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それぞれの起床

018


「ん......朝か」


 私は見慣れない天井を見上げつつ、欠伸をしながら少し伸びをした。朝から仕事のある使用人達が働き出す時間帯なのだろう、あちらこちらから足音や扉を開け閉めする音が微かに聞こえる。

 起きているときに聞く分には気にならない程の音量なのだが、基本的に眠りの浅い私は、少しでも覚醒してしまうとあちこちが気になってしまい、起きてしまった。音のことだけでなく、昨日体を洗わず、そのままの服装で寝てしまったこともあり再び寝るのは不可能に近かった。

少し億劫であったが部屋を出てお湯を貰いに行き、体を拭いて着替えを済ませるとお腹が空いていたので、少し無理をいって屋敷の使用人達に混じって朝食を貰っていた時のことだった。


「あ!ロルちゃんいた」


 私の名前が耳に入ったので声のした方に視線を向けると、昨日私を屋敷まで案内したメイドの子だった。私を探して動き回っていたのだろう、少し息を切らしながら私のところまで駆け寄ってきた。


「ああ、昨日の」

「はぁはぁ、やっと......見つけた」


 そういえば、昨日お風呂の時間になったら知らせると言われたけど、結局直ぐに寝落ちてしまったことを思い出した。


「昨日はごめんなさい。あの後直ぐに寝てしまって」

「ああ、そのことは別にいいのよ。そんなことより、貴女に用があるの!」

「?」

「お客様......貴女のご主人様にね、寝る前に二時間後に起こすよう言われたのよ。それで二時間経って、外から部屋の中の目覚めの魔導具を起動させても、全くも起きてこないし......何故か部屋の扉が開かないから貴女に聞こうと思って」

「ああ、そういうこと......」


 彼女の話を聞いて、私は内心どうしたものかと考えを巡らせた。


 彼は基本的に眠りが深く、中々起きない。どうやら寝たのも夜遅くだったようで、昨日からの寝不足も相まって、目覚めを告げる魔導具の音では、起きない程深く眠っているのだろう。 

 それに彼のことだ、いつも寝室の扉に自作の鍵かけの魔導具を使って寝ているので、彼の認めた者しか部屋に入ることができない。


(魔導具では起きない。部屋にも入れない。どうしようもなくなった彼女は、私をあてに......ってわけね)


「とりあえず、部屋に案内してくれないかしら?」

「ありがとう!本当に助かるわ!」

 

 朝食の途中であったが泣く泣く食器を厨房に返すと、私は急かす彼女についていって屋敷内のとある一室に辿り着いた。私のいた部屋の扉より豪華な装飾が施されているなと思っていると彼女に腕をグイッと引っ張られた。


「それじゃあ、起こしてきて!貴女だけが頼りなのよ!」


 そう言う彼女を尻目に、私はドアノブに手をかけゆっくりと回すと、ドアノブは難なく回転して扉は音もなく滑らかに開いた。

 部屋は酒気が漂っていて、薄暗かった。私は顔をしかめて鼻をつまんだ。寝室に入るとこんもりと盛り上がっている布団が目に入ったが、それを無視してすぐ横の壁面を覆うサラサラとした良い手触りのカーテンを手に取ると大きく開け放った。

 シャーという音を立てて開かれたカーテンの向こうには、私の身長の二倍ほどあり、良く磨かれて汚れのない窓ガラスを携えた大きな窓であった。晴れやかな空に浮かぶ太陽から生まれた光はカーテンという障害を無くして薄暗かったこの部屋に降り注ぐ。

 思わず目を細めたが、続けて窓を開け放つと朝の爽やかな風が入り込んできた。換気を促す程度に風の魔術を使うと酒気を帯びていてずっしりとした部屋の空気は、軽やかなものへ変わっていく。満足した私は、彼の寝ているベッドへ向かった。


(そういえば、殆ど彼の寝顔を見たことがなかったな......)


 あの家に来て二日目の日以来彼の寝顔を見ていない。あのときの自分は全く余裕がなかったので彼の寝顔など見ている暇なんてなかったし、何度か彼を起こそうと寝室に入ったことがあるが、大体の場合扉を開けたときに目を覚ますので寝ているときを見たことがない。少しワクワクしながら枕元を覗き込んだが、その表情に一瞬固まった。


(......うなされている?それにしても、かなり辛そう)


 彼は痛みをこらえるときのような、酷く辛そうな顔をしていた。そして心無しか息も荒く、額から汗の雫が伝った。彼女のこともあるし、うなされているのであれば早急を起こそうと思い、彼の体を軽く揺さぶった。


「旦那様、旦那様。朝です」

「う......やめ......俺が、俺が」


 彼は苦しそうにうわ言を繰り返している。その内容ははっきりしないが、謝罪と拒絶のような言葉繰り返していた。


(もしかして、これを見られたくないがために......?)


 どちらにせよ彼をこのままにしておくのも悪いので、さっきより一層強く揺さぶった。

 

「旦那様、旦那様!」

「!......ロル、か」


 声をかけながら強め揺さぶっていると、彼は目を覚ました。一瞬剣呑な表情をしていたが、私を見るとフッと微笑を浮かべ、私の頭を撫でた。


「旦那様、お早うございます。」

「ああ、お早う......起こしてもらったところで悪いが、少しの間部屋を出ていってくれないか。仕度をする」

「分かりました」


 私が部屋を出ると、彼女は喜色満面で出迎えた。


「どう?起きてもらえた?」

「ええ」

「ありがとう!助かったわ!それで、この後どうする?朝食の邪魔をしてしまったから続きを食べる?」

「ええ......いや、やっぱり止めておくわ」

「そう?」


 なんだか何か食べる気を失ってしまったので、彼女に部屋に戻ることを告げると、彼女はあったら呼びに行くと言うと仕事が押しているのか早足で去っていくのを見送った。

 私は廊下の窓から空を見上げた。雲一つない青々とした晴天だ。いつもは気持ちの良い空を見上げれば、沈んだ気持ちもパッとしない気持ちも空のように晴れやかになるのだが、今日に限ってははれることはなかった。


(......きっとまだここに慣れないせいね。部屋に戻りましょう)


 私はもやもやとした気持ちを一旦押し込めて部屋へ戻った。戻って何をしても気持ちが晴れることもなく、その理由も分かることはなかった。

忙しかったので。お次は28日に

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