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来訪

010


 私の一日の始まりは、庭の手入れから始まる。この時間帯はまだ彼が起きていないので、あまり家の中をバタバタと動くわけにはいかない。そこで私は朝食で使うために、庭で育てているハーブ類を採るのだ。私が来る前から庭に生えていたが、様々な植物が入り乱れていたのを最近になってやっと片付いてきたのだ。他には、彼の使う薬草などが育てられている。庭というには少し華やかさに欠けるが、彼が特に気にしない以上、手を加えるつもりはない。機能性重視である。

 私が庭(菜園)に水やりをしていると、朝のしんとした静けさの中から普段は聞こえない音が聞こえた。


「この音は......馬? しかもこっちに向かってきてる......彼を起こさなくちゃ」


◇◇◇


 彼はいつも私が庭で作業している間に起きてくるので、何気に彼を起こすのは初めてだなぁと思いながらも、彼の寝室に入った。彼は暗いのがお好みなのか、寝室の窓は全て黒い厚手のカーテンで覆われていた。カーテンを開ける余裕もなかったので、彼のベッドに駆け寄り、少し乱暴に揺さぶった。


「旦那様。起きて下さい、旦那様。何者かが近づいています」

「う、あ......!!! なんだ......ロルか。驚かすなよ、何かあったか?」


 彼は最初寝ぼけていたが、一瞬身を強張らせた。しかし、私と目が合うとほっとした表情になった。


「旦那様。誰かが――」


 ドンドンドン!ドンドンドン!


 けたたましく玄関の扉を叩く音が聞こえた。私たちは顔を見合わせると、彼はため息をついた。


「はぁーー、あいつ昨日の今日で全く......ロル、いやここは私が出るからお茶でも淹れてくれ」

「畏まりました」


 私が礼をして寝室を出ると、調理場に向かった。その間も玄関からは扉を叩く音が聞こえてくる。今日の来客はいったい何者なのか、一応彼の知り合いのようだが、大人しく待つという選択は出来ないのだろうか。

 私は手早くお茶の準備を済ませ、玄関の方に注意を傾けると、丁度彼が扉を開けたところであった。


「や!ユージン。遅いじゃないか!こんな時間まで寝てたのか、あんまり感心できたことではないな」


 どうやら扉を叩いていた無作法者は、若い男のようだ。僅かに金属の擦れ合う音が聞こえてくる。


「や! じゃないし、お前の場合は寝る時間が短すぎるだけだろうが。3時間も寝れば充分なやつと一緒にするな。後お前、あの先触れだと明後日って言ってただろうが。あの鳩は法螺を吹くための道具じゃねぇんだぞ?」


 彼は痛くお怒りのようだ。彼があんなに怒りの感情を露わにしているのは初めてだ。


「まあまあ、そういうなって。ちょっと立て込んでいてな、今日もこの後忙しいんだ、予定を繰り上げなくちゃいけない程にさ。さっさと報告書を作らないといけないんだよ。とりあえず、先ずはあげてくれよ」

「......ッチ。あがれ」

「はーい。どもども」


 彼と無作法者が客間に入っていったのが分かったので、私はハーブティーを持って客間に入った。件の無作法者は若い人の男で、王国の紋章の刻印された剣を帯剣していた。恐らく王国の騎士であろう。体が引き締まっているのが服の上からでも分かる。

 無作法者は私が部屋に入ってきたとき、私を見ると片眉をあげたがすぐに彼に顔を戻した。


「おいおい、ユージン。お前兎なんて飼い始めたのか? 昔あれだけ奴隷には嫌悪していたじゃないか! それなのに一体全体どういう風の吹き回しなんだよ」

「別に、何だっていいだろうが。それにこいつの名前はロルだ」

「ロル?......へぇ、やけに気に入ってるんだな。そういうプレイがお好みか!」


 無作法者は私のことをジロジロと下衆な目で見回すとそう言い放った。あの目、あの視線は、昔の雇用主の1人の目とそっくりだ。私はどす黒い感情が全身を徐々に支配してくるのを感じた。私は必死に感情を隠して壁と同化するように努めた。


「違う、あくまで使用人として雇ってる」

「ふぅん? まぁ、何だっていいけど。そういえば、やけに綺麗になってるな。全部やらせたのか?」

「......ああ、そうだ。この後、見させてもらうぞ......そんなもんかな。はい、報告書終わり」


 無作法者は何かメモをとっていたみたいだが、すくっと立ち上がると客間を出ていってしまった。私はその後ろ姿にガンを飛ばしてると、彼がこちらに向き直ったのが分かった。


「悪いなロル。決して会わせるつもりはなかったんだ。あれは典型的な王国民だからな」

「私に配慮してして頂く必要はありませんよ。......奴隷ですので」

「......」


 はぁーっと、盛大にため息をつくと、彼はハーブティーをぐっと飲みほした。


「あー朝からなんでこんな......ロル。おかわり」

「畏まりました。軽食もお持ちしているのでこちらもどうぞ」

「ありがとう」


 彼が朝食代わりに軽食を食べている間、私は不作法者の行方を探っていたどうやら家の中を見て回っているようだ。しかし、特に部屋の中に踏み入れる様子はない。全てを見終わったみたいでこちらに戻ってきているのが分かった。


「ユージンもう十分だ。俺は帰るぞ」


 不作法者は乱暴に扉を開けるとそういった。そして何だか何か思い出したような表情になり懐を探ると、一封の手紙を彼に差し出した。彼は慣れたように手早く封筒を開け、手紙の内容を確認していたが、何せ彼の方が身長的に高いので、盗み見ることができなかった。そう内容が多くなかったのか数秒ほどで再び、手紙を折りたたんでしまっていた。


「それじゃ渡したからな。今度こそ俺は帰る」


 そういうと不作法者は去っていった。完全に姿が見えなくなると、彼は立ち上がって部屋を出ようとした。彼は扉の前までいくと振り返った。


「ちょっと忙しくなった。一段落したら降りてくるからいつも通り仕事しててくれ、頼んだぞロル」

「承知致しました」


 彼はそう言うと、すぐさま二階に上がって行った。


「説明なし......か。まあ、そうだろうと思っていたけれど。それにしても王国騎士、か......」


 やっぱり彼は元々貴族だったのだろうか。だとしたらどんな理由でこんな所で暮らしているのか。


「やはり、どうにかして外出許可を貰えないかな?」


 私はそんなことを呑気に考えていたが、私の知らない間にも出来事は進んでいく。あの時は私は酷く愚かだとつくづく思う、無理矢理でもすぐさま彼の金庫を破るか、せめてあの手紙の内容を知るべきであった、と。

久しぶりに遅れないで投稿出来ました。

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