うわーん、花村ぁ
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この道を歩くのは随分久しぶりだった。
一昨年までは花村と同じマンションに住んでたけど、引っ越してからは滅多に訪れてなかった。
あたしは、周りの風景を懐かしみながら歩く。
近くのスーパーまでは、歩いて五分くらいだった。
スーパーに着いて、目の前に飛び込んできたのは、バレンタインブースだった。
ついでに買って行こうかなー。
なんて思いながら、宝石みたいにキラキラしたチョコをガラスケース越しに眺める。
うーん、あたしもチョコ食べたくなってきた。
「月川?」
と、ふいに横から男の人に声をかけられた。
「あ、やっぱり。変わってねえな!……って、俺のこと覚えてる?」
……あ……あ……い、今すぐにでも忘れてしまいたい。
この、声。
この、笑顔。
五十嵐和馬……!!
なんでお前がここにいる!!
「あ……えと……」
「五十嵐だよ。中学の時の」
「あ、うん。お久しぶり、です」
「なんで敬語?マジで覚えてない?……にしても、変わってねえな。どうせ、今も自分でチョコ買って食おうとか考えてたんだろ。だから、いつまで経っても豚さんなんだよ」
……ぶちっ。
「誰が豚だ。最下級生物の分際で、舐めた口聞いてんじゃねえよ。くそが。埋めるぞ」
「……やっぱり変わってねえな、お前」
……はっ。
やばい、つい本音が。
「買いもん?」
「まあ」
「ちょっと、話さね?外のベンチで」
「……急いでるんで、失礼します」
そう言って立ち去ろうとすると、腕掴まれた。
「まあまあ、そう照れんなって」
ずるずるずると引きずられる。
そういえば、こいつ昔からとんでもない馬鹿力だった。
「離せ!離せー!」
うわーん、花村ぁ。