愛しのお兄様だよ。他に誰がいるというのだい?」

「え......でも......だって......」


 いつの間にか私の隣にいたのは、私の親しかった人たちの中で唯一生死の分からなかったお兄様だったが、しかしその姿は探せどもどこにもにもなく、隣り合うぐらいの距離から声が聞こえてくるだけであった。よく目を凝らして見てみると、お兄様がいるであろう辺りは周りの暗闇より、一段と濃い闇を呈していた。


「ねぇ、×××。君は昔っから酷く不快なことがあっても、どんなに嫌なことがあっても、それを殊更外に見せないようにしていたね。やせ我慢というべきかな?まあ、僕達兎人族は他の種族に比べて、その傾向は強いみたいだけれど、君は他の誰よりもその気があった。ホント誰に似たのだろうかね?そうだ、あのことは覚えているかな?×××、君が小さい頃、僕達が止めたにも関わらず木によじ登って落ちたことがあったね。流石の僕も肝が冷えたよ。あのとき君は肋骨が折れていたにも関わらず、僕達に変わらず笑みを見せて、元気に遊びまわっていたことがあったろう?全く怪我をしている様子を見せないでさ!その後家に帰るや否や熱を出して倒れてさ、大騒ぎになったのを鮮明に覚えているよ。君には言わないであげたけれど、あの後大変だったのだからね。あのいつもニコニコして全く怒らない母様が、激怒していたんだよ。母様が怒ったのは幸いにして、後にも先にもそのときの一回だけだったけれど、あのときの母様といったら!それはもう――」


 途切れることなくベラベラと喋るお兄様に、呆気にとられて相槌を打つのも忘れていたが、急に喋るのを止めこちらに向き直った。実際はお兄様の姿形はないのだけれど、不思議とそのように感じられた。


「×××。君はこれからどうするんだい」

「ど、どうするも何も............私には――」

「これ以外にはないとでも言うつもりかい?はあ…」


 以前お兄様の姿は見えないが、少しオーバーに肩をすくめて呆れた顔を見せたお兄様の姿が思い浮かんだ。


「いいかい、×××。これから君の選択次第によっては、幾度となく艱難辛苦(かんなんしんく)を経験するだろうし、歓天喜地の喜びがあることもあるだろう。今のように恋じゃなくて、復讐に身を焦がすのもいいけれど、果たしてそれは本当に君が望んでやっていることなのかい?×××。決して考え悩むことを放棄してはならないよ。それを止めてしまったら、我々は一介の獣であるのと同じなのだから。彼らは良き隣人であるが、我々とは違う。復讐を熾らせるよりも誇りを、ね?」


◇◇◇


 ハッと目を覚まし、涙で濡れた顔を拭いながら窓の外に顔を向けると、まだ夜は深まったばかりのようで窓からは月明かりが差し込んでいた。ベッドに腰かけて窓から外を見上げてみると、普段見上げていた月より今日の月は冷たくは感じなかったが、いつもより一層寂しくに思えた。


「お兄様。私は......」


 今でも目を閉じれば思い出すことができる故郷の最後の日。しかし、その記憶はいつもより何だか朧気になっているような気がした。そう思うのは、きっと変な夢を見たからに違いないだろう。

 

「ううん、駄目ね。こんな夜更け......だから、明日もきっと、早いだろうから......寝ないと」


 そう自分に言い聞かせてベッドに横たわると、さっきよりも掛布団を手繰り寄せて眠りについた。もうその夜は変な夢を見ることはなかった。

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