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虚の混淆  作者: 緑茶猫
揺籃から墓場まで
11/16

4(2)

「荷物持ちますよ」


「ありがとう、でも気持ちだけ頂いておくわ」


 水之江先輩の買い物は本が中心だった。民間伝承関係の物が多かったのは、先輩の受けている講義に関係する物らしく、何冊も買うものだから、最初、卒業論文関係なのかと思い訊ねてみた所、否定された。先輩曰く、「民俗学は興味深いけど、実地調査が面倒だから」とのこと。勤勉なのかそうでないのかわからないけど、意外な部分を知れたので良しとしておこう。


 その上、荷物を持つという事も出来ない。先輩は買い物に付き合ってくれているだけで十分だと言ってくれているけど、俺としてはここら辺で男気を見せておきたい所なので複雑だ。


 本だって嵩張って重たい筈なのに、重たそうな素振りは一切無い。身長だって俺よりも低く、肩幅も小さい。こんなにも華奢に見えるのに、何処にこんな力があるのだろうか。


「歩かせてばかりで悪かったわね。少し、休憩しましょうか」


 近くにあったカフェに入って席に着く。内装は懐かしさを感じられる落ち着いたレトロな雰囲気ではあるが、壁紙や椅子等は比較的新しく、老舗という訳では無いらしい。


 秋である事の表れか、窓越しの空はもう日が傾きつつあった。今の時期はどうも季節感が曖昧で、夏なのか秋なのか微妙な感覚だ。季節しては秋な筈なのに、最近は気温のせいかどうも秋という感じがしない、十一月にでもなれば、もう少し気分も変わるのだろうか。


「私の買い物にばかり付き合わせてしまったわね。せめてもの気持ち……と言うと少し語弊があるけれど、感謝の表れとしてここは私に持たせてくださる? 遠慮しないで貰えると助かるわ」


「いやいや! こっちこそありがとうございます。一緒に買い物出来て良かったです」


「御礼を言うのは私の方よ。久しく誰かと買い物なんてしていなかったから、新鮮で楽しかったわ。ずっと私に合わせてくれていたみたいだけれど、貴方は何か欲しい物とかはなかったの?」


「特には無かったので、全然大丈夫ですよ」


 それに、俺としては先輩とデート出来ているだけで十分贅沢な思いをしている……と思う。


「そういえば先輩、本好きなんですか?」


「そうね……好き、という訳ではないけれど、嫌いでもないわね。どちらかと言うなら必要だから、かしら。私情で講義を休む事も多いから、どうしてもね」


「……すみません、軽率でしたよね」


「いえ、気にしないで頂戴。それよりも、この後どうしましょうか」


「元々先輩の付き添いなので、自分は先輩の行きたい所に着いていきますよ」


 ……下心が有るか無いかだったら勿論有るけど、下手な事を言って嫌われたくは無いし、まだまだ水之江先輩の事を知れるなら、それはそれで良い。


「……そう、じゃあ最後に少し付き合って頂こうかしら」






 適当に談笑して外に出ると、西の空は赤に染まっていた。辺りは暗くはないけど、街灯はぽつぽつと足下を照らし始めている。太陽が落ちてしまうと、気分もつられて変わって、名残惜しい気持ちになってしまう。もうすぐこのデートも終わってしまう。


 水之江先輩は、俺に「着いてきて」と言って先を歩いていく。足取りに迷いは無く、道中のガラスの奥に展示されている洋服や装飾品に気を取られる事も無いのは、明確な行き先が決まっているからなのだろう。


 前を歩く水之江先輩の香りが、風に乗って鼻腔を擽る。落ち着いた佇まいではあるけど、意外にも少女の様な甘い匂いで可愛らしくもあり、同時に色っぽくも感じた。

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