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勇者の卵

032


「.......ッチ」


 俺は頭を強く掻き毟った。爪が頭皮を切り裂く鋭い痛みが刺さる。何故俺はあのときのことを思い出したかのか。非常に不快な思いが残っただけだ。


「ほら、止めないでちゃんと思い出して」


 俺は声のした方を見た。

 視界を埋めるのは赤。赤。赤。辺り一面に燃え立つ炎と頭部から流れる血とで俺の視界は様々な赤色で支配されていた。辺りを見回してみてもせいぜいいたのは、人型に燃え残った黒い遺骸だけだ。


「さぁ、その先は? どんなことがあったの?」


 背筋に悪寒が走るような感じがした。今日の夢は何かがおかしいと分かっていても、俺は昔の記憶を思い出すことを止めることができなかった。


◇◇◇


「急に連れてこられたのだ、思うところもあるだろう。暫くはゆるりと過ごされよ」


 かなりの緊張で挑んだ王との謁見は、非常にあっさりとしたもので拍子抜けした。謁見するまでにしていた着替えやら、簡単な作法の練習やらに費やした時間の方が長く少しモヤモヤしたが、長々とやられても慣れないことに疲れるだけなので、まあいいかと思いながらその日はもうやることがないそうなので、早々に与えられた部屋で寛いでいた。


「はぁ......つっかれた。今日はもう動きたくない......」


 俺は手ごろな椅子に深く腰掛けると、与えられた部屋を一瞥した。日本にいた頃の部屋より数倍広く、昔旅行で行ったお高いホテルのような部屋だ。ただ日本だったならそこにあるだろうものがなく、全く別のものに置き換わっていたり、そもそもで見当たらなかったりと、戸惑うことも多かった。侍女が道具の説明を一通りはしていたけれど、それまでの疲れもあって使い方の殆どを覚えていなかった。ただ一つ印象に残ったのは、それらすべての道具が()()で動くということだけだ。

 俺は徐に目の前のテーブルの上に置かれた半球状の置物に手を伸ばし、その頂点に露出した青い半透明の結晶体を軽く撫で、少し発光したかと思った瞬間、部屋の明かりが消え辺りは暗闇に包まれた。


「これが魔導具、か......」


 明かりの魔道具。俺が覚えることができた魔道具の中の一つだ。部屋の明かりならどこでもこの魔導具でオンオフができるというものだそうだ。俺は試しに何度か頭で思い浮かべたところのの照明を点けたり消したりした。


(こんなことができるもの、あっちの世界にはなかった。俺は本当に異世界に来たんだな......)


 暫くそれで遊んでいたが、俺は明日に備えて早く寝ようと思ってベッドに倒れ込んだ。その部屋に備え付けられていたベッドは、俺が今まで何で寝ていたんだと思うぐらいに柔らかくて、疲れ切った体をどこまでも包み込むような心地さえしたが、何故かいつまでたっても寝付くことはなかった。


◇◇◇


「おい、どういうことだ! 勇者は俺だけじゃなかったのか!? 説明しろ!!」


 俺が召喚されて数日たった日のこと。俺はレミアヒムに詰め寄っていた。こうなったのはあることを耳にしたからだ。


 俺はこの世界に来てからというもの、元居た世界について聞きたいからだとか、この世界についての勉強をだとか、何かと理由をつけられて最初に与えられた部屋に押し込められていてうんざりしていた。これでは日本にいた頃と同じ、いや殆ど外出できていないのでそれ以下であると感じた俺は、外出できるかどうかを一日に何度かお世話に来る侍女に問いかけたところ。


「外出、でございますか。具体的な日付は申し上げることはできませんが、近いうちに可能だと思います。ただ、他の候補者様方との兼ね合いもございますので......」

「他の候補者、だと?」


 俺はその言葉に愕然とした。俺はまだ勇者ではなかったということだ。そういえば、召喚されたときに言われたのは()()()()であった。勇者とは言われなかったのを思い出した。その日は間もなくこの国、リーズ王国の歴史についての座学があったが、そんなことはお構いなしにレミアヒムを探すべく部屋を飛び出した。

 

 当のレミアヒムはあっさりと見つかった。

 レミアヒムは俺を呼んだ部屋で何やら部下らしき人と書類片手に話していた。その時の俺はそんなことお構いなしに詰め寄って捲し立てた。一瞬何の感情も読み取れない表情になっていたが、すぐに柔和な笑みを浮かべた。


「ああ、そのことですか。後2、3日もしたら顔合わせして貰う予定だったはずでしたが.......カグヤマ様には先に話してしまうとしましょう。ご存知の通り、カグヤマ様はまだ勇者の資格を得ていません」

「なら、どうやって勇者になるんだ?」


 レミアヒムは俺の問いに答えなかったが、徐に右側の壁に向かって歩き始めると、壁にかけられた地図の中心を指さした。そこには大陸までとは言わないが、島になっている陸地があった。


「そこは我々が昔から『魔極点』と呼んでいる場所です。ここは常に高魔力場状態にあり、魔力満ち溢れた大昔から、姿を変えていない危険な動植物が多数生息していることから、『原初の地』とも呼ばれています。伝承では約100年に一度、その島を訪れれば勇者の選定が行われるとされています」

「それなら今すぐにでも――」

「なりません」


 柔和な表情からは予想もつかないほどの低い声が響いた。喉からヒュッという音が出る。


「許可できません。剣も魔術もまともに扱えない。向こうに行っても今のままでは確実に死ぬでしょう。それに島に辿り着けばいいという話ではないのです。島の中心を目指す必要があるのですから。せめてある程度の力をつけてから行ってもらわねばなりません」

「そんなことしている間に他の奴が勇者になったらどうするんだ!」

「それについてはご心配なく、手はあります。それに、まだ選定が始まった『宣告』がなされておりませんので。今行っても意味はないのです。それ以外のことはまた後日お知らせいたしますので。本日のところはお引き取り願えますか?」


 先程と変わらない柔和な笑みを浮かべているが、全身からは言い知れない拒絶のオーラを纏っていた。俺がなんとか食い下がろうとしていると、俺が開け放った扉から俺を探しに来た侍女とレミアヒムに言いくるめられて連れ戻されてしまった。


「今日もカグヤマ様には多くの予定があるのです。その上、レミアヒム様に迷惑をかけるなんて!」

「分かってるって」


 侍女に半ば強引に連れ去れていた俺はさっきのことを思い出していた。勇者のこと。その選定について。そして――『魔極点』。漫画のような刺激的な展開が待っていると考えると胸が躍った。俺は物語の主人公になるのだと。

 そのときの俺は、自分が勇者になることを信じて疑うことはなかった。

中々投稿できずに申し訳ないです。次は来週あたりに投稿出来ればいいな~なんて思ってます。

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