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奏鵺街の日常。  作者: 蒼銃
3/4

青薔薇の君と塗り壁

 出前で行った先から帰ってくる時に迷ってしまった。

 紙に書いた地図は持っているし、その通りに戻ってきたはずなんだけど。


 空を見上げる。

 奏鵺街は今日も煩雑で迷路のような街並みをだった。


「困ったなぁ」

 さっきあの目印から来たんだから、ここの東にいけば抜けられるはずなのだが。

 東をみる。

 塗り壁が通せんぼしていた。

(行きはいなかったのに……!)

 塗り壁はとてもおとなしい妖だ。

 こうして時々人を困らせるくらいで、人に害をなすとかはない。

(どうしようかなー)

 塗り壁の気がすむまで待ってもいいけど、それだと下手すると何時間もかかる可能性が。

 お昼時には店にいたい気持ち。だって店長の無愛想じゃあお客さんが逃げちゃう。

 諦めて他の道を聞いて探そうかと気分を変えた私の耳に、意外な声がかかる。

「定食屋の娘さん?」

 この穏やかで優しい声音は。

 ばっと振り返ると、紅葉のような赤毛と、金の目、黒い首巻きをした青年が幽鬼を伴って立ってた。

「青薔薇の、君」

「え?」

 はうわー!? 本人の目の前で心の言葉を口にするとか恥ずかしすぎかーーー!?

 あわあわする私は青薔薇の君に落ち着いて、と合図される。

「す、すみません。お客さんをあだ名で呼ぶなんて」

「ははは、もういいよ。びっくりしたけど」

 青薔薇の君さんは持ち前の穏やかさで、笑う。幽鬼は変わらず傍に浮いていた。

「どうしたんだい?」

「あ、出前に来たんですけど道に迷って」

 ほら、と指差す先には塗り壁。ああ、と納得したように青薔薇の君は頷いた。

 塗り壁の元に歩いて行って、塗り壁に手を触れながら何かを喋っている。

(塗り壁と喋る?)

 塗り壁は喋れない妖だったはずだけど。

 首を傾げる私を放っておいて、颯爽と歩いて戻って来た青薔薇の君は、後ろを指差す。

「通れるよ」

「えっ」

「塗り壁さんと話して通れるようにしてもらったんだ」

「ありがとうございます!」

 まずは礼。それから疑問をぶつけてみる。

「どうやって説得したんですか?」

 会話していることはこの際置いておこう。突き詰めたらキリがない。

「通れなくて困ってる人がいるから、ちょっと通してくださいって。おっと、早く行かないとまた通せんぼされちゃうぞ」

「わあ、それはまずい」

 ばたばたと、青薔薇の君もついてきた。通り過ぎるすきに、

「ありがとう」

 と塗り壁に礼を言う。

 ゆらりと壁が揺れた気がした。

「どうしてあなたまで?」

「あー、お腹がすいたからかな」

 お腹をさすりながら青薔薇の君は言う。時間もいい頃だった。

 ということは、うちのお店に来るってことかな?

「まいどありっ」

「えー、定食屋さんで食べるとは言ってないんだけどなぁ」

 爽やかに笑う青薔薇の君は、意地が悪そうには見えず。

 笑い合う。折角通り越せたんだし、と思いついたことを聞いてみる。

「あの、聞いてもいいですか?」

「俺で答えられることなら」

 店への道を歩きながら、疑問に思っていたことを心の中で指折り数えていく。

「どうして塗り壁と喋れるんですか?」

「それが俺の力だから」

「─」


 人の中には、"力"を持つものがいるという。そういう人は人と言わず、妖人(あやかしびと)と呼ばれた。

 妖人の定義はとても広い。例えば、妖と人の混血児も妖人と呼ばれる。


「妖人だったんですね」

「そうだよ、びっくりした?」

 首を振る。

 青薔薇の幽鬼を連れている以上にびっくりすることなんてあるだろうか。……ないと思う。

「俺ができるのはただ一つ、意思疎通ができない妖と喋ること。子供の頃からできたんだ」

 座敷わらしと話して家族にびっくりされたことがあるよ、と青薔薇の君は苦笑する。

「もしかして、幽鬼とも?」

 確信を持って問いかけた。

 青薔薇の君の表情は消える。一瞬の間、後ろに漂う幽鬼を見上げた。

「喋れるよ」

 青薔薇の君は悲しそうに笑う。いつも朗らかな青薔薇の君の、唯一みた悲しそうな表情だった。

「すみません、踏み込んだことを聞いて」

「あはは、いいよいいよ。でも君は変だね。俺の名前を聞かないなんて」

「あ!」

 忘れてた!

 私の様子に笑いを堪える青薔薇の君に、恥ずかしくなってオカモチで顔を隠す。

 オカモチから顔を覗かせて、涙を拭う青薔薇の君をみる。

 改めまして。

「あの、お名前は?」

「─来犬(らいけん)

「私は、風花(ふうか)です」

「もう青薔薇の君なんて呼ばないでね。さすがに恥ずかしいから」

「はい!?」

 返事をしながら、店先が見えて、私は走る。顔を見られるのが恥ずかしかったし、青薔薇の君、改め来犬さんにこれ以上微笑みかけられるのは心臓に悪かった。

 店内に入り、続いてきた来犬さんはいつも通り幽鬼を伴っていつもの席へ。

 昼時はこれから、忙しくなる前の静けさだった。

「ご注文は?」

 お茶を淹れて出す。お品書きをちらりと横目にして、来犬さんは一言。

「今日はかけ蕎麦で」

「はーい! 店長、かけ蕎麦いっちょー!」

「あいよー」

 やる気のない店長の声が奥から響いた。

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