Hanged Man (ハングドマン)~片眼の冒険者~
初投稿です。
短い話ですが、少しでも楽しんで読んでもらえたらと思います!
一部の地域である噂が広がっていた。
【雨が止まない村がある】と。
そんな噂を聞きつけ、雨が止まないと言われている村にやって来たのは短いローブを羽織った金髪の男性1人と2匹カラスと狼だった。
彼の名はハル。カラスの名をレティ、狼の名をノルクと言う。
彼はとても不思議な旅人だ。
片目が見えないながらも、烏と狼を相棒にして不思議な噂を聞けば世界を巡る変わった旅人だった。
そんな変わり者だからこそ不思議な噂に惹かれるのだろう。
「おや?」
ハル達が村に来る途中までは快晴だった。
だが、空は近づくにつれだんだんと曇り空になり、村に着くとたちまち雨が降り始める。
雨が降るなりハル達は町の入口そばにあった小屋に避難した。
「ほぉ…ここが雨が止まない村ですか」
「うぇっ、雨でハネがびしょびしょ…」
「マスター、オレ達、どっかで休みたいんだけど…」
何故、三人分の話声が聞こえるのかというと、連れの2匹はハルの力のお蔭で人間の言葉が話せるからだ。
ずぶ濡れな2匹を見るなりハルは苦笑いする。
「そうですね。では少し情報収集をしてきますか」
ハルは小屋の前で二匹と別れると、すぐ先に見える広場に向かった。
雨ではあるが、広場には数人の村人が歩いていた。
露店にいた中年男性に声を掛けた。
「観光かい?」
「この村の噂を聞いて来たんです。いつ頃から雨が降っているんですか?」
「この雨はもう1ヶ月は降り続いてるんだ。穀物が育たなくて生活が苦しいよ」
ハルは村の人々何人かに聞き込みをし、止まない雨についての情報収集をしていった。
聞き込みをしていると、傘を差した子連れの女性が声を掛けてきた。
「あら、見かけない顔ね」
「好奇心旺盛な旅人です。どうして雨が止まないのか、興味が湧きまして」
「へぇ、原因を調べに来たの?…そんな理由でアンタみたいに来た学者が居たけど…原因は分からず皆帰ってしまったわ」
「ママ~、いつになったらここでお日様見れるようになるの?」
「いつだろうね。ママにはわからない事なのよ」
「そっかぁ…」
ハルは不安そうに母親を見つめる女の子を見るとゆっくり近づく。
そして背丈を合わせるようにしゃがむと笑みを浮かべて喋り始めた。
「こんにちは、お嬢さん。この原因、私が突き止めますので安心して下さい」
「絶対…?」
「えぇ、絶対」
ハルが縦に頷けば女の子は笑みを浮かべた。
不安だった顔が笑顔になる娘を母親が見れば軽く頭を下げると、この村の村長宅へ案内してくれた。
「ここが村長の家よ。何か良い情報があるといいわね」
「案内、有難うございました」
村長宅に着くと扉を数回ノックし、ドアノブを捻ると鍵が開いていた。
(…不用心ですね)
お邪魔します。と、一声かけて中に入れば周りを見渡す。
すると奥から無愛想な老人がが歩いてきた。村長のようだ。
「私に何か用かね」
「この村で起こっている事について聞きたいんですが」
「……」
ハルの言葉を聞くなり村長は黙った。
何かを隠していると察したハルは構わず話し出した。
「村の人から話を聞いていたんですが…貴方には若い息子さんが居たそうですね」
「…」
「その息子さんは村が管理している森に入ったっきり行方不明だと聞きました」
「…」
「村人全員で捜索しても見つからなかったそうですが…息子さんが森に入った日から今まで、ずっと雨が降っていると仰っている方もいました」
「…」
「村長…貴方、何か知ってますよね?」
「しっ…知らん!私は何も知らない!」
ハルが問い掛けると村長は急に口を開き慌てだした。
その様子を見ればハルは満面な笑みを浮かべる。
「ほう…本当に何もしらないのならそうは慌てないと思いますが…」
「…っく!大体っ、雨なんてたまたま降りだしただけだろ!」
「まぁ、安心して下さい。私は確証がなければすぐには言いふらさないので」
ハルが意地悪なことを呟けば、その態度に村長は苛立つと思わず怒鳴った。
「見っ、見てもないくせに…知ったような口を!!貴様は一体何者なんだ!!」
