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奏鵺街の日常。  作者: 蒼銃
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白磁竜の姫とふりる

 体が大きいだけでからかわれた。

 喧嘩の相手にされた。

 怖がられた。


 大きな白い体。二m近い。

 太くて白い尻尾。

 ギュルリと巻いた角。

 白いつるつるの肌。

 白いタテガミ。

 青い目。


 私は竜人(りゅうじん)

 人の形をとった竜。肌は鱗かつるつるで、角がある。手足は爪があって。体は頑丈で大きい。小さい個体もいるけど、ほとんどいない。


 親は言う、そういう星の元生まれたのだと。

 だから強くなれ、賢くなれ、大きくなれ、竜人であれ。


(やだ)


 私は、私でいたかった。



「はぁ」

 今日も全滅。

 洋装のふりるがふんだんに使われた服を、私の大きさの服を探して早数ヶ月。

 そんなものは、存在しないと何件も言われた。そのたびに諦めようとして、でも諦められなくて、私は探し続けた。

 和服も可愛い。モダンな柄にすれば、もだんがーるに早変わりだ。

 和服は大きさもあるし、それにすればいい。と母には諦めるように強く勧められた。

 でも、諦めたくなかった。

 可愛い服をきて、写真を撮って、可愛い私を演出する。

 すると王子様が迎えにきてくれるのだ!

 竜人でも人型をとれる高貴な方が、私の白磁の鱗を求めている。

(いないなんてわかってる)

「だいたい王子様はおとぎの国の話だし、おとぎの国に竜人はいないし!」

 ぶつぶつ呟きながら尻尾を振り回す。

 今日はいつもと違う洋裁店に行ってみよう。なんども来店するのも恥ずかしいし、もしかしたら他なら私の大きい体に合う服を作ってくれるところがあるかも!

 そう思いながら奏鵺街の南のほうに歩く。道行く人が道を開ける。


 知ってる、みんな私が怖いんでしょ?

 この体のせいで、お友達もできなかった。

 同じ竜人? みんな私を見下してくるから。

 竜人のくせに弱いだとか、竜人のくせに可愛いものが好きだなんてとか。

 そんな感じで私にはお友達もいない。


 と、右手に店先に並ぶ可愛い小物のお店……!

 ここなら、あるかも!

 店の名前は、『桜歌屋』。

 店は、落ち着いた雰囲気の佇まいだった。私の他に客は二人。

 店内にあるのは、布と小物だけ。

 おぉだぁめいどのお店か、ちょっと手が出ないかな、なんてお店の奥で座る、上品なおばさまに声をかけてみる。

「あのぅ、ここは洋装は取り扱っていますか?」

「はい、お取り扱いございますよ」

 にこりと眼鏡の奥で黒い瞳が垂れる。

 喜びに飛び上がりそうになる私はぐっとこらえ、次なる言葉を発しようと口を開いた。

「ふりるをあしらったわんぴーすが欲しいんですけど──」

「ハッ! お前のような竜人が洋装を着るとは、孫にも衣装! これは傑作だ!」

 二人いた一人の客が私の背中から声をかけてきた。

 な、なんなのこの人?

 高そうな仕立てのすーつに身を包み、高そうな小物で揃えた男の人は、どう見ても身分が高い。

 逆らったら何されるか……。

 いきなり言われた驚きと恥ずかしさで、顔に熱がこもるのがわかる。

「竜人は大人しく布でもつけていればいいのさ」

 何も言い返さない私をみて、男の人は言い募る。

「大体、竜人ごときが服を着るのがおこがましいんだ。出入り禁止にしちゃえばいい! なぁ、店主──」

 悔しくて、店を飛び出そうとした私の肩を誰かが抱き寄せる。

「失礼」

 もう一人いたお客さんが、ぬっと私の隣に立っていた。その人が私の肩を抱いていた。

 私より巨体の人。撫で付けた黒髪に優しげな金色の瞳。

 上品な仕立ての紋付着物に、上着。帽子という、どっからどうみてもご隠居さんという雰囲気だけど。年は五十代のおじさま。

 二mの私を越す巨体の人がいるなんて……!

「君の独断で店の方針を決めるのは荒っぽいんじゃないかね」

「なんだと!?」

 男の人も負けじと言い返す。一触即発。

「それにうら若き女性にかける言葉とは到底思えぬよ。育ちが良くても女性に対する振る舞いを習わなかったとみえる」

 そこでご隠居さんは、私を見下ろしてきた。とても優しい金の目に私は吸い込まれる。

「お嬢さんの心意気とても感服いたしました。閉ざされた街で新しいものを取り入れるというのは、なかなかできることではありません」

 私はご隠居さんの目から視線を外せず、確かめるように何度も何度も頷いた。

「店主!」

 私を含め、呆然とするみんなを放っておいて話を進めていくご隠居さん。

「このお嬢さんに似合う洋装のふりるを仕立ててください」

「かしこまりました」

 丁寧な物腰で答える主人さん。

 そこでご隠居さんは、私の肩から手を離す。

「請求先はいつものところで」

 ご隠居さんはかぶっていた帽子をちょっと動かし、店を出て行こうとして、振り返る。

「とてもよい服を着ていても、着せられているようではまだまだですね」

 男の人に言い、最後にご隠居さんは私を見た。

「お嬢さん、今の貴女を貫いてくださいね。素敵ですよ」

「は、はい! ありがとうございました!」

 にっこりと笑顔を残し、ご隠居さんさんは店の鈴を鳴らして店を出て行った。

 残された男の人は逃げるように店を後にする。

 そして私は……。

 近づいてきた店主さんに引きずられ奥に連れていかれると、採寸をとられ、好みの布やふりるを選び、住所と名前を書いて三ヶ月後と約束を取り付けてもらい。

 三ヶ月後、念願のふりるの服を受け取ることとなった。

 着るのはまだ勇気がなくてできないけど、いつかこれを着てあのお店に行き、店主さんやあの時助けてくれたご隠居さんにお礼を言いたい。

 素敵って言われた言葉を大事にしたいし、私は私なりに、私を追求していきたい。

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