こいつ……噴き出しやがった
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そして、二月十四日。
「ーーつまり、妬いてるわけだ」
「だから、妬いてないって」
ばりっと煎餅を齧る。
あたしは、花村の家で花村手製の煎餅を試食しながら昨日のできごとを聞いてもらってた。
家の中は香ばしい匂いで溢れかえってる。
「だってさ、他の子から本命チョコもらったからもう手作りチョコあげないって、それ妬いてるとしか言わないでしょ」
花村はキッチン周りを片付けながらそんなことを言った。
いや、別にそういうことじゃないんだよ。
たとえ、宗旦狐が本命チョコをもらわなかったとしても、あたしは手作りチョコはあげなかったと思う。
「でも、なんで他の子からもらった本命チョコを宗辰さんが捨てようとしてあんたが怒んの?」
「だって、信じらんないでしょ!本命チョコだよ!?それを捨てるって、一生懸命作ったその子の気持ちはどうなんの」
「じゃあ、宗辰さんの気持ちはどうなんの?」
……う。
そう、なんだけど。
「じゃ、じゃあさ!巧さんに彼女がいたとして、花村がお煎餅あげるとすんじゃん?巧さんが彼女のためにそれ捨てたら、どう思うよ?」
「そりゃ悲しいけど、彼女の方が大切なら仕方ないんじゃね?……てかさ、違くない?」
「なにが?」
「宗辰さんの彼女であるなるみが、なんで宗辰に本命チョコあげた子を擁護してんの?同情?」
「ち、違う!ただ、その子の気持ちがわからなくもないから……!」
「あのね、なるみが宗辰さんの彼女である限り、本心からその子のことを思ってたとしても、その子にとってはどうしたって同情になるよ。捨てられるより、好きな人の彼女に同情される方がよっぽど惨めだから」
……うぅ。
でも……でも捨てるのは……あんまりじゃないですかあ。
「なんでそんな熱くなってんの?そういえばなるみ、毎年バレンタイン近くなると荒れるよね」
と、花村は座ってたあたしの向かい側に座って煎餅を齧る。
そして、「結構いけんじゃん」とか言ってさらにもう一枚手を伸ばした。
「もしかして、バレンタインに振られたことあるとか?……んなわけないかー、なるみ、小学校も中学校もぜんっぜん男興味なかったもんねー」
あたしは、じろりと目の前の幼馴染を睨んだ。
「貴様は一体、あたしの何を見てた」
「へ?」
「好きな人くらいいたわ!」
話したことなかったけど。
「えっ、まじっ?いつっ?だれだれだれっ?」
「……五十嵐」
「ぶっ」
こいつ……噴き出しやがった。