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喧騒の中で

少し短いですが

014


 近くで何か騒がしい音が聞こえた。よく耳を澄ませてみると、店が立ち並ぶ賑やかな表の通りにあまり似つかわしくない音が聞こえる。微かに聞こえるは男たちの荒々しい怒号に、甲高い悲鳴。なにより私の気を引いたのは、喧騒の方から微かに臭う犬系の獣人の臭いだった。


(これは……もしかしてネイの言ってた不当な取り締まり……?それなら是非とも真偽を知りたい!)


 音のする方に近づいていくと、そこには軽く人だかりができていてよく見ることができなかったため、人をかき分最前列に出た。そこには、通りで度々見かける衛兵の格好した人族の男たちによって、取り押さえられている亜獣人の男の姿があった。恐らく抵抗したのだろう顔は腫れ上がり、服はボロボロだ。しかし、まだ完全には屈しはいないのだろう。声に怒気を孕ませて叫んでいた。


「クソ放せッ!俺が何をしたッてんだよ!何もしてねェだろうがッ!」

「だーかーら、不法侵入なんだってば。お前この建物で寝泊まりしてただろ?」


 そういう亜獣人の男に対して、衛兵達はにこやかな表情をしているが、その裏には侮蔑の感情が透けて見えた。


「はァ?ここは俺ンちだっつぅーの!何度言ったら分かんだよッ!昔ッから住んでただろうが!それなのに何を今更――」


 ガッ!


 衛兵は持っていた剣の腹で亜獣人の男を叩いた。血と共に歯が飛び、男の頭は大きく横に傾ぎ、ドサッと音を立て倒れた。一段と血の匂いがツンと鼻につくようになる。久しく嗅いでなかった血の臭いと人の倒れ伏す姿は、あの日の記憶を呼び起こす。血の鉄錆びた臭いと、木や肉の焼け焦げた臭いしかない最悪の日を。

 身の内は暴れまわるようなドス黒い感情が、徐々に全身を支配していくのが分かる。やっぱりネイの言っていたことは間違いではなかったのだ。卑しい王国の連中が!今すぐにあいつらを――


「待つんだ。ロル早まってはいけない」

「!」


 急に耳元にそっと囁かれた小声と、今この場で聞けるはずのない声に、思わず飛び上がり声を上げるところだったが、寸でのところで押しとどまった。その衝撃は、さっきまでのドス黒い感情は驚きに塗りつぶされるほどのもので、先ほどの余韻で未だバクバクと治まらない胸の辺りを押さえつつ、私はそっと振り返ってその声の主を見た。


「旦那様……どうして」


 そこには今頃彼の家でぐっすりと寝ているはずの彼の姿があった。家を出る前にきちんと身支度をしたのであろう、今朝とは見違えるようだ。しかし、流石にまだ完全に疲れが抜けきっていないようで、少し眠そうである。


「ロル。気持ちはわかるが、ここでは何も解決しない。一旦引こう。いいね?」


 彼はそういうとそっと私の肩に手を置いた。


「…………はい」


 亜獣人の男のことは気になったが、今ここで彼の制止を振り切って暴れても、全く何も解決しないし、

もし仮にばれずに逃げ切れたとしても、王国が行う犯人捜査がどんな方法で行われているのか全く知らない以上、迂闊なことはできないし、捕まればほぼ確実に死。それとも奴らはそんな面倒な事はしないで、その辺の人に罪をかぶせるかもしれない。それこそ私達のような獣人たちに、そうなったらここで傷害沙汰を起こすメリットは何一つ存在しない。そう考え、私は大人しく彼に従うことにした。


「いい子だ」


 私の態度が伝わったのだろう、彼は私の頭をするっと撫でると私の手を引いた。私はそれに応じ、彼の後をついていった。彼の引く手は先を急くものではなく、寧ろ私を慮って優しく先導するようなものであった。

 そうして私達はその場を後にしたのだった。

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