一日中不機嫌だった
3
数分後、宗旦狐は戻ってきた。
その手には、しっかり紙袋が握られてる。
「さっき学生の子に偶然会って、チョコをもらいました。なるみさんも食べませんか?」
……こいつ、にこやかに、さらっと嘘を吐きやがった。
「いらないです」
「……なるみさんが食べ物を拒否するなんて、具合でも悪いんですか?」
どういう意味だゴラ。
「それ、どう見ても本命じゃないですか」
「妬いてくれてるんですかっ?」
「違います」
別に、妬いてない。
妬いてるわけじゃない。
宗旦狐は肩をすくめて、紙袋の中を開けた。
紙袋の中からは手紙と、手作りらしいマフィンが出てくる。
宗旦狐はその手紙に目を通してから、あたしに読むか目で問うた。
あたし、首を横に振る。
「なるみさんは、これをどうしてほしいですか?」
「宗辰さんがもらったんですから、宗辰の好きにしたらいいと思います」
「じゃあ、捨てましょうか」
「はあっ!?」
宗旦狐がびくっと肩を震わせた。
「なに考えてんですか!?見損ないました!!」
「……じゃあ、どうしたら?」
「そんなの、自分で考えてください!」
ほんっとに、見損なった。
宗旦狐の彼女であるあたしの口から、食べてあげてくださいなんて、そんな同情みたいなこと言えるわけない。
本命のチョコを捨てるなんて以ての外。
宗旦狐は、眉をひそめた。
「なるみさん、なにをそんなに熱くなってるんですか」
「……別に。とにかく、捨てたりしたら絶交ですから。ーーよかったじゃないですか、本命の手作りチョコマフィンもらえて!」
あたしの口からは、ぺらぺらと宗旦狐を刺すような言葉が紡がれる。
「やっぱり妬いてますよね?俺が欲しいのはなるみさんのだけ……」
「知りません!ーーほらもう、在学生の成績はつけ終わったんですかっ!?さっさとお仕事して帰ってください!」
その日、あたしは一日中不機嫌だった。