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束の間の

020


 私はひたすらに暗い空間にいた。それはあのときの寒さと飢えに支配されていた夜闇ではなく、全てを奪われたあの日の暗黒とも違う、遥か遠い昔に感じたことがあるような、なんとも言えない懐かしさを感じさせる温かな暗い闇だった。それから感じる温かさは隅々に行き渡り、私の強ばった、緊張し切った身体を段々と解していくようであった。それはまるで一瞬でも火を絶やさぬように見張り続けた番人が得た束の間の休息のようで、人にとって与えられるべきものであるが、ともすれば人を堕落に導くような、そんな妖しさを孕んでいた。


 しかしそんな空間も終わりを迎えていた。何処からともなく差し込んでくる眩い光と大きく揺さぶるような感覚に、私の意識はぐんと覚醒しようとしていた。そんな最中、私が感じたのは今を惜しむような気持ちだったが、奥底の方で覚めて清々したと感じるところが確かにあった。


「......ル、ロル。起きろ」


 そんな声に従って私はゆっくりと目を開けると、眼前にいきなり彼の顔があった。驚いて思わず頭を急に後ろに引いてしまったせいで座席に勢いよく後頭部を打ち付けてしまった。俯いて後頭部を押さえるも鈍い痛みが脳に響き渡る。しかしそのおかげで私は完全に覚醒した。昨日泊まった貴族の屋敷から馬車で帰っているときに寝てしまったのだ。ふと彼を見ると、彼は呆れたような顔をしていたので、微笑みかけて誤魔化した。


「何をやっているんだ」


 どうやら彼は誤魔化されてはくれないようだ。本当のところをそのまま伝えるわけにもいかないので、私は真実の一部を伝えることにした。


「あのですね。目を開けたら突然、その......お顔が近くにあったので驚いてしまったといったところで」

「はぁ......まあいい。家に着いたから荷物を降ろすぞ」


 彼は疑うような視線を向けていたが、再び微笑みかけて誤魔化すと溜息をしながら座席を立った。


(言えるわけがない......ドキッとしただなんて)


 彼は置いてあった荷物を外にいる御者に次々と手渡していった。少し呆けていたが私も立ち上がり、彼の手伝いをした。何故か増えている荷物を全て降ろし、御者に別れを告げた。王都に向かう道を行く馬車を見送った後、手分けして荷物を貯蔵庫に収めていった。

 収めて終わった後、彼はフラフラとしながら階段を上ろうとしていたので、彼に声をかけた。


「昨日は助けて下さってありがとうごさいました。それにあのお方の屋敷に泊まったのも――」

「いや、言わんでいい。あいつに用があっただけだ。そういえば、その腕輪どうだったか?問題はなかったか?」

「あっ、はい、そうですね。人には完全に人だと認識されます。ただ獣人のような鼻が利くものには臭いでばれてしまいますね。あと、何故か子供だと思われてしまうのでそこをどうにか......」

「ロルは身長が低いからな......人の年相応の見た目に合わそうとするとどうしても......まぁ、どうにかしてみるが、ある程度は我慢してくれ。しかし、臭いか......ふむ」


最後に寝ると言い残すと階段を上がっていった。彼は私に何か言い残すことなく寝てしまったので、昨日やらなかった仕事をこなしているとあっという間に夜になった。


(流石に起きられるわけがないよね、一応何か食べられるように用意はしておくにしても......ちょっと今、顔見れない......)


 不覚にもあんなことを思ってしまったのだ、起こしにいくのは少しハードルが高い。そうでなくても彼は今かなりの寝不足だろうからきっと起きるはずがない、そう自分に言い聞かせていつものように夕食を取り、お風呂に入った後、速やかに自室のベッドに潜り込んだ。しかし、馬車で寝てしまったこともあって中々寝付けなかった。


(はぁ......それにしても......色々なことがあったな。獣人のことは今度向こうにいったときにネイか、誰かに聞いてみないと、きっと私にも関係するだろうし。あの不作法者は......まあ、貴族だとは思っていたけど、あれ程とは......。彼のことは......うん、これは止めておこう)


 つらつらと昨日今日であったことを思い出していると眠気がこみ上げてきたので、これ幸いと意識を少しずつ手放していった。

少し短いですが切りがいいので。多分次は夢のお話だと思います。

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