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四人の召喚者達

033


 レミアヒムがいっていた通りに、数日も立たないうちに呼び出された。この前のことの続きとのことで、やっとかと思いながらも俺は案内された部屋に入ると、俺と同年代の男女含めた三人の人が既にいた。

 部屋の奥に4脚ある椅子の一番左に腰かけて、本を開いている濡れ羽色の髪の大人びた少女。

 俺から見て右側の壁に凭れ掛かっていて、短髪の栗毛で俺より年上であろう高身長の青年。

 部屋の中央で突っ立っている銀髪の八歳くらいの少年。

 その全員が俺のことを見ていた。じろじろと隠すこともしない品定めの視線だ。ただ興味を失ったのか、見ていること気が付かれたのが嫌だったのかは分からないが、直ぐに視線を背けられた。俺は少し居心地の悪い思いをしながらも、入ってきた扉の直ぐ横の壁に凭れ掛かった。


「皆さんお揃いですか?」


 時折視線が交差する誰も喋ることのない、この部屋の沈黙を破ったのはレミアヒムだった。ガチャと扉が開く音がしたと思ったら、レミアヒムが紙の束片手に部屋に入ってくるところだった。


「3人しか居られないようですが.......あぁ、カグヤマ様。こんなすぐ側に」


 レミアヒムは部屋に入るなり辺りを見回していたが、すぐ隣に俺がいるのを確認すると、相変わらずの柔和な笑みを浮かべた。

 

「では皆さん。まずは奥の椅子に座って下さい。それから説明を始めましょう」


 それは有無を言わせぬ声音だった。


◇◇◇


 弧を描くように配置された4脚の椅子に俺たちは座った。端から順に黒髪の少女、栗毛の青年、銀髪の少年、俺の順だ。その弧の頂点となる位置にレミアヒムが立った。


「皆様、ご着席ありがとうございます。既に皆様ご存知でしょうが、当座の進行を努めさせて頂きます。レミアヒム・ケーニッヒで――」

「前置きはいい、本題に入れよ」


 栗毛の青年が横柄な態度で足を組みながらそう言った。彼の口の動きは、明らかに聞こえてくる言葉とは違うが、俺はその意味を理解することができた。

 俺は自分の腕に着けている腕輪をチラリと見た。幅の広いシンプルなデザインの腕輪だ。知らない言葉の意味を理解できるのは、この魔導具のおかげなのだろう。ここに来る前に渡されたものだ。意思疎通の魔道具だそうだ。


(それにしてもあの顔立ち、やっぱり奴はヨーロッパの生まれか)


 最初彼らの見たときにも思ったが、異世界召喚は地球のあちこちで行われたようだ。他の二人の内、少年の方はヨーロッパ系で、少女の方はアジア系の顔立ちだ。恐らく日本語は通用しないと思っていい。更に俺は英語を全く使えないので、意思疎通の魔道具がない限り、彼らと話すことができないのだろう。こちらの世界の人とは魔道具が無くても問題なく意思疎通ができるのは何故か分からないが。


(やっぱり魔道具って便利だな~、あっちのものとは大違いだ)


 今思えば、これには他の候補者同士の接触を避けようとする作為的ものを感じるが、その時の俺はそんな的外れなことを考えていた。


「......本題に入る前に、皆様はもうお互い自己紹介はされましたか? これから長い間切磋琢磨するであろう相手です。されてないようでしたら、是非今のタイミングで」


 そう言いながらこちらを見るので、俺は少し戸惑いながらも立ち上がって、他の奴らの方を向いた。


「......勇人。香具山 勇人だ。よろしく」


 三人は俺の方を見るだけでなんの反応も示さなかった。少しムッとしつつも席に着くと、今度は隣の銀髪の少年が立ち上がって一歩踏み出すと振り返った。

 しっかりと顔を確認していなかったが、彼はかなりの美少年だった。銀髪なのも相まって、まるで物語中から出てきたような顔立ちだが、警戒心を押し殺し、じっとこちらのことを伺っているという気持ちがにじみ出ているせいで、全く友好的に思えない。


「ミカイル。ミカイル・イヴァ―ノヴィチ・ソコロフ」


 少年が実に事務的に名乗った後、椅子に戻ろうというときだ。


「アンドレア」 


 栗毛の青年は、組んだ足を崩しもせず言った。そのあまりにも横柄な態度から、こちらを見下しているのが嫌という程伝わる。こいつには関わりたくない。

 本に目を落としていた少女は一瞬、青年の方をチラリ見た後、小さく息を吐いて、本を開いたままとこちらを見て言った。


「.......朴 雨涵」


 小柄で彫りの浅い顔、黒髪黒目という外見から、てっきり日本人かと思っていたが、名前からしてどうやら中国人のようだ。真冬の川の中のような冷ややかな視線は、こちらのことはまるで興味がないといわんばかりであって、言い終えるや否や本にまた視線を落としてしまった。


(なんだこいつら。協調性のなさそうな奴ばかりじゃないか。まったくどうするんだ、この空気)


 普通、初対面の硬い雰囲気でも自己紹介をすれば、ある程度は和らぐだろうに、歩み寄ろうという雰囲気が全くないせいで、雰囲気は良くなったどころか、むしろ悪化していた。

 そんな中、レミアヒムはなんの問題もないとばかりに、相変わらずの柔和な笑みを浮かべて話始めた。


「皆様ありがとうございます。それでは早速本題の方に入らせてもらうとしましょう。それでは――」


 『魔極点』、『選定の宣告』等々、そこからの話は以前聞いた話と大体同じだったが、前は言っていなかったこともあった。

 宣告が行われるまで、少しでも強くなってもらうために、これからそれぞれにあった武器の指南役と魔術の講師をつけるとのことだ。いくら勇者候補だとは言え、魔極点に至るにはそれ相応の実力が必要、とのことなので、止むを得ないことと思って我慢するしかなさそうだ。


「最後に、皆様に紹介したい者たちがいます。読んで少々お待ちを」


 そう言ってレミアヒムは、入ってきた扉を出てまもなく10数人の人を連れてきた。ローブを纏った魔術師風の老人や、王宮の騎士団の鎧を纏った騎士、ドレスを着た貴婦人など、入ってきた人に一貫性はなかった。


「彼らは『宣告』に向けて皆様の助けになる者たちです。魔術の教師や武具の指南役。魔極点に至るまでは、パ――ティ編成を組んでもらうこともあります。人員については事前の質問から鑑みて、こちらで選ばせていただきましたが、不満等がありましたらお付きの侍女にお申し付けください。では一人一人自己紹介を」

「それでは、私から――」


 レミアヒムがそう言い終わると、レミアヒムが連れてきた者たちは次々に自己紹介を始めた。自分と関わりがありそうなのだけ覚えておけばいいか、と思いながらおざなりに聞いていた。


「お次は、カグヤマ様付きになる者達です」

「ご紹介に預かりました。カグヤマ様の相談役及び身辺警護を務めさせていただきます、フィン・ライヒシュタインと申します。どうぞよろしくお願い致します!」


 まだ真新しい騎士の鎧を着た同世代の少年が、変声期をまだ迎えていない少年特有の高い声を張り上げてそう言った。

 これがフィンとの出会いだった。

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