「私ですか?…ただの”旅人”ですよ」
「…たび、びと?」
問い掛けに対して予想外の答えに村長は唖然とし、ハルは家を出て二匹が雨宿りしている小屋へ向かった。
「あ、おかえり」
「マスター、これからどうすんだ?」
「森へ行きますよ。原因である悪魔を探します」
森は村から少し離れた場所にあった。
ハル、レティ、ノルクはその森を目指して出発した。
雨の中、ぬかるんだ足元に気を付けながら森の奥へと進んで行く。
暫く奥に進んでいくと、見るからに怪しい洞窟が見えてきた。
「ここが怪しいですね」
「…洞窟」
「んー、臭うな」
鼻が利くノクルは洞窟の置くに何か居るのを感じ取った。
ハルは腰のポーチから小さなランプを取り出すと明かりをつけ、洞窟の中に入った。
道なりに歩いて行くと急に空気が変わり始め、冷たくなってきた。
「寒い…気配がする。もうすぐじゃない?」
「気をつけろマスター、強い反応だ。」
「そうですね。油断せずに行きましょう」
二匹の反応を見てハルは頷くと、薄暗い先を見る。そこには広い空間があり、湖が見えた。
すると、バシャバシャと水の音が聞こえ、湖から大きな蛙が現れる。
「嗅ギマワッテイルヤツガ居ルト我ノ眷属ガ言ッテイタガ…ペットヲ連レタ人間カ」
「好奇心旺盛なただの”旅人”です」
「旅人ダト?…ソンナ輩ガ此処マデ来ルトハ思エナイナ。オ前カラハ同ジ”ニオイ”ガスルゾ」
「おや、この”ニオイ”に気付くとはなかなか優秀なんですね。鼻だけは…ね?」
「ハァ…?」
大きな蛙はハルの棘のある一言が癪に障り、聞き返すがすぐ違和感に気付く。
「…ナニッ!」
先ほどまでハルの傍にいたカラスと狼の姿がなく、気づいた時には二匹は大きな蛙の足元に居た。
咄嗟に飛び跳ねようとするが判断が遅かったため、その一瞬の隙を狙って二匹が左足を攻撃をした。
「ギヤァァァアア!!」
大きな蛙の断末魔と同時に二匹に攻撃された左足が取れて地面に落ちる。
「さて…私の問いに答えてもらいましょうか。この村の雨、お前の仕業ですね?」
「ソンナ、モノ…知ラナイ!」
「村長の願いを叶える為に息子さんは犠牲になりましたね?」
「犠牲?…ナンノ事…グアアア!」
ハルの問いかけに対して知らないと嘘をつく大きな蛙。
発言が嘘だと知っているハルは何処からともなく槍を手にすると、それで右腕を切り落とす。
「白を切るつもりなら次は右足ですよ?」
「ワ、分カッタ!話ス!話スカラヤメロォォオ!」
ハルの脅しに対して大きな蛙は恐怖に怯え、真実を話し出した。
長く続く雨の原因は大きな蛙・ヴォジャノーイという悪魔の仕業だった。
村長が森を探索している際に空腹だったヴォジャノーイと遭遇し、その時ヴォジャノーイが空腹を満たすために人肉を差し出せば願いを1つ叶えてやると村長に嘘をついて騙す。
欲に目がくらんだ村長は冨と名声欲しさに一緒にいた息子を犠牲にする。
嘘をついたヴォジャノーイに対し、村長は抗議したが聞き入れてもらえず、それが止むことのない雨を村に降らす原因となった。
「なるほど、なるほど」
「我ハ全テヲシャベッタ!…ダカラ、自由二シテクレ!」
「自由?…己の欲の為に人を殺す者に自由はありません」
ハルはそう言うと槍を大きく振りかざし、ヴォジャノーイを真っ二つに切り裂くと身体は砂へと変わり、跡形なく消えてしまった。
「あっけなかったわ…」
「そーだなー。暴れたりねぇ」
「こらこら、解決したならいいでしょう」
不満そうな二匹を宥めつつハルは来た道を戻り洞窟を出ると、外は雨は上がり、青空が見えていた。
ヴォジャノーイを退治したことで長雨の原因が消えたからだ。
「お、青空!」
「まぶしい…」
「雨の問題は解決しました。後は村の方々に説明をしないといけませんね」
ハル達は村へ戻ると人々に今回の原因について全てを話した。
自分の勝手で人を犠牲にした村長は国の憲兵に引き渡され、残った村人達は力を合わせて新たな村づくりを始めることにした。
ハルは村人達に感謝されながら村を後にし、また噂を頼りに旅立った。
此処まで読んで頂き、有難うございました!