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開きかけの扉は

028


「今日は疲れたな」「今日は疲れましたね」


 私達は家の玄関についた瞬間そう口にした。お互い顔を見合わせて笑い合いながらリビングに入っていった。彼はドカッと椅子に腰かけると僅かに顔を歪めた。やはりまだ痛むのだろう。


「ユージン様! 家に帰ったのですから早く治療しましょう! まだ痛むのでしょう?」

「ん......そうだな。少し手伝ってもらっていいか?......さ、行こう」


 彼ははそう言いながら立ち上がると、私は背を押すようにしながらリビングを出て二階のある一室、私が一度も入ったことのない部屋へと誘導された。前にこの部屋を掃除しようとしたとき絶対入るな、と彼が命令を使ってまで入ることを禁じられた部屋であった。


「あの......ユージン様。ここって」

「ああ、この部屋の説明はしてなかったか。ここは仕事部屋で下手に触ると不味いものとかあるから入らないように言ったきりだったな......」


 私が少し高い位置にある取っ手を回そうとすると取っ手は何故か回らなかった。私がどうにかして回そうとしていると


「実はこの扉は魔導具でな。登録した魔力を持つ者しか入ることが出来ないんだよ。ロルの魔力も登録してやるから。取っ手握っててな」

 

 彼は私の手を包むように手を添えるようにすると、突然扉の表面が幾何学模様を描きながら光ったと思うと扉はすんなりと開いた。


「あれ? 開きましたね」

「ロルの魔力も登録したから今後から入れるようになったが、俺といるとき以外は入るなよ。危ないから」

「はい。分かりました」


 初めて入ったこの部屋の感想はとにかく物が多いことだ。この部屋が狭いせいもあるが、パッと見で天井まで伸びる程の大きな本棚には医療魔術についての本や魔道具についての本がぎっしり置いてあり、棚には大小様々な魔道具が置かれているが、その棚も既に置き場がないようで机の上や床の上に置きっぱなしになっているものも見受けられた。彼をじろりと見ると、スッと顔を逸らした。後で話し合いが必要のようだ。そう思いながらも近くにあった椅子の上に置いてあったものをどかして彼をそこに座らせた。


「おい......これじゃ治せないんだが。取りに行かせろ」

「駄目ですよ。何のために私がいるのか分からないじゃないですか。こんなときぐらいユージン様は座っていて下さい!」

「分かった分かった。じゃあそこの棚の――」


 私は彼の指示を聞いて必要なものを取りに部屋の中を行き来した。勿論周りには気を付けて扱うときは慎重にだ。用意するものはそう多くはなかったみたいで五分ほどで集まった。


「有難うロル、助かった。後は俺一人でやっておくから、昼食でも用意してくれ」

「あ、そうですね。畏まりました」


 彼の言葉に従って部屋を出た。中からは早速彼が作業しているようで、足音の合間に時折ガラスを打ちつけたような硬質な音が聞こえる。どうにも怪我した彼が不安だったが、医療魔術に対して詳しくない私が居ても作業の邪魔になるだけだと思い直し、私は彼の作業部屋を後にした。


「折角だから今日のお昼は彼の好きなものにしましょう。今の私に出来ることはこれくらいだから」


◇◇◇


 私が遅めの昼食の準備をしていると治療が終わったようで彼が階下に降りてきた。足早にダイニングルームに戻ると彼は丁度部屋に入ってくるところだった。


「ロル。準備は出来たか?」

「ええ、後はお運びするだけで......それより、怪我はもう大丈夫なのですか?」

「ああ、もう普通に生活する分には支障はないさ。俺も手伝うからさっさとお昼にしよう。あれのおかげで腹が空いてしょうがないんだ」

「ふふっ、そうですね」


 彼の手伝いもあってすぐに席に着くことが出来た。彼といつもの食前の祈りを済ませて食事を始めた。


「そう言えばユージン様。なんで王都に行くのを止めたのですか? 何か理由でもあったのでしょうか?」


 私は何気なしに聞いただけだったのだが、彼はちぎったパンを口にしようとしていたところだったがその手を止めると、空中に手を彷徨わせながら困惑した表情を浮かべた。この感じは前にもあった。私に知られると不都合なことがあることを聞かれたときに見せるものだ。

 こういうとき彼は必ず、誤魔化す。

 

「あー、王都には王立治療院があるだろう? あそこにはまぁ......知り合いがいるんだが、ちょっとな......色々訳あって会いたくないんだ。だからロルも行っては駄目だ。そもそもあそこは()()()が強いし、なにより知られると面倒だからな......怪我したときは家まで帰ってこい。大抵のものなら俺が治せるから」


 彼はそう言って、何もなかったように食事を再開した。相変わらず彼は本当のことは話してくれないみたいだ。その事実に、その態度に胸の中に蟠りができたようなモヤモヤを感じる。彼が時折話す他愛ない話題に不自然にならない程度ぐらいには返せているだろうか。頭に巡る思考のせいで楽しいはずの食事も急に褪せていくように感じる。

 少し前なら秘密を暴こうと躍起になっただろう。その裏に何があるのか彼のことを探っただろう。しかし今は、何故かそんなことをする気が全く起きず、彼に隠し事をされているということだけがただ物悲しい。彼はこの国に復讐を果たすために利用するだけの存在だと思っていたのに、この関係はいつかは終わらせる仮初の関係だと思っていたのに、今日のあのことのせいでそれだけでは満足できない自分がいた。

 隠し事なんてしてほしくない。彼にもっと撫でて貰いたい。心から笑いかけて欲しい。彼にもっと――

 私はその先を考えることを止めた。その先は決して自覚してはいけない。きっとその先に行ったら私はもう戻ることができなくなるだろう、そして死んでいった一族の皆に合わせる顔がないだろう。そう思いながらスプーンですくったスープの味は懐かしい嫌な味がした。


 あの日飲んだ、泥水の味。故郷を追われた日、必死に逃げているときに飲んだ屈辱と憎悪の味だ。

次も早く書き上げたいですね

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