3話
よろしくお願い致します(*・ω・)*_ _)ペコリ
{AM9:00}
暖炉の火がパチパチと弾け、朝日が部屋の窓から差し込む朝特有の静けさの中、食堂では自分達が仕える主達の朝食の準備等で人が軽く溢れていた。
かく言うデリトもそのうちの1人だ。
ティーアーンを用意し、一人一人紅茶を注いで行く。
「奥様、こちら西国からお取り寄せ致しました茶葉にございます。風味はおだやかですので、ストレートも美味しいのですが、ミルクティーでも堪能いただけるかと存じます、如何がなさいますか?」
デリトが奥様と呼んだ30代半ばの女性。
この女性こそミネラス公爵家夫人であるシルファーネ・フォン・ミネラスその人である。
サラシャと同様の薄紫色の髪をしている、しかし顔立ちはキリッとしたカッコイイ系美人である。
「ありがとう、デリト、ストレートでお願いするわ。……ところでデリト、私は今夜寝る前にワインを飲みたいのだけれど……例のワインは手に入れることが出来たのかしら?」
「はい、奥様。ワインの産地であるコンザ村から取り寄せた最高級ワイン『コンザウィード』が先日ワインセラーに届いたのですが……」
デリトはストレートティーを注ぎながら何か含ませる言い方をした。
「ですが? と言うことは何かあったのかしら……私のワインに」
「えぇ、奥様。大変申し上げにくいのですが賊が入った様でして……奥様のワインが少々減っておりました」
その言葉にギクリと体の動きを止めた金髪の美丈夫な男性。
彼こそがこのミネラス公爵家当主であるディートリヒ・フォン・ミネラスである。
そしてもう1人、背中から冷や汗をどっぷりとかき始めている赤髪の男性。
デリトの父親であるランドなのだが……、今回の主犯はこの2人だ。
デリトは父親に「精々絞られるといい」と一切の情をかけずに話を進めていく。
そしてシルファーネもその意図に気づいたようで……。
「あらあら……それは困ったわね。デリト、犯人の目星はついているのかしら?」
「はっ。奥様、目星はついているのですが些か面倒なことになってしまいました」
「あらまぁ、目星は付いているの? 流石デリトね、ところでそのお馬鹿な犯人さんはまさかこの場にいたりしないわよね?」
「おりますね。そこにいる赤髪の男と」
デリトは自分の父親を指さし、「そして」と話をつなげる。
「現当主様であられるディートリヒ様にございます」
「あらまぁ! ディー、ランド、何故私のワインが減っているのかしら?」
シルファーネはニコニコ笑っているが目が一切笑っておらず、謎の威圧力を持ってディートリヒとランドを恐怖のどん底へとたたき落とし、肩をガタガタと震わせている。
この場にいるもう一人の少女、サラシャはいつものことだ、と無視を決め込んで黙々と朝食を食べていた。
「ディー、ランド。貴方たちは一週間お酒関連は禁止よ♪」
シルファーネは笑顔で罰を言い放つ。それは見慣れていない者が見れば美しいと感じるはずの笑みがミネラス家の全員には悪魔の微笑みに見えた。
ディーとランドは絶望に満ちた顔をしているが、デリトはさもありなんといった表情を浮かべてサラシャの方へと足を運ぶ。
「お嬢様もストレートティーでよろしいでしょうか?」
「ううん、今日はミルクティーでお願い」
「かしこまりました」
デリトはティーカップに紅茶を注ぐと、追加でミルクを側にいた下級使用人から受け取った。
そしてゆっくりとミルクを淹れていき、一定までのミルクを淹れるとピタッと腕を止めて確認をする。
「お嬢様、ミルクの加減は如何でしょうか?」
「完璧よ、さすが私のデリトね」
「ありがたきお言葉」
デリトは役目を終えるとサラシャの後ろに控えた。
そして時間が経ち、食事の時間がそろそろ終わる、という頃合いになってディートリヒがデリトに尋ねる。
「そういえばデリト君、領地経営の資金の調達についてのことなんだが……」
「はい、当主様。その件につきましてはハウスキーパーのマリアさんと立案、実行に移すための計画を練った書類をセバス様に目を通していただき、許可が下りたので当主様の事務机に提出しておきました」
「そうか、相変わらず仕事が早いな……このままだとランドは用済みかな? ハッハッハ!」
ディートリヒの本気とも冗談ともとれる台詞でランドは若干の冷や汗をかいていた。
しばらくの間談笑が続き、今朝の朝食は終わり、解散となった。
ありがとうございました(*・ω・)*_ _)ペコリ