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それぞれの想いは

027


 あの後大体昼前ぐらいに他の乗客達が起き始めた。最初こそ不審に思われて大変だったが、少しショッキングなものを見せると誰もが信じてくれたので助かった。最終的には感謝されながらも近くの街に降ろしてもらった。彼の怪我を治すために家に帰るためだ。最初は王都にある医療施設である施術院で治療してもらおうと思っていたが「あそこで治療するのだけは絶対嫌だ。これぐらいなら自分で治療できるから帰ろう」というので、4人も入れないような街の小さな停留所で次の馬車を待っていた。


「あー、また痛み出てきた。またやってくれないか? 冷やすのだけでいいから」

「そんなこと言わなくても『修復』とか『鎮静』とかの魔術も――」

「ダメだ。自覚してないかもしれないが、今日魔術を使いすぎて大分疲れているだろう? これ以上使ったら倒れるぞ」


 そう言われると、自分の体がいつもより重く、運動した直後の気怠さのような疲れを感じるが、体は先ほどから寒さを感じていた。ここまで魔力を使ったことがなかったので初めての体験だったが、これは魔力を多分に使ったときに起こる典型的な症状だと、彼が貸してくれた本に書かれていたことを思い出し、寒さを紛らわすために腕を擦った。今倒れて彼に迷惑をかけるわけにもいかないので、不本意ながらも痛みを抑える『鎮静』の魔術を掛けると、僅かに眉間に皺を寄せていた彼の表情が和らいだ。


「......うん、もう大丈夫だ。ありがとうロル」

「そんな、お礼なんて......なっ!」


 彼がこっちを見ながらお礼を言うので私は思わず顔を逸らすと、彼は思わぬ行動に出た。彼の腕がこちらに伸びてきたのを確認したと思いきや、私の抱えあげ彼の膝に降ろされた。私があたふたしていると彼はそんなこと全く気にした様子もなく話し始めた。


「うん。さっきも感じていたが、術がしっかりと安定している。いい精度だ。ちゃんとしたところで学べばひょっとしたら良い魔療技師になれるかもしれないなぁ」

「そ、そうですか? でも」


 彼が私のことを褒めたので嬉しくなって彼の胸に頭を預けそうになったが、彼の腕の中であることを寸でところで思いだした。

 

「――いや、そうじゃなくて! 流されないですよ! 私は何で膝の上に乗せられてるんですか!」


 私が横座りになって彼に抗議していると、私のお腹に回された腕に力が入ってそのまま抱きしめられる形になった。冷えた体に安心するような温かさがじわじわと広がる。


「そりゃ、寒そうにしてたからさ。大方、魔力の使い過ぎの症状だろ? 俺も夏なのにガクブルになるほど魔力使った覚えがあるからさ。その怠さと寒さは分かる」


 そう言いながら彼はさっきよりも腕の力を強めた。それは僅かにあった隙間を埋めるようなぐらいの強さで、痛みなど全くなかった。私は彼の気遣いが嬉しくてお礼とばかりに私の涙でしわくちゃになっていたシャツを纏った彼の胸に頭を摺り寄せると、彼の匂いが鼻腔一杯に広がる。体から力が抜け、代わりに忘れていた疲労感が体を襲った。これ以上気を抜くと眠ってしまいそうだった。非常に惜しいがこのままだと彼に迷惑をかけるだけであったし、彼に知られたくないこともあったので、私は彼の胸に顔をうずめたまま、声をくぐもらせながら言った。


「ですが、この姿勢は少し辛いですね」

「......悪い」


 彼はそう言うと腕の力を弱めたので、私は彼の膝から降りるとすぐさま彼の隣に座り直した。彼は私に自分の上着を着せようとしたが、私はもう大丈夫だと言って辞退した。彼は少し残念そうにしていたが私が本当に欲していないと言うと、強引に着せるわけでなくそのままにしてくれた。

 何故ならそのとき私は自分の体の内からこみ上げてくる熱で寧ろ暑いくらいだったから。

またもや短いです。次こそはおうちに帰ります。

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