バレンタインは、トラウマなのだ
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後日、ある女友達から連絡がきた。
『五十嵐に、チョコあげたんだって?』
ってメールが来たから、素直に「うん」って返した。
そしたら、直ぐに一枚の写真が送られてきた。
それは、あたしが五十嵐にあげたチョコがゴミ箱の中に入ってる写真だった。
女友達曰く、「月川からチョコもらったわ。あいつ、マジきめえんだけど」とか言って、男友達に見せびらかした後で捨ててたらしい。
あたしは、それから五十嵐とは完全に関わりを絶った。
卒業式の数日前、五十嵐からメールで『少し早いけどバレンタインのお返しがしたいから、式の後で裏門に来てほしい』とか誘われたけど、あたしはそれを完全に無視した。
どうせ、他の男子たちと一緒にあたしをからかいたかったんだろう。
それ以来、あたしはチョコを手作りしたことはない。
高校、大学は女子校だったし、好きな人もいなかったから、男の人にあげようとは思わなかった。
男の先生とかに義理であげたことはあったけど、捨てられないよう、高級チョコブランドのものを買ったりして、工夫した。
だから、まあ、つまり、バレンタインは、あたしにとってのトラウマなのだ。
宗旦狐が、あたしの作った物を捨てることはないと思う。
でも、本命チョコを普通に捨てられるような人であることに変わりはない。
それがたとえ、彼女であるあたしへの気遣いだったとしても、許せんもんは許せんのじゃ。
その話をすると、花村は端末をいじりながら「闇が深すぎる」と言って首を振った。
さっきからなんか、ずっと端末で誰かと連絡取り合ってる。
「同じ中学通ってたのに、うちそれ全然知らなかったわ」
「花村とは中学の頃一回も同じクラスじゃなかったからね」
「ってか、五十嵐の奴、性格悪すぎだろ。五十嵐って言うと、女子友達多いってイメージあったけど。あいつ、もしかしてモテてたの?」
「さあ?もう興味ねえわ。とにかく、あたしは絶対もうチョコは作らんって決めてんの」
「でも、それは五十嵐がクズだっただけで、宗辰さんは別でしょ」
「それはそうだけど……たかだかチョコでしょ。毎日ご飯は手作りなんだし、チョコくらい市販でもいいじゃん」
「そういうことじゃないと思うけど。……あぁ!しまった、食い過ぎた」
と、花村、今しがた巧さんのために作ったお煎餅が最後の一枚になってることに気づいて悲鳴を上げる。
「えっ、他に別で分けてあんのかと思ってた」
「分けてない!巧さんとの待ち合わせ時間は六時だから、まだ間に合う!」
確かに、まだ午後三時だから、なんとかなりそう。
「ちょっとなるみ、材料買って来てくれる?うち、台所準備しておくから」
「……へいへい」
あたしは重い腰をあげた。