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妹モノのラブアンドバトルアンドサスペンスアンドカオス(嘘)

妹が出来たる話

作者: ポン酢放置禁止区域

きたな、おい、きたんだな。

どうも。

 混沌が降った次の次の次くらいから幾日か経っただろういつか、俺は家の中に寝そべっていた。

 右膝にはこの前出会った混沌の中核の妹、五番目のまだ名もなき妹が寝息を立てながら俺を抱き枕にし、寝間着に使っているジャージ生地のズボンの膝裏に執拗に舌を這わせる謎の寝相を起こして唾液で俺に膝から来る風邪をひかせようせんばかりだ。

 俺は意外と丈夫な体として街で有名で、依頼で毒ガスで形成された森の中をジャージのみで歩かされるくらいだからこんなことで病気にはなりはしないはずだが、それは普通の妹が膝裏を舐めた場合だ。

 こいつは混沌、俺の妹で、俺の母親たちの子であると同時に混沌の申し子でもある、いろんな所の子だから父親が気になるが、それを知るためには今や世界に散った五人の母親達に会いに行き、誰と夜を共にしたのかを聞かなけりゃいけないし、めんどくさい。

 そもそもあいつら揃いも揃って俺を自分が産んだと言い張るが、結局誰が産んだのかわかっていないし、父親も知れないから、もしかすると五人中五人俺を産んでない確率があるのを考えるとなんとなく会いにくい。

 育ての親ではあるから感謝はしているが、俺が十五歳になる時に五人でいがみ合い、家の中をめちゃくちゃにした挙句に人を集めて国を作り、今は戦争の最中。

 一人になった俺は死にかけながら今の住居を手に入れたわけだ。

 そんな事と今は関係なく、何で俺はここで横になっているか、ということだが。

 実は横にはなってない、どころかこの空間には縦も存在してなければ上も下もなく、ともすれば今ここで独白みたいにしてる俺さえも実際にはもう存在していないかもしれない。

 名もなき混沌の妹は夜だったこともあり、俺と会った時にはすでに眠かったようで、俺を自分の寝床であるこの謎の空間に引きずり込んだ後にすぐに意識をどこかに飛ばしてここからいなくなって、体だけしがみついて俺のジャージを汚しだした。

 引きはがそうにもこの世界に入ってからうまく自分の制御が効かず、少しでも動けば俺自身がこの空間になりそうな予感が体を縛って、しょうがなく浮いてるのだか沈んでるんだかわからない空間で、夢なのか現実なのかわからないままに瞬きだけをしている。

