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乗合馬車

024


 私は内心酷く狼狽えていた。

 何故なら彼の膝の上に座っているからだ。彼の温かさと、服の上からは伺うことのできない男性特有のがっしりとした感触が背中越しに伝わってくる。なんともむず痒いので、少し距離を置きたいところではあるが、私がうっかり落ちないように、彼の気遣いでお腹にがっちりと回された腕がそれを許さない。

 突然車内がガタッと揺さぶられた。お腹に回された腕がキュッと締まり、私の心の安寧のために確保していた間隙は消え失せ、衣類越しとは言えど彼の肉体がより濃密に伝わってくる。背中が痺れるような感覚に陥り、思わずビクッと体が跳ね上がった。


「ロルどうかしたのか? 遠慮せずに言っていいぞ」

「だっ!......大丈夫」

「そうか」


 私を心配してか彼は私に声を掛けてくれたが、彼の吐息が耳にかかる。再び背中が痺れる感覚と葛藤しながらも何とか一言返すと、彼はそれ以上何も言うつもりはないようで、頭の近くにあった顔がフッと離れるのを感じた。私はそっと小さく安堵の息を吐いた。

 最初、周りから変に思われないように、いかにも楽しげな表情を作っていたが、それが崩れるのも時間の問題だ。


(どうして!どうしてこうなったの!)


 その原因は少し前に遡る。


◇◇◇


 彼が魔道具の納品で王都に行くというので、私も少ない食料品を買い足す為に、彼についていくことになった。そして王都に行く乗合馬車に彼と乗車したときのことだった。最初は普通に隣に座っていたが、馬車が王都までの道の途中にある街に着くと、何時もより多くの乗客が乗ってきて、いつもより車内が混み合ったのだ。

 そのとき彼は何を思ったのか私を自分の膝の上に乗せ、立ってる近くの人に私が座っていた席を譲ったのだ。仮にも成人女性に何を!とも思ったが、今は彼の魔導具によって人族の少女相応の見た目になっているので、別に不自然ではないことを思い出したが、私は既にそれどころではなくなっており、冒頭に至る。


「いやぁ、あんちゃんすまねぇな。それと嬢ちゃんも、今日はこれから兄弟で王都まで買い物かい?」


 先程席を譲った男が話しかけてきた。男は以下にも旅装という感じで、服の下からは微かに金属音がする。恐らく武器か何かを隠し持っているのだろう。

 兄弟という響きに何だかモヤっとした気持ちになったが、本来の姿を知られる訳にも行かないので、仲の良い兄弟を演じるために精一杯楽しげな様子を装った。


「うん、そうなの!兄様が王都まで連れてってくれるって!昨日からずっっっと楽しみだったのよ!」

「そうかそうか、それは良かったな。ほら、これ食いな。席を譲ってもらったお礼だ」

「ありがとう!」

 

 その男はそう言うと、懐からドライフルーツの入った袋取り出したので、私は有難く受け取って臭いをかぐと、そのドライフルーツからは果物の甘さとは違う不自然な甘ったるさを覚えた。


「ほれほれ、食べて見な。おいしいから。そちらさんもどうぞ」


 その男がやけに勧めてくるのが少し胡散臭かったので、他の乗客にも勧めだした隙を見計らって食べた振りをした。皆美味しそうに食べて車内の空気も少し和んだが、異変は直ぐに起きた。

 ドライフルーツを食べた乗客達が急にプツンと糸が切れたように眠りだした。それに気が付いた他の乗客が起こそうとしても全く起きる気配がない。私は危険を感じ、彼に伝えようとしたときだった。


「動くな! おらァ、馬車止めろ! 止めなきゃ殺すぞ!」


 そう言いながら何処からか短剣を取り出し、周りの乗客達に向けた。そして仲間がいたのだろう急速に馬車に近づいてくる複数人の足音が聞こえた。


(よりにもよって盗賊......ど、どうしたら......そうだ寝たふりしなきゃ怪しまれる)


 私は咄嗟に彼の胸に頭を預けて寝たふりをした。幸い怪しまれることはなく馬車は盗賊一味に囲まれて、乗客は全員馬車から降ろされた。寝ている者は一つに集められ、起きている者は少し離れた所で武装解除されられた後に縛られている。こっそりと目を開けて周りの様子を伺うも、見えただけで8人の盗賊が馬車と乗客達の周りを取り囲んでいる。そのとき運の悪いことに見張りの一人とバッチリ目が合ってしまった。


「おいおい、お嬢ちゃん。眠った振りったぁ、良くねぇなァ。これは見せしめに()()()()しなくちゃなァ、オイ! お前ら!」


 その盗賊の男は近くにいた仲間を呼ぶと、下衆な表情を浮かべながら近づいて来て、私を荒々しく引っ張り上げ起きている乗客の前に立たされた。その中には彼の姿もあった。


「おい、お前ら。コイツみたいに逃げようだなんて思うなよ? これは見せしめだ」

「い、嫌。止め――」

「うるせぇ!」


 私は震えながら思い切って声を出すと、言い切らないうちに殴られた。突然の衝撃に私の体は傾ぎ、地面に倒れ伏した。口の中が切れたようで久しぶりに血の味が口の中に広がった。


「チッ! 騒いでんじゃねェ――」


 盗賊がズカズカと地面を踏み鳴らしながら此方に近づいて来て、私に拳を振り下ろすのが見えて、咄嗟に身を固め目をギュッと閉じた。しかし殴られることはなく代わりに聞こえたのは急速に何かが近づいてきてはじけるように激突するような音と、バチンと何かが千切れるような音だった。

 私が目を開けると盗賊の姿は何処にもなく、代わりに右腕を降り抜いた彼の姿があった。

色々ストーリー考えていたら遅くなりました。

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