花村はにやりと笑った
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え?嘘でしょ。
ぜんっぜん知らなかった。
あたし、もう一度ベンチに座る。
「物凄い束縛したがるから、俺から別れようって中二の時にフったんだけど、ちょくちょく連絡とか来たり、家に来たりしてたんだよね」
「……証拠は?」
「ない。まあ、信じなくてもいいや。これで、お前が来なかった理由がわかったから」
来なかったって言うのは、卒業式の日のことだろうか。
「で、でも、ちゃんと写真だって送られて来てたんだから。あたしがあげたチョコがゴミ箱に入ってる写真」
「あの日、お前からもらった後、鞄の中に入れておいたんだけど、帰ったらなくなってた」
「……ま、まなえが?」
「多分ね。俺、それがどうしてもお前に言えなかった」
うーん、嘘言ってるようには見えない。
というか、昔から五十嵐は嘘が下手くそだった。
からかい方もど直球だったけど、人の褒め方もそうで、素直にあたしの考えを認めてくれる奴だった。
そっか……なんだ。
「卒業式の日に、全部話すつもりだった。でも、メールの返事も卒業式の日も来なかったし、成人式では逃げられるし……そういえば、お前のあの時の逃げ方凄かった。よく振袖であんなイノシシみたいに走れ……」
「うるっせえんだよ!!」
イノシシってなんだイノシシって!!
「……ぷっ、あはは」
あたしと五十嵐、お互いに顔合わせて笑う。
ばっかみたい。
ほんと、女って男絡むと面倒なんだよなあ。
……あたしもそうか。
「俺さ、中学の頃、お前のこと好きだったよ。お前と話してる時が、一番楽しかった」
「……他の男子たちにからかわれて、迷惑そうにしてたくせに」
「俺もまだガキだったんだよ」
違いない。
あたしも五十嵐も、あの頃は自分の世界を守るために必死だった。
「んじゃ、俺そろそろ行くわ。久しぶりに会えてよかった」
「あっ、あたしも花村のおつかいの途中だった」
「お前、いい友達持ったな」
「え?」
「俺のことここに呼んだの、あいつだよ」
……はっ?
あたしの話聞きながら端末いじってたのって、もしかしてこいつのこと呼び出してたの!?
うわ、謀ったな花村の奴。
「今度俺が働いてる店、遊びに来いよ」
「ああ、そのうち行くーーそれじゃ、ね」
あたしは、五十嵐に背を向けた。
「なあ、月川」
と、再び五十嵐に声をかけられて振り返る。
「彼氏、大事にしとけよ」
「……おう」
あたしは、左手の薬指を見せびらかしておいた。
「食わせ過ぎて太らせねえようにな!」
「うるせえ!ばーか!」
そうして、あたしと五十嵐は、笑顔で手を振って別れるのだった。
買い物を終えて、花村宅へと帰宅後。
「おっせえわ!」
戻って早々、花村にどやされた。
「さーせん。ーー花村、あとでちょっと台所貸して」
あたし、スーパーの袋をどすんとテーブルに置く。
「チョコ作る」
花村はにやりと笑った。