 入ってからどれだけの時間が過ぎたか、不規則生活で故障した体内時計しかない今、それを調べる術はない。

 だけど、これでよかったのかもしれない。

 妹達がこの空間に引きずり込まれて混沌に飲み込まれるよりは俺一人がいなくなった方がとても安心な方向性になっているような。

 バニラ味の夢でしか会えなくなるだろうが気まぐれに移り変われるなら悪くない。

 五人目の妹の名前をゆっくり考えながら空間に身をささげる余生が刹那なのか悠久なのか、知らないが、俺にとっては長い時間に感じられるからいい名前が考えられそうだ。

「にいにい、へへんだよ、カブトムシはクワガタムシの足元で不可思議に光り輝くのだよ、マヨネーズにはぜひ頑張ってもらいたいのだよ、きゅ~、へっへへへっへん」

「どうにも不幸せを蹴っ飛ばしてんなあ」

 名もなき混沌妹はのんきにいい夢見ながら相変わらず俺の膝裏を舐める。

 汚い、のか? 普通の人間ならそれは間違いなく汚物変換だが、こいつは混沌、実は浄化行動なのかもしれない。

 俺の膝裏に迂回と浸透打撃で隠れた汚れを落としていつでもクリーンな状態に……

 毎日体を洗っている身としては洗う部位が一つ減るのはありがたいがもっと汚れそうな場所を舐めてくれないか。

 そんな事を思考したせいか、混沌妹がもぞもぞと寝相にあるまじき力で俺の体をつかんで引っ張って膝から上に口をつけようとしていた。

 そこはいけないと思う。

 教育に悪いので俺は思わず体をひねろうとする。

 が、案の定意思は混沌に飲まれて体はいう事を効かず、むしろ直立の体勢をとり、空の大気に勢いよく突っ込んでいく感覚に襲われる、逆効果を生み出した。

 だが、混沌妹はやはり寝相にあるまじきパワー。

 掴む力の強さでジャージに手の形の穴が開く。

「おい! 起きろ! 名もなき妹らしきやつ! そんな所で登るな、段階は世代を超えて期をゆっくり踏めよ!」

「ううぃーひっくだよ、名前をつけて呼んでくれないにいにの声が響いてくる夢なんてなんて悲しいに転がるのだよ、でもまだ眠りの園だよ」

「本当は目を瞑りながら目を開けてるんじゃねえのか?」

 まずいな、まずは名前を考えなけりゃ、俺はどこか遠い所かもしれない。

「適当につけるにいには認められない夢だよ」

 絶対起きてるだろ、と思うが寝息は規則正しく乱れがなく、密着してるせいで感じる鼓動はメトロノームが嫉妬して自殺する。

 なおも上る五人目、だが、突風を感じているのかその手は震えて、急に上る速度が落ちた。

 感覚すらあいまいになっているから俺にはわからないが表情に苦悶が浮いている。

 今が苦しいのか、見ているのが悪夢か、名前を考えて、やっとおれは思いつく。

「よし、お前は、お前は妹で、フィフタだ!」

「う、うぬーんだよ、今名前が決まったようだよので目覚めたのだよ」

「目覚めたら言う事はただ一つだろ?」

「うん、おはようだよ、にいに」

「おはよう、ずいぶん寝たんだかどうなのかはどうかよくわからねえけど、よく寝れたのか?」

「抱きにいにが優秀だったからぐっすりだよ……て、わあ! ここ混沌だからにいにが混沌としてるよ、大丈夫じゃない?」

「もちろん大丈夫じゃない」

 さっきから意識があるのかすらビニール袋の空気、傘をさして空も飛べそう。

 飛ぶのは傘だけで俺は持つ手すら消えてしまいそうだが。

「出るんだよにいに、うんしょ! ……出れない」

「いい、お前だけでも出ろ、俺は飲まれる」

「だめだよにいにだよ、ばらばらは寂しかろうだよ、きっとだよ、だから一緒だよ、こういう時のセリフを混沌の中から取得してみたのだよ、え……っと、一生一緒にしょっしょでしょ!」

「それも悪くないって思いはたぶん混沌のせいなんだろうな」

 未曽有の大地に脳みそが引きずられて俺は俺を見た。

 黒くて丸い地平線に行きつけの店の店主が薬指と親指だけをぴいんと立ててフライ返しで伝統を叩き追って笑う。相変わらず器用だな。

「どこやねんあんちゃん! 返事は返ってこおへんと寂しいんやで! いきなりどこかに消えたと思ったらなんや存在すら消えそうになっとるやん! そんなのあかん、どうにでもなってええけど消えそうになったらうちの心が消え去りたいねん!!」

 四人目の妹、ですの呼び声が聞こえて、俺ははっとした。生きる意志がにじんで何か熱くなる

「兄様、体には大いなる力!!! 目は明日を見据えてください!! そうして想えばつながります!!」

 三番目の妹のいもみの声で体の感覚が戻ってきて俺の視界は謎の空間に戻って来た。

「ぽぉろあにーしゃ、どーどー」(戻って来てよクソ兄貴! おにいちゃんはどんなところでもお兄ちゃんだよ!!)

 薄れゆく意識を救い上げるかのように一番目の妹のまいちの声がして、俺の意識は鮮明になり、体に力が戻って来た。

「兄さん、あきらめの街角に放火してみたくない?」

 二番目の妹、しいつの声が脳に響いて俺は覚醒した。

 体に今まで以上の力が渦巻くのを感じ、混沌の中に確固たる俺が君臨する。

「よかったのだよ、にいにの力が戻ってアタシは幸せだ」

「そんな幸せよりもっと幸せがあるだろうよ、なんたってフィフタは俺の妹に増えたんだからな!」

「うんだよ! にいに、お願いするのだよ」

「おう、任せておけ、外に出るぞ!」

 混沌の世界なんてどうでもよくなって、俺はみなぎる力のままに首を横に振る。

 そうして気付けば俺はフィフタと一緒に自分で作った土の壁の前にいた。

 帰ってこれたか、ああ、眠い。横になろう。

 その場に崩れ落ちて目を瞑る、色んな事が起こりすぎて脳がなくなりそうだな。

「なんや寝とるやん、ならまたじゃんけん大会やな、新しいヤツも含めてやろうやん」

「フィフタなのだよ、という事はお前らは姉さんなのだよ? 負けないのだよ」

「わ、わたしが勝つ! みんな打ち倒すぞ!」

「あら、息轟々で怖いわね、吹き飛ばされてしまいそう」

「やーばんいもー」(わたしが一番の妹としてみんなクソ妹だよ!)

 薄れ行く意識の中、何故かじゃんけん大会を始める妹たちの意思をなんとなく知覚した。

 成程、俺の隣で寝る権利をじゃんけんで求めようってワケだ。

 みんな甘えん坊な妹だ、まだまだ子供だね。

 小さいんだから体丸めればみんな近くによって寝れるだろうという事に気付かねえとは。

 まあいいや、フィフタの親睦を深めるためにも放っておくのも手か。

 ああ、平和が戻ってよかったな、妹達の声を安眠剤に俺は意識を浮かせた。


混沌から抜け出してまた今度

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