コンソメスープにカカオ豆入れますよ
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二月十三日。
梅の花や河津桜が綺麗に咲きほころぶ頃。
あたし、月川なるみは、激怒していた。
その日は、ちょうど大学資料室の出勤日だった。
卒業生の成績発表の日で、その成績に対して異議申し立てに来る学生のため、大学の先生たちも出勤することになってる。
宗旦狐は四月までは非常勤講師のため、別に来ても来なくてもってポジションなんだけど、なぜか資料室にいる。
別に今更、追い出したいとは思わないけど、こうもべったりついてこられるのもさすがに鬱陶しい。
というか、なによりーー
「なるみさん、カカオの美味しい季節になりましたね!俺はビターでもミルクでもホワイトでもなんでも好きですよっ?」
一週間前からこうやって、うきうきるんるんしてる狐を見るのにいい加減、嫌気がさしてた。
めちゃくちゃチョコ強請ってくるんですけど。
最初は愛い奴じゃのぅ、とか思ってたけど、そろそろ苛ついてきたよ?
「もうコンビニに売ってる棒チョコでも齧ってればいいんじゃないっすか」
「なんでそんな無気力なんですかっ……!?」
誰がそうさせたんだよ。
「わかりましたって。チョコでしょ?バレンタインでしょ?わかってますから。ちゃんと美味しい奴買ってあげますからね」
よちよちよち。
あー、そういえば明日、花村の家に呼ばれてんだった。
巧さんにあげるお煎餅作るとか。
巧さん、甘いもん嫌いだからな。
花村なりに考えたんだろう。
でも、なんか渡す物がお煎餅ってなると、一気にバレンタインがお歳暮とかそっちのイメージになるな。
「なるみさん、今、買うって言いました?」
と、未だ納得できない様子の宗旦狐。
「言いました。チョコケーキがいいですか?それとも固体がいいですか?」
「違う!!」
うわっ、びっくりした。
いきなりそんなでかい声出さないでほしい。
「なるみさんの手作りが欲しいんです!!」
「……手作り、ですか」
「はい!」
「……い、いや、です」
「なんでですか?」
「い、嫌なもんは嫌なんです!!」
負けじと大声で張り合う。
宗旦狐はあからさまにしょんぼりした。
あーもう、やめてくれ。
その顔させるととんでもない罪悪感覚えるんだから。
「そ、そんな顔しても、作りませんから」
「……もしかして、なるみさん、お菓子作りが苦手とか?」
「あ、はい。そうです。そうなんです。だから、宗辰さんには確実に美味しい物食べてもらいたいんですよ!」
宗旦狐、疑いの眼差しをあたしに向けてくる。
あたし、その目から逃れるため、思わず顔を逸らした。
「絶対違いますね。ーーでも、そうであったとしても、俺はなるみさんの手作りがいいです」
「あんまりしつこいと今日の晩御飯のコンソメスープにカカオ豆入れますよ」
自分で言っておいてあれだけど、どんな味すんだろう。
宗旦狐もそう思ったのか、とてつもなく微妙な顔をしてた。