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私は私

021


 私は横たわったまま暗闇をゆっくりと落ち続けていた。只々暗いだけ......というわけではなく、光る球体が下から浮かび上がってくる。それに触れると、ここ一か月の記憶を細部まで鮮明に見ることができ、次々に記憶の光球に触れて楽しんでいた。それはこの家に来てからの他愛ない日常の数々だ。例えば、彼に教わりながら料理をしたり、その日の天気に一喜一憂したり......そんな日常が限界近くまで荒んでいた私の心を徐々に癒していたのだ。


(こうして見ると......私、大分彼に救われたのね......)



 そんなことを思いながら夢を楽しんでいると、突然下からゾッとする程の寒い風が吹き荒れた。周りに浮かんでいた光球は上へ上へと流されていった。光球が夜空に浮かぶ星ほどの大きさになったとき、ピタリと風が止んだ代わりに、後ろから温度の感じられない平坦な声が聞こえてきた。


「ねぇ」


 そんな不気味な声の方を振り返るとそこには――――私がいた。しかしその姿は彼に出会う前のボロボロの姿だった。げっそりと痩せた体は痣や切り傷、火傷の跡などがあちらこちらに刻まれていて、見るも絶えないぐらいに汚れてるが、その目にははっきりと憎悪の念が浮かんでいてる。


「貴女は一体何をしているの?」

「な......何って」

「だってそうでしょう?ちょっと弱ってたところを優しくされたぐらいで、王国の奴なんかに懐柔されちゃって。あれを殺せる機会なんて幾らでもあったのに、いつも何だかんだ理由をつけてなぁんにもしなかったじゃない。本当に復讐する気があるの?」


 いつの間にか昔の私は私の目の前にいた。そこから更に顔を近づけてくる。

 

「何を言って!それじゃ――」

「王国は落とせないって?そんなの当たり前じゃない、私一人でどうにかなるわけじゃないでしょ。物語の勇者や英雄じゃないんだから。私のできることは、私のやるべきことは、王国民どもを一人でも多く殺して、殺して、殺してッ! そして華々しく散って一人でも多くの同志を煽ることでしょう?」

「そんな......他にもっと――」


 私の弱々しい主張に痺れを切らしたのか、ガンと頭を打ち付けてきた。


「あるわけないでしょッ! 私が何をできるというの!? あいつらは平気で禁忌に手を出す外道どもよ!? どんな未知の手段を有しているかわかったもんじゃない! 例え運よく国の中枢に潜り込めたとしても、きっとバレる。楽に殺して貰えればいいわね」

「そういうのなら......私は何を......」


 昔の私は首をカクンと傾けるとニイッと笑ってこういった。


「先ずは彼を殺るの」

「そんな!」

「彼が私達の主人として登録されている以上、必ず障害になる。だから、殺すのよ。普通なら反抗を防ぐための命令や制約をするけど、彼は最低限しか掛けなかった。おまぬけなのか、実力があるのかは知らないけど。だから殺すは容易、ナイフ一本で済むわ。私に、憎しみに身を任せて?私は貴方で、貴女は私なんだから」


 固まったように動かない私に、昔の私が腕を徐々に広げながらゆっくりと近づいてきた。私はその様子を黙って見るしかできなかった。


(もう......いや! 夢なら、夢なら早く覚めて!)


 その腕が振れようかというときに、突如一際暗い闇が押し寄せてきて、私を押し流した。再び私は周りを闇に覆われてしまった。しかし、今度は一片の明かりもない。私が唖然としていると、何処からともなく懐かしい声が聞こえてきた。


「ああ! 僕の愛しい妹よ、ご機嫌如何かな?」

短いですが。そういえば、一話にてロルちゃんの来歴について加筆しました。よろしければ見て下さい。今回触れたような日常でのあれこれって全く書いてないですね。何か思いついたら番外編という形で残しておこうとは思ってます。

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