宿探しの行方
016
私は彼の”貴族”という言葉に身震いをした。私の悪い予感は的中したようだ。私のこれまであってきた、この国の貴族に関する嫌な記憶の数々が蘇ってきた。頭を抱え俯いた私の頭上から、心配するような声が降ってきた。
「……ロル?立ち眩みか?」
「ええ、まあ。そんなところですね」
本当は違うのだが、この事を彼に話しても仕方がないしする必要もない。変に勘繰られても困るので、彼に弱々しく笑いかけて見せた。
「そうなら尚更早く向かわねばな」
彼はそういうと持っていた荷物を背負い直し、また歩き出した。墓穴を掘ったような気がするが仕方ないだろう。
「......本当にそのお方の邸宅にお邪魔するのですか?」
「仕方ないだろう。それにもう着くんだ、今さら安宿いくのも嫌だ」
「……そう、ですよね」
やっぱり貴族の家に泊まるのは確定なんだと思い、私の気持ちは憂鬱とし出してきた。家主の貴族と会うことがあったらどうしようだとか、私は今奴隷だから万が一興味を持たれたら、売られてしまうのだろうかだとかを彼の後ろをトボトボと歩いていると、彼が止まったことに気が付かずぶつかってしまった。
「ロル何やってるんだ……ほら、着いたぞ」
ジンジンと痛む鼻を擦りながら彼の指さす方を見るとそこにはずっしりとした塀に立派な門で、その門の隙間からチラッと豪華な邸宅が見えた。門番が私たちの存在に気が付いたのだろう、こちらに近づいてきた。
「あれ?貴方は昼間の魔導具師の。何か御用で?」
「ああ、そうだ。主は在宅か?一つ急ぎで話したいことがあるんだ。誰か中の者に取り次いでくれ」
「そういうことですか。只今旦那様はご在宅でございます。中の者をこちらに呼ぶので暫しお待ち下さい」
「ああ、助かる」
門番は礼をすると、塀に取り付けられていた金属製のボックスを開きなにやら会話を始めた。これもまた魔導具の一種なのだろうと思っていると、門番が直ぐ来ると思うのでもう少し待ってほしいと言って初めていた場所に戻っていった。
2、3分程であろうか、門の向こう側に執事服をきた初老の男性が現れた。門を開け、こちらにやってきてさっきの門番とは一味違う洗礼された一礼をした。
「夜分遅くに申し訳ないんだが、主に目通り願えないだろか。あと一晩こいつの面倒を見てほしい」
「畏まりました。わが主は貴方様の来訪をいつでも歓迎しております故、今晩のご滞在も喜ばれるでありましょう。お付きの方に関されましては、私どもの方でおもてなし致します。荷物の方はこちらの者にお任せ下さい。では中にご案内致しますので此方へどうぞ」
そういうと、後ろの方で控えていたメイドが出てきた。彼はそのメイドに荷物を渡すと、その執事の後をついていった。私も彼についていこうしたらメイドに止められた、どうやら私は別行動のようだこの家の貴族に合わずに済むという安心感と一抹の不安と寂しさを感じていると、メイドの一人が話しかけてきた。
「それじゃ貴女はこっちよ、ついてきて」
私は言われた通りにそのメイドについていった。敷地内の庭は所々明かりの魔導具が使われていて明るく、警備の人間がいるみたいだ。恐らく侵入者対策なんだろう、かなり徹底してることが伺える。
私はそんなことを感じながら歩いていると、屋敷についた。豪壮な玄関とは違い、少し小さく質素な扉を抜けた。中は彼の家より断然立派だ。こちらは使用人達の区画なのだろう、夜なのに様々な使用人が動き回っている。完全に私達が来たせいだ。少しは申し訳なく思いつつ、屋敷の中を歩いていった。
「それじゃ貴女の部屋はここね、お風呂の時間になった呼びに来るから。なにかあったらベルで呼んでね」
そう言われて示された部屋に入った。そこは客室のようだが、私の部屋の倍はある広さだった。清潔感のある大きなベッドにすぐさま飛び込むとはぁ~と息をついた。
「......今日は本当に疲れた。もう動きたくない」
(貴族って聞いて憂鬱気分だったけど、杞憂だったみたいね。まあ、彼は別かもしれないけど。それにしてもこのベッド中々にいい......ふわぁ)
今日はずっと動き回っていたので、お腹は空いていて体は汗でベトベトで少し気持ち悪かったが、襲いくる睡魔に勝てる筈もなくそのまま寝てしまった。次の日の目覚めが最悪だったのは言うまでもないだろう。
思ったよりあまり進みませんね。ちょっと強引に切りましたが許してね。お次は旦那様のパートです。




