めでたしめでたし……なのかなあ?
11
「ただいまー」
「なるみさんっ」
きたきた、大きな狐。
見えない尻尾ぶんぶん振ってるのがわかる。
「おかえりなさい。お煎餅、うまくできましたか?」
「美味しかったですよ。告白するのにお煎餅渡すって、なかなかシュールですけど」
「巧くんは恋愛に関しては自分から動かないから、花村さんくらいリードしてくれる女性がいいかも知れませんね」
言えてる。
巧さんは、そろそろ妹離れしたほうがいいと思うし。
「でっ?」
と、唐突に期待の眼差しを向けられた。
あたし、苦笑しつつ、バッグからそれを取り出す。
「はい、さっきコンビニで買ったチ◯ルチョコです」
宗旦狐の手のひらに、さっきコンビニで買ったチロルチョコをころころと転がす。
「……チ◯ルチョコ」
あからさまにしょんぼりした。
うん、そのがっかりした顔が見たかった。
満足。
「ふふ、嘘ですよ。はい、これ」
あたしは手作りチョコが入ったラッピング袋を出して渡した。
宗旦狐の顔がぱあっと明るくなる。
「手作りですかっ?」
「大した物じゃないですけど」
クッキーを砕いて、チョコで絡めたお菓子。
マフィンなんかと比べ物にならないくらい、簡単なお菓子だ。
「嬉しいです。永久保存しておきます」
「いや、食ってください。カビるから」
「……じゃあ、写真を」
宗旦狐は、渋々端末で連写し出す。
撮りすぎじゃね?ってくらい連写する。
ーーそうだよね。
あたしが今好きな人は、この人だ。
そして、宗旦狐もあたしを好きでいてくれる。
それで十分だ。
あたしは、連写を続ける宗旦狐に後ろから抱きついた。
「なるみさん?」
「宗辰さん、ごめんなさい。……昨日、本命チョコ渡してた後輩と昔の自分が重なっちゃって、宗辰さんの気持ち蔑ろにしてた。あと、やっぱりちょっと妬いてたかも」
宗旦狐がこっちを向いて抱きしめながら頭を撫でてくれる。
「気にしないでください。ーー俺、結構排他的なんです。なるみさん以外の女性に興味はありません。でもって、なるみさんにも、そうであってほしいと思ってます。俺以外、男として見てほしくないです」
ええっと。
頭を撫でてる手と口調は物凄く優しいんだけど、仰ってることは結構物騒よ?
宗旦狐は、あたしの両肩を掴んで、笑顔で問いかけてくる。
「本命チョコ、誰に渡したことがあるんですか?」
……めちゃくちゃ怖いんですけど。
「いや、渡したけど、結局捨てられたから。だから、食べてくれるのは宗辰さんが初めてで……」
「なるみさんの本命チョコを捨てたやつの連絡先ください」
「なにする気ですか」
「呪い殺します」
目が本気なんですけど!!
マジでやりそうなんだけど!!
「呪わないで!呪ったら穴二つ空いちゃうから!大丈夫、あたしが今好きなのは宗辰さんだけです!!あー、宗辰さん好きだわー!めっちゃ好きだわー!」
「……ほんとですかっ?」
「ほんとほんと。宗辰さんしか見えませんからね。もう、過去とかどうでもいいです」
めっちゃ嬉しそう。
ちょろいな。
「じゃあ、今夜はなるみさんのこと好きにしていいですよね」
……は?
「チョコレートには媚薬の効果があるそうですよ、なるみさん」
宗旦狐はそう言って、笑顔であたしのチョコを食うのだった。
ーー後日、花村からきた連絡によると、巧さんは友達からならと、とりあえずオッケーしてくれたらしい。
これにて、めでたしめでたし……なのかなあ?
おわり