業の炎は絶えず燃える
今回の内容はいつもより残酷な描写が多いです。次回の前書きに今回のあらすじを乗せようと思うので、そういったものが苦手な方は見るのを控えて下さい。
030
俺は悪夢を見る。何年前からか、いつから見続けているのかは分からない。ただ確かなことは、悪夢を見るようになったのは俺がこの世界にやってきた後だということだ。
俺が元々いた世界の宗教の考えの中にこんなものがあった。
『焦熱地獄』
五戒を破り、かつ邪見を持つ者が落ちるとされている場所で、常に極熱で焼かれ焦げる責め苦を非常に長い時間受ける場所だ。焦熱地獄の様相を描いた地獄絵図なるものがあると聞いたことがある。その絵を見ることなくこちらに来てしまったが、そのことを思い出してしまうほど、目の前に広がる光景は酷く凄まじいものであった。
辺りは身の丈の何倍もの高さまで燃え盛る業火で点在し、時々まともに受けたら体が燃え上がってしまうような熱風が煌々と火花をまき散らしながら吹きすさび、燃え残った黒い灰を巻き上げ、雪のように舞い降りてくる。一際大きく燃え上がる炎の根本に目を向けると、そこにはもう胸を掻く仕草をしたまま動かない人の形をしたものがある。一度彼らを認識したら、いたるところで目についた。道中のど真ん中に倒れ伏していたり、燃えすぎて殆ど原形をとどめていない建物の影に座り込んでいたりと俺に無言の怨嗟の声を響かせながら、目に移り込んでから、見えなくなる最後までその存在を主張し続けた。
そんな地獄のような場所を俺はただ進んでいる。その先には何があるという訳ではない。毎回夢から覚めるまで延々と歩き続けているが、その光景が他の内容、例えば活気あふれた王都の街中などの景色に変わったことは一度もない。毎回俺には前に進むしか選択肢は与えられていないだけであった。しかもその地獄の光景は、毎回ちょっとずつ姿を変える。ある日は踏み固められただけの道に沿うように燃え盛る建物が並ぶ道を歩いたり、またある日は周りと燃え崩れた建物が並ぶ黒く変色した石畳を歩いていたりした。そしてなににおいても恐ろしいのは、その毎日違う光景全てに既視感を覚え、ときにその日の記憶が蘇ってくることだ。そして目の前で記憶と同じ光景をリプレイさせられ、その日の朝は決まって自分のあげた絶叫に起こされるのだ。
俺がこれまで焼き殺してきた者たちが見せる悪夢。俺がこれまで焼き滅ぼしてきた文明の亡霊が見せる悪夢を俺は眠るたびに見続けてきた。だからなるべく夢を見ないように、いつもはベッドに入っても目を瞑り体を休ませるだけだ。勿論眠らないように、意識を保つ魔導具や体の回復力を高める魔導具を使っているが、それでも寝てしまうときもあるので、そもそもベッドに入らない日も多い。最初こそ毎日襲い掛かる眠気と戦っていたが、人間案外慣れてしまうもので、不思議と何日も起きていても平気になった。しかしその分たまに見る悪夢は俺を余計に蝕む。
俺がそんな悪夢に苛まれ続けるのは、昔の俺がどうしようもなく無知で、愚かで、盲目的だったからだ。
今思えば、俺の運命はこの世界から来たときから始まっていたのだろう。希ってももう二度と手にすることができない俺の平凡な日常が突如終わりを告げたその日。この世界の全てが自分に祝福しているように感じられた日から先の見えない奈落に転げ落ちるまで、一度全てを思い返したらこの地獄のひと時の安らぎぐらいにはなるだろうか。
焦土の広がる平原を当てもなく歩きながら、俺は意識を昔の記憶へと飛ばした。
多分今後使わなそうなネタなので、ここで披露します。彼が開発した意識を保つ魔導具は、犯罪者やスパイ等の自白用に使うため、様々なところが彼に製作依頼を出しています。彼の扱う魔導具の中では、売れる方の魔導具です。細かい設定はないですが。
次回からは旦那様の過去編に入ります。




