1話
よろしくお願い致します(*・ω・)*_ _)ペコリ
バトラーであるデリトの朝は早い。
日が少し登る前、まだ父親ともう一人の使用人以外起きていない時間帯。ミネラス公爵家の一室でデリトは仕事が始まる時間にまるで機械人形のような規則正しさで目を覚ます。
デリトはベッドから起き上がると屋敷の裏側にある水汲み場まで向かい、桶に水をすくって顔を洗う。
自室に戻ると質素な水面台にある鏡の前で髪を整髪剤で整え、歯を磨く。
燕尾服を取るためクローゼットのドアを開ける。
中には燕尾服で埋め尽くされており、その殆どが仕事で使う服である。
デリトはその中の一着を手に取り、その場で着替え始めた。
彼がクローゼットから出てきた時には、きっちりと着こなした燕尾服と黒色で光沢のある靴、手袋を嵌めていた。
そして部屋の片隅にある姿鏡の前に立つと彼は細部の乱れを整えた。
姿鏡の中には深紅の髪色にコバルトブルーの蒼目をした17、18歳ほどの少年が立っている。
「今日もお嬢様にとってより良い日となりますように」
☆★☆★☆★☆★
{AM8:00}
デリトは自身の朝食を摂るため、ハウスキーパーの部屋へと訪れていた。
ハウスキーパーとは女性家事使用人の一種で、食料貯蔵室の管理と女性使用人全体の監督を行う上級職だ。
基本的にバトラーや、スチュワードその他アッパー・サーヴァントはハウスキーパーの部屋で食事をする。
デリトはノックをしながらドアを開ける。
「皆さんおはようございます。セバス様お疲れ様です、マリアさん、父上、メイ、早朝からご苦労様です」
部屋の中は大きなテーブルが置いてあり、そこには既に3人の同業者達とその上司が席についていた。
労いの言葉をかけ、軽く頭を下げると下級使用人の給仕が用意してある席へと座る。
「デリト君も来た事だし食べ始めようかね」
そう言って食事の号令をかけたのは白い髭を蓄えた老人、セバスチャンである。彼はこの屋敷でスチュワードの役職についている。
スチュワードとは使用人のトップの職業を指し、執事よりも上の立場の者である。執政である国家または領土において政務を執る立場でもあるため、非常に優秀な人材だ。
「神の御恵みに感謝を」
『神の御恵みに感謝を』
その言葉を期に朝食が始まった。
全員が食事をとっている中、雑談もとい仕事の話が挙がる。
「デリト様、これからお嬢様を起こしに行くのですか?」
茶髪の髪をシニョンにして普通のメイドより少し素材の良い服を着ている少女、メイが尋ねる。
「ええ、食事の後アーリー・モーニング・ティーをご用意してお嬢様を起こしに行って参ります。ところでメイさんはメイドのお仕事に慣れましたか?」
「ボチボチですね、母にはまだ及びませんが……」
「メイ、私の事は母ではなく家政婦長と呼びなさい。この場では皆さん分かってくださいますが普段そのような発言は許されませんよ」
「申し訳ありませんでした、家政婦長」
これまたメイにそっくりな顔立ちに髪をシニョンにした女性。ハウスキーパーであるマリアだ。
「父上、私はこの後お嬢様を起こして参ります。その後酒類の管理、当主様方の朝食の準備、そしてお食事がお済み次第銀食器の後片付けをしておきます。何か他に片付けておく仕事はありますか?」
「最近お前が完璧すぎて俺の仕事が無くなってるんだが……。まあ、敢えて言うなら昨日当主様のお話にあったお嬢様の入学する学院の前準備くらいだろう。その辺りはそのうちお嬢様がお前と王都へ買い物に向うだろうから追々知らされるはずだ」
「承知しました。しかし父上、昨日酒類の管理をしていたのですが少々ワインが減っておりました、記録に残っていないのですが……まさか父上が飲んだ、なんて事はありませんよね?」
その言葉にたらりと冷や汗をかいたランドは壊れた人形のように首を縦に振りまくった。
「いいいいいいいいや、そそそんな訳ないだろう?」
「そうですか、では当主様ですね。奥様に御報告しなくては……」
ランドはどこで育てかたを間違えたのかと憂鬱になる。
昨晩、デリトの言っていた通りミネラス公爵家当主であるディートリヒ・フォン・ミネラスの愚痴を聞きつつ、くすねたワインと高級チーズをディートリヒと堪能していたのだ。だが、自分の息子なら率先して参加する様に育てたつもりがどこで間違えたのか真面目君に育ってしまった。
そして奥様――――シルファーネ・フォン・ミネラス夫人に報告するとなるとディートリヒの未来を想像して寒気がした。
何故ならくすねたワインはシルファーネ夫人のお気に入りだったからだ。
「はぁ、デリト、お嬢様を頼むよ」
ランドはため息を吐きながら朝食を食べる。
ありがとうございました(*・ω・)*_ _)ペコリ