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振り出す雨

023

 

 雲一つない早朝の空に、僅かに爽やかな風が吹いている。折角のいい天気だから、今日は昨日しなかった洗濯からしようと思い、汚れた衣類の入った籠を持ち上げて、外の洗い場に向かった。彼の分は彼がまだ寝ているから後だ、そんなことを思いながら鼻歌を歌いつつも、石で整備された洗い場の縁に座ってジャブジャブと洗っていた。


「おはようロル。今日はすごい機嫌がいいな。何かいいことでもあったのか?」

「お、お早うございます旦那様。そうですね、とっても良い夢を見ました」


 気がつくと彼は近くの窓から顔を出していた。鼻歌を聞かれていたことを少し恥ずかしく思いながらも、立ち上がり丁寧に朝の挨拶をした。少し浮かれていて、彼が起きていることどころか近くにいることさえ把握していなかった。


(今後は気をつけよう......それで一体何をしに来たのだろう、朝食のリクエストをしにでも来たのかな?)


 しかし、彼の口から出た言葉は全く違うものだった。


「で、ご機嫌で洗濯しているところ悪いけど」

「はい。なんでしょう」

「今日は昼から雨だ」

「え」


 私と彼の間に一際強い風が吹いた。確かにそれは微かに雨の気配を孕んでいた。


◇◇◇


 時刻は昼過ぎ。食後に椅子に座ってゆったりと本を読んでいる彼の近くにあるテーブルの上にお茶の入ったティーカップをそっと置いた。ハーブのスっとした爽やかな香りが鼻をくすぐる。これは庭で育てているハーブで作った自家製のハーブティーだ。彼は食後によくこれを所望することが多い。

彼はティーカップが置かれたことに気がついたみたいで、本から顔を上げるとこちらを向いた。


「ん、淹れてくれたのか。態々ありがとうな」

「喜んで頂けたなら」

「それにしても、ロル。淹れるのも大分上手くなったな」

「......ありがとうございます。日々精進していますから」


 こちらを見ながら一つも言い淀むことなく褒めてくる彼の顔を見ていられなくなって、持っていたお盆を抱え直し窓の外に目を向けた。


「そ、それにしても、結構降ってますね......」

「ああ、この時期はな。仕方ない」


 雨が降ると分かった後、そう時間を置かずにぽつぽつと降り出してきて、昼前にはざあざあと降っていた。当然洗濯物は外で干すことができないので、空き部屋の一室に干してある。


「この量の雨は久しぶりです。王都にいた頃は何故か降っても小雨程度でしたから」

「あぁ、王都には自然災害に対する結界があるからな。外はどんな大嵐で豪雨だったとしても、結界内は精々そよ風、小雨ぐらいにしかならないんだよ」

「そうなんですか、それはまた随分大規模なものですね」

「流石にいつもは稼働してないからな?一定以上の災害の時だけだ」


 そのとき一層強い風が叩きつけ、怪物の唸り声のような家鳴りが部屋に響き渡った。私がお盆を落とした音などかき消すぐらいに風が轟々と吹いている。しかし彼には聞こえていたようで、すこし心配そうな表情でまたこちらを見ていたので、大丈夫だという意味を込めて笑いかけたが、そのときまた大きな家鳴りが鳴り響いた。彼はスッと目を細めると読んでいた本を閉じて立ち上がった。


「怖いなら怖いと言って入れればいいのに」

「いえ!別に怖いわけではないのです。ただ、驚いてしまうだけで」


 私は彼から少し目を伏せながら言った。

 私は昔から大きな音は嫌いだ。種族的に耳が良いというのも勿論あるが、あの日から突然聞こえる大きな音には良い思い出がないからだ。


「折角だから良いものを見せてやろう。ちょっと待ってろ」


 彼はそう言うと、スタスタと部屋を出ていった。私は不思議に思いながらも部屋で待っていると、彼は不思議な形した天球儀のようなものを両手で抱えながら部屋に入ってきた。ドサッと床に降ろして一息つく彼に近づいて聞いてみた。


「それはどんな物なのでしょう?」

「あぁ、これはさっき言った王都の結界の小型版だ。まぁ、王都のものよりもずっと効果は弱いが。それでも、これを使えばマシにはなるだろうさ」


 そういうと彼はその魔導具に手をかざすと、魔導具がぼんやりと光を放ち始めた。途端激しい風や窓を打ち付ける雨粒が、幾分か穏やかになって少し雨風か強いときぐらいに変化した。


「ありがとうございます旦那様!この魔導具は旦那様がお作りになられたのですか?」

「ああ、とは言ってもシステムをパクっただけだが」


 そうは言ってもそれだけものを作れるのだ。やはり、かなりの技術力があるのだろう。私はあることを聞くために更に質問を続けた。


「そういえば、この家にある魔導具は大体が旦那様の手作りなんでしたよね。旦那様はどんな魔道具でも作れるのですか?例えば......他人の夢の中に入る魔導具のような」

「大体は作れると思うが......他人の夢か。そんなの作れるわけがないだろう。そもそも魔術を使っても、人の意識の表層しか覗けるものしかないのだ。魔導具で作れるわけがない。そんな域の代物、神でもなきゃ作れんさ」

「そうですか......前見た小説に出てたのですが、あれはお話上のものだったのですね」

「そりゃそうだ」


 彼は当たり前だろ、とでも言いたげな表情を浮かべていた。私より余程魔導具に通じている彼が言うのだ、間違いない。私は酷く残念そうな顔を向けて、また別の話を彼に振ったが、頭の中ではあのことで一杯だった。


 お兄様はどうやって私の夢に入ってきているのだろう、と

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