独りの夜
029
盗賊に襲われた日の夜のことだ。その日は普段通りロルにお休みの挨拶をしてから床についた。彼女は眠そうにしながらも、きっちりとあいさつを述べて自室に帰って行ったのを思い出す。その小さな後姿に激しく焼け付くような愛情の中に劣情を覚えた。俺が彼女を求めてもきっと拒まないだろう。しかし、そこにあるのは何だ?愛情か?否、そうではないであろう。今、俺がどんなに彼女を愛して愛を囁こうとも、彼女はきっとそうは捉えられない。
彼女からして見たら俺は人族で主人だ。自国を滅ぼした国民で、自分を縛り付ける存在だ。嫌だと思わないはずがない。今日は特に顕著だったが、最近では俺個人を認め、心を許してくれていると感じるが、それが俺を心から受け入れてくれる証左にはなりえない。
それだけでも俺に躊躇させるには十分すぎるぐらいだった。俺は彼女を傷つけたい訳じゃない。
肢体を投げ出してベッドに倒れ込み、深く深く呼吸を整えた。最後に今日で一番長い溜息をつくと、上半身だけ起こして部屋の明かりを消した。途端に辺りは手元さえ見えない闇に包まれた。
いつの日からだろうか。日に日に増していくこの気持ちを自覚してしまったのは。この焼け付くような感情を彼女にぶつけられたらどれだけ良いだろうか。今は駄目でも、何時かは受け入れてくれる貰えるだろう。俺は自分に寄り添う彼女の姿を想像して、それを振り払って冷静に別のことを考え始めた。
思えば、最近のロルの様子は買った当初に比べると大分良くなった。古傷、生傷問わず傷だらけだった体は幾度に渡る治療により、殆ど分からない程になって、ガリガリだった体も歳相応の肉付きに変化した。それに伴い、何処か機械的で感情を押し殺したような雰囲気はなくなり、今では大分自然に感情を表現出来るようになっている。
会った時より大分元気になったし、色々なスキルも身についてきた今日この頃、彼女一人で自立するもの容易い。.......そろそろ限界だろう。
彼女を手元においておくのも。
彼女はここ最近俺に依存している気がある。俺に寄りかかってそれを良しとしている。それもそうだ、彼女は奴隷で一生繋ぎ止められる存在なのだから。寄りかかれる相手なら、寄りかかった方が楽になれるに違いない。しかしそれでは駄目なのだ。その依存関係が崩れたとき、いとも容易く倒れてしまうだろう。いや、倒れるだけならまだいい、起き上がることが出来る。再び立ち上がることが出来る。最も不味いのは壊れてしまうことだ。倒れて粉々に砕け散ってしまえば、もう二度と元には戻ることはできない。俺はその決定的なトリガーとなる事実を彼女にずっと隠したままであった。
彼女が俺に完全に依存しきってしまう前に、早めに告げてしまうべきだ。何よりも彼女の為にも。彼女には俺を押し倒しでも自立して貰いたい。そしてどこか遠くの地でいつまでも健やかに過ごして貰いたい。
それの手助けをすることが俺に出来る彼女への贖罪なのだから。
何度繰り返したか分からない思考を閉ざすと、俺は深い意識の闇へ潜っていった。そこにはいつもと変わらない景色が広がっていた。
上手く描写ができなくて気付けばこんなに日にちが!取り敢えず、できたところまで上げることにしました